この研究は、アイルランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Applied Food Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食品の水分量は、安全性や保存性、食感などを左右する重要な品質指標です。乾燥工程では水分をどれだけ、どのように抜くかが製品の出来を決めますが、従来の水分測定は試料を壊して測る破壊的な方法が中心で、分単位で進む乾燥中の変化を追うには向きません。

研究チームが着目したのは、マイクロ波真空乾燥(MVD)と呼ばれる乾燥法です。真空下でマイクロ波を当てて食品内部の水分子を振動させ、熱に変えて水を抜く方式で、熱風乾燥に比べて高温にさらしにくく、短時間で乾燥できる利点があると説明されています。

この研究の狙いは二つです。一つは、細胞構造の異なる植物性食品——リンゴ、ニンジン、ショウガ、サツマイモ——について、MVD中の水分減少の進み方を調べること。もう一つは、二種類の分光計測を組み合わせて、乾燥中の水分減少量(MCL)を非破壊で予測する手法を検証することです。

何をどう測ったか

著者らは二つの計測手段を使い分けています。一つはテラヘルツ時間領域分光(THz-TDS)です。テラヘルツ波は水のような極性分子に敏感で、特定の樹脂ホースを透過します。そこで乾燥室から排出される水蒸気が通るホースを光路上に置き、乾燥を止めずにその場で水蒸気を監視しました。もう一つは近赤外ハイパースペクトルイメージング(NIR-HSI)で、こちらは試料表面の化学的な情報を捉えます。ただし撮影には試料を乾燥室から取り出す必要があるため、真空や温度の条件を乱さないよう、乾燥段階ごとに別々の試料セットを用意し、一度取り出したものは戻さない設計にしています。

試料はいずれも厚さ4 mmにそろえ、0分から35分まで5分刻みの8時点で採取しました。マイクロ波出力は100 W、真空度は3±1 kPaに保ち、1.5分加熱・0.5分停止のサイクルで乾燥させています。水分量の正解値は、105℃で24時間乾燥させる標準的な方法で求めました。あわせて、カメラによる収縮率と色の変化も記録しています。

予測モデルとしては、単一の計測だけを使うもの、二つのデータを特徴量の段階で統合する中間レベル融合、Transformer型のニューラルネットワーク、そして二つの分光それぞれの予測を統合するアンサンブル学習(EL)モデルを作り、比較しました。評価では、同じ繰り返し実験に由来するデータが学習側と検証側に混ざって成績が甘くなることを避けるため、繰り返し単位で分けて検証する方式を採っています。

主な報告結果

乾燥の進み方は食品ごとに明確に異なりました。収縮率は最終的に51.42%から74.35%の範囲に収まり、最も大きく縮んだのはショウガ、最も形を保ったのはサツマイモでした。最初の5分間ではリンゴとショウガが27%前後と急速に変形した一方、ニンジンとサツマイモは16%前後にとどまっています。色の変化は4試料とも0分から5分で急に大きくなり、その後は緩やかで、5分時点の変化量はリンゴが16.71と最も大きく、ニンジンが8.06と最も小さい値でした。

水分量の推移は、加速・一定・減速の三段階に整理できたと報告されています。最初の5分でショウガは94.71%から54.12%へと最も大きく落ち、サツマイモは76.64%から49.25%と減少幅が小さめでした。ニンジンは10分まで加速段階が続き、その後37.98%で一定段階に入っています。著者らはこうした違いを、細胞の大きさや細胞壁の厚さ、デンプンやペクチンといった成分の違いに結びつけて説明しています。

テラヘルツ側の信号は、ニンジン・ショウガ・サツマイモで共通して、最初の5分の立ち上がりの遅れ、その後の急増、20〜30分あたりの横ばい、そしてわずかな低下という経過をたどりました。リンゴだけは8〜10分あたりで早くピークを迎え、その後は乾燥が続いているのに信号が下がり続けます。著者らはこれを、テラヘルツ計測が試料に残る水分量そのものよりも、そのとき放出されている水蒸気の量に敏感なためだと述べています。周波数領域では、およそ0.5〜3.5 THzに気体の水分子に特徴的な吸収帯が並び、測定しているのが確かに放出された水蒸気であることを裏づけました。近赤外側では、O–H結合に対応する970 nmと1400 nm付近の吸収が乾燥とともに変化し、水分の減少を反映しています。

予測モデルの比較では、アンサンブル学習モデルが最も良い成績を示しました。予測用の決定係数(R²p)の中央値が0.928、RPDの平均が3.63で、単一計測のモデルも、中間レベル融合のモデルも、Transformer型のモデルもこれを上回りませんでした。著者らはこの向上の理由として、テラヘルツ側と近赤外側それぞれのモデルの予測の誤差同士にほとんど相関がなかった点を挙げ、二つの計測が互いにほぼ重ならない情報を捉えていることを示すものだと述べています。なお中間レベル融合も、統計モデル・ニューラルネットワークの双方で予測を改善しました。

この研究が示すこと

乾燥室の外から水蒸気を追い続けられるテラヘルツ分光と、試料表面の状態を捉える近赤外ハイパースペクトル画像は、同じ現象を別の角度から見ています。この研究は、その二つを統合する枠組みによって、乾燥中の水分減少を壊さずに見積もる精度が高まったことを報告しました。

食品ごとに乾燥の進み方が大きく違うことも、あわせて具体的な数値で示されています。乾燥工程の品質を素早く把握したいという現場の要請に対し、著者らは、相補的な分光手法とアンサンブル学習の組み合わせが非破壊的な品質評価を前進させる可能性を持つと結論づけています。

著者:Ying Fu(Food Refrigeration and Computerized Food Technology (FRCFT), School of Biosystems and Food Engineering, Agriculture & Food Science Centre, University College Dublin (UCD), National University of Ireland, Belfield, Dublin 4, Ireland)、Haixin Jing(Food Refrigeration and Computerized Food Technology (FRCFT), School of Biosystems and Food Engineering, Agriculture & Food Science Centre, University College Dublin (UCD), National University of Ireland, Belfield, Dublin 4, Ireland)、Xiaowei Sun(Food Refrigeration and Computerized Food Technology (FRCFT), School of Biosystems and Food Engineering, Agriculture & Food Science Centre, University College Dublin (UCD), National University of Ireland, Belfield, Dublin 4, Ireland)、Da‐Wen Sun(Food Refrigeration and Computerized Food Technology (FRCFT), School of Biosystems and Food Engineering, Agriculture & Food Science Centre, University College Dublin (UCD), National University of Ireland, Belfield, Dublin 4, Ireland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ying Fu, Haixin Jing, Xiaowei Sun, et al. Multimodal THz-TDS and NIR-HSI fusion for moisture dynamics prediction during microwave vacuum drying. Applied Food Research 2026-08-28. DOI: 10.1016/j.afres.2026.102556. 原著ライセンス:CC BY.