この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Folia Microbiologica
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を調べようとしたのか
プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)は、ふだんは害を起こさないこともある一方、条件がそろうと感染症を引き起こす「日和見病原体」と呼ばれる細菌です。とくに尿路感染症との関連がよく知られています。研究チームによれば、この細菌の病原性は、体の組織にくっつく性質(付着)、菌が集まって膜状の構造をつくる性質(バイオフィルム形成)、毒素の産生といった複数の性質が組み合わさることで生じます。
著者らが問題としているのは、この菌のあいだで抗菌薬が効かなくなる性質(薬剤耐性)が広がっていることです。耐性をもつ菌が医療の現場だけでなく環境中にも居続けるのであれば、その行き来を把握する必要があります。そこで本研究は、ブラジル南部で小売店の野菜から採られた菌株と、医療機関外で発症した市中型の尿路感染症の患者から採られた菌株を対象に、病原性に関わる遺伝子、薬剤耐性の要因、そして分子レベルでの疫学的な関係を調べたと報告しています。
どのように比べたか
解析されたのは合計310株で、内訳は野菜由来が110株、尿路感染症由来が200株です。著者らは、これらの株について薬剤耐性の状況や耐性に関わる遺伝子、病原性に関わる遺伝子、バイオフィルムをつくる能力を調べました。
さらに、菌株どうしの遺伝的な近さを調べるクローン解析と、ゲノム全体を読み取る全ゲノム配列解析を行っています。全ゲノム配列解析からは、菌の系統を示す分類である「シークエンスタイプ(ST)」が特定されました。
報告された主な結果
複数の系統の抗菌薬が効かない多剤耐性は、野菜由来株で36.6〜42.0%、尿路感染症由来株で16.0%に認められたと報告されています。また、幅広いβラクタム系抗菌薬を分解する酵素である基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)の産生は、野菜由来のグループで32.0%に達しました。
著者らがとくに注目しているのが、カルバペネム系抗菌薬を分解する酵素の遺伝子である blaKPC-2 が野菜由来株から見つかった点で、これは食品の安全にとって重大な懸念だとしています。このほか blaCTX-M の各変異型、fosA3、qnrD といった、重大な結果につながりうる耐性遺伝子が広く分布していました。
病原性については、すべての株が複数の要素からなる病原性の遺伝子プロファイルをもっており、とくに線毛(菌が付着に使う毛状の構造)、タンパク質分解酵素、鉄を取り込むしくみに関わる遺伝子が目立ったと述べられています。バイオフィルムをつくる能力も強い、あるいは非常に強いと判定されました。
クローン解析では、野菜由来株と臨床由来株のあいだに遺伝的な近さが認められ、区別のつかないプロファイルを示すものも含まれていました。全ゲノム配列解析では両者に共通するシークエンスタイプが確認され、なかでもリスクの高いクローンとされる ST773 のほか、国際的に報告されている系統である ST135 と ST336 が挙げられています。また、blaKPC-2 の周囲にある可動性遺伝因子(遺伝子が菌から菌へ移動する際に関わる構造)の並びが、保存されたかたちで構造的に特徴づけられました。
この報告が示すこと
著者らは、これらの結果から、食品に関連するプロテウス・ミラビリスが、病原性と多剤耐性をあわせもつ系統の農業環境における活発な保有源(リザーバー)として働いていると結論づけています。そして、人と動物と環境の健康をひとつながりで捉える「ワンヘルス」の枠組みのなかで、これは監視されていないリスクであると指摘しています。
なお、ここで紹介したのは、野菜由来株と臨床由来株のあいだに遺伝的なつながりが見いだされたという報告であり、実際の伝播の経路そのものが追跡されたものではありません。それでも、食卓に並ぶ野菜と人の感染症を別々の問題として扱うのではなく、同じ視野で見る必要があることを、この研究は示しています。
著者:Luana Carvalho Silva(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Gustavo Henrique Migliorini Guidone(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Bruno Henrique Dias de Oliva(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Arthur Bossi do Nascimento(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Nathalia Geovana Nascimento Santos(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Beatriz Lernic Schoeps(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Bianca Mayumi Susuki(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Bruna Larissa Covezzi(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Luana Karolyne Salomão de Almeida(Department of Pathology, Clinical and Toxicological Analysis, Health Sciences Center, University Hospital of Londrina, State University of Londrina, Paraná, Brazil)、Eliana Carolina Vespero(Laboratory of Bacteriology, Department of Microbiology, Center of Biological Sciences, State University of Londrina, Londrina, Brazil)、Sergio Paulo Dejato da Rocha(Department of Microbiology, Center of Biological Science, State University of Londrina, Rodovia Celso Garcia Cid, PO-BOX 6001, Londrina, 86051-980, Paraná, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Luana Carvalho Silva, Gustavo Henrique Migliorini Guidone, Bruno Henrique Dias de Oliva, et al. The agroenvironmental-clinical link of Proteus mirabilis: Genomic epidemiology, clonal relationships, and shared resistance and virulence profiles. Folia Microbiologica 2026-09-17. DOI: 10.1007/s12223-026-01594-z. 原著ライセンス:CC BY.