著者の所属・活動拠点の国は、イランです。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
Ziziphora clinopodioides(以下ジフォラ)はシソ科の薬用植物で、イランやトルコ、コーカサスなどに広く分布しています。伝統医療で用いられてきたほか、抽出物は食品の香味付けにも使われています。これまでの研究では、抗酸化作用や抗菌・抗真菌作用が報告されています。一方で、この植物に含まれる有用成分の多くは熱、光、酸素に弱く、分解しやすいことが知られています。
そこで研究チームは、抽出物をごく小さな粒子(ナノ粒子)の中に閉じ込める「ナノカプセル化」に注目しました。包む材料には、カニなどの殻に含まれるキチン由来の天然高分子であるキトサンと、アカシアの樹液から得られる多糖類のアラビアガムを選びました。酸性条件でプラスの電気を帯びるキトサンとマイナスの電気を帯びるアラビアガムは、互いに引き合って粒子を作ります。この方法はイオンゲル化法と呼ばれます。研究の目的は、キトサン、アラビアガム、抽出物の濃度の組み合わせが粒子の性質にどう影響するかを調べ、望ましい配合を見つけることでした。
何をどのように調べたか
研究チームは、イランのアルボルズ山脈の斜面で採取したジフォラの地上部を、エタノール80%の溶媒で抽出しました。その抽出物をキトサンとアラビアガムで包んだナノ粒子を作製しました。
配合の検討には、応答曲面法という統計的な実験計画の手法を用いました。この方法では、複数の条件を同時に変えて実験を行い、条件と結果の関係を数式モデルで表します。キトサンと抽出物はそれぞれ3・6・9mg/mL、アラビアガムは0.5・1・1.5mg/mLの3段階で変え、ボックス・ベンケン計画と呼ばれる組み合わせに基づいて15通りの配合を試しました。
それぞれの配合について、3つの性質を測定しました。1つ目は粒子の大きさです。2つ目はゼータ電位で、粒子表面の電気的な状態を示し、粒子どうしがくっつきやすいかどうかの目安になります。3つ目は封入効率で、使った抽出物のうちどれだけが粒子内に取り込まれたかを示します。さらに、赤外分光分析(FTIR)とX線回折分析(XRD)を行い、抽出物が粒子に包み込まれているかを確認しました。
主な結果
論文によると、3つの材料の濃度はいずれも、粒子の大きさ、ゼータ電位、封入効率に統計的に意味のある影響を与えました。中でもキトサンの影響が最も大きかったと報告されています。
粒子の大きさは、抽出物やアラビアガムの濃度が高いほど大きくなる傾向がありました。最も小さな粒子はキトサンが最も高く(9mg/mL)抽出物が最も低い(3mg/mL)条件で得られ、最も大きな粒子はその逆の条件で得られました。著者らは、抽出物が多いと周りを包む材料が足りなくなることが、粒子が大きくなる一因になりうると、先行研究を引きながら考察しています。ゼータ電位は、抽出物の濃度が高いほど上がる傾向を示しました。アラビアガムについては、中程度の濃度までは上昇し、それを超えると低下しました。
封入効率は、キトサンとアラビアガムの濃度が高いほど高くなる傾向がありました。最も高い封入効率は、キトサン9mg/mL、アラビアガム1.5mg/mLの組み合わせで得られています。抽出物の濃度による影響はキトサンより小さいと報告されています。
最適とされた条件では、粒子の大きさは50ナノメートル、ゼータ電位は5.86mV、封入効率は60.63%でした。FTIR分析では、キトサンとアラビアガムが電気的に結びついて粒子を作っていることを示す変化が見られました。XRD分析では、抽出物の結晶に由来するはっきりした信号が粒子の中で消えていました。研究チームはこの結果を、抽出物が結晶の状態ではなく粒子の中に分散して取り込まれたことを示すものと解釈しています。
この研究が示すこと
この研究は、キトサンとアラビアガムという天然由来の材料で植物抽出物を包むとき、材料の濃度の組み合わせが粒子の大きさや取り込み効率を大きく左右することを、統計的な手法で整理して示しました。著者らは、これらの材料が植物抽出物を包み込む担体として有望だと述べています。
一方で、今回調べた抽出物の濃度は最大9mg/mLまでに限られていたことも、著者らは研究の限界として挙げています。また、この研究が扱ったのは粒子の作製条件と物理化学的な性質であり、粒子に包んだ抽出物の生物学的な働きや保存中の安定性は、今回の評価の対象外でした。
原著論文の著者・所属:Anita Ehterami(Department of Food Hygiene and Quality Control, Faculty of Veterinary Medicine University of Tehran Tehran Iran)、Hassan Gandomi(Department of Food Hygiene and Quality Control, Faculty of Veterinary Medicine University of Tehran Tehran Iran)、Mohammad Kazem Koohi(Division of Toxicology, Department of Comparative Biosciences, Faculty of Veterinary Medicine University of Tehran Tehran Iran)、Negin Noori(Department of Food Hygiene and Quality Control, Faculty of Veterinary Medicine University of Tehran Tehran Iran)、Masoud Kazeminia(Department of Food Hygiene and Quality Control, Faculty of Veterinary Medicine University of Tehran Tehran Iran)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anita Ehterami, Hassan Gandomi, Mohammad Kazem Koohi, et al. Optimization of Physicochemical Properties of Chitosan–Gum Arabic Nanoparticles Containing Ziziphora clinopodioides Lam. Extract Using Response Surface Methodology. Food Science & Nutrition 2026-09-01. DOI: 10.1002/fsn3.72318. 原著ライセンス:CC BY.