著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
パーキンソン病は、手足のふるえや動作の遅れといった運動症状に加え、さまざまな運動以外の症状が進行していく神経変性疾患です。世界的に患者の負担が増えている一方で、病気の進行そのものを抑える治療法はまだなく、治療は主に症状を和らげることにとどまっています。そのため、自分で変えられる生活習慣の一つである食事が、予防研究の分野で注目されています。
フラボノイドは植物性食品に広く含まれるポリフェノールの主要な仲間で、紅茶、ベリー類、かんきつ類、りんご、カカオなどに多く含まれます。これまでの研究では、フラボノイドの摂取量が多いほどパーキンソン病のリスクが低いという報告と、長期の追跡ではっきりした関連が見られなかったという報告があり、結果は一致していませんでした。また、多くの研究は個々のフラボノイドや総摂取量に注目しており、フラボノイドを多く含む食品の組み合わせ、つまり食事パターンとして調べた研究は限られていました。
そこで研究チームは、英国の大規模な住民コホート「UKバイオバンク」のデータを使い、フラボノイドを多く含む食品をどれだけとっているかを点数化した「フラボノイド食事スコア」を作成し、病院の記録にもとづくパーキンソン病の新規発症との関連を調べました。あわせて、血液中のタンパク質データや公開されている細胞レベルの遺伝子発現データを用いて、この関連の背景にありうる生物学的な手がかりも探索しました。
何をどのように調べたか
解析の対象は、研究開始時点でパーキンソン病がなく、オンライン形式の24時間食事思い出し調査に2回以上有効に回答していた12万3655人です。フラボノイド食事スコアは、紅茶、緑茶、赤ワイン、りんご、ベリー類、ぶどう、オレンジ、グレープフルーツ、パプリカ(スイートペッパー)、たまねぎ、ダークチョコレートという11の食品群の1日あたりの摂取量から算出され、これらを多くとっている人ほど点数が高くなる仕組みです。複数回の回答の平均値を、その人のふだんの食事として扱いました。
パーキンソン病の発症は、病院の入院記録と死亡登録に記載された診断コードによって把握しました。研究チームは、年齢、性別、民族、教育歴、地域の経済的な困窮度、体格指数(BMI)、喫煙、飲酒、身体活動、睡眠、総摂取エネルギー、持病の数などの影響を統計的に調整したうえで、スコアの高さと発症リスクの関係を分析しました。さらに、地中海食への近さ、コーヒーの摂取、パーキンソン病の遺伝的なリスクを示す指標、自己評価による健康状態を追加で調整するなど、結果がどれだけ安定しているかを多くの角度から確かめました。
探索的な分析として、血液中のタンパク質データがある1万3076人(うち発症163人)を対象に、2908種類のタンパク質の中から、スコアとも発症とも関連するものを選び出しました。そのうえで、それらのタンパク質に対応する遺伝子が、パーキンソン病の患者と対照者から得られた血液中の免疫細胞や、脳の黒質(パーキンソン病で障害を受けやすい部位)のどの細胞で働いているかを、公開データを使って調べました。
主な結果
追跡期間の中央値は13.7年で、その間に796人がパーキンソン病を新たに発症したと記録されました。すべての調整を行った解析では、スコアが標準偏差1つ分高くなるごとに、発症リスクの指標であるハザード比は0.93(95%信頼区間0.86〜1.00)でした。参加者をスコアの低い順に4つのグループに分けると、最も高いグループは最も低いグループに比べてハザード比が0.75(95%信頼区間0.61〜0.93)で、発症リスクが約25%低いという関連が示されました。ただし、この関連は主に最も高いグループで見られたもので、スコアが上がるにつれて段階的にリスクが下がるというきれいな傾向ではありませんでした。
関連の向きは、さまざまな確認のための解析でもおおむね保たれていました。一方で、追跡開始から6〜10年以内の発症例を除いた解析では関連が弱まりました。また、コーヒーの摂取を追加で調整すると、推定値はほぼ変わらないものの統計的には境界線上となりました。個々の食品やフラボノイドの種類別に見ると、多重比較の補正後にも関連が残るものはなく、特定の一品ではなく食品の組み合わせ全体としての関連である可能性と矛盾しない結果だったと著者らは述べています。
タンパク質の分析では、スコアとも発症とも関連した91種類のうち、24種類が「スコアが高いほど発症リスクが低い」という関係と向きの合うものでした。ただし、厳しい基準の多重比較補正をかけると、どれも統計的な有意性は残りませんでした。細胞レベルのデータでは、これらのタンパク質に関わる遺伝子が、血液中の単球やNK細胞、黒質のアストロサイトやミクログリアといった、免疫や神経の炎症、細胞同士の接着に関わる細胞で目立って働いている様子が示されました。
この研究が示すこと
著者らは、フラボノイドを多く含む食事パターンと、病院記録にもとづくパーキンソン病の発症リスクの低さとの間に、小さいながら逆向きの関連が観察されたと結論づけています。これは観察研究で得られた関連であり、食事がパーキンソン病を防ぐという因果関係を示したものではありません。スコアの高い人はもともと健康的な生活を送っている傾向があったこと、病気の前段階で食事が変わっている可能性を完全には否定できないこと、食事調査に回答した人が比較的健康な集団であったことなどを、著者らは限界として挙げています。
タンパク質や細胞レベルの分析は、仕組みを証明するものではなく、神経と免疫の関わりや細胞同士の接着に関わる過程が背景にあるかもしれないという仮説の手がかりとして位置づけられています。著者らは、この結果が食事の推奨に結びつくほどのものではないとしたうえで、ほかの独立した集団での確認が必要だとしています。個々の栄養素ではなく、食品の組み合わせとしての食事パターンに目を向けた点が、この研究の特徴といえます。
原著論文の著者・所属:Wen Yang(Department of Pathology, Affiliated Hospital of Guizhou Medical University, Yunyan; Department of Pathology, Guizhou Medical University, Yunyan)、Zhetian Chen(Department of Neurology, The Second Affiliated Hospital of Hainan Medical University)、Yuanyuan Zhang(Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Renmin Hospital of Wuhan University, Wuchang; Research Institute of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Renmin Hospital of Wuhan University, Wuchang)、Cong Peng(Department of Otolaryngology, Guizhou Provincial People's Hospital, Nanming)、Bin Chen(Department of Neurology, The Second Affiliated Hospital of Hainan Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Wen Yang, Zhetian Chen, Yuanyuan Zhang, et al. Flavonoid-rich dietary patterns and incident hospital-recorded Parkinson's disease: a prospective UK Biobank study. Frontiers in Nutrition 2026-08-10. DOI: 10.3389/fnut.2026.1893517. 原著ライセンス:CC BY.