海藻は昆布やわかめのように日常的に食べられているだけでなく、健康食品やサプリメントの原料としても注目されています。今回紹介する研究では、紅藻の一種であるカギケノリ(Asparagopsis taxiformis)が対象になりました。この海藻を粉末にした丸ごとのサプリメントには、動物の免疫応答を促進する効果があることが知られていましたが、その効果を担う具体的な成分は、これまでよくわかっていませんでした。研究チームは、この海藻から免疫に働きかける可能性のある成分を特定しようと試みました。
研究でわかったこと
研究チームはカギケノリから新しい多糖(糖が鎖状につながった成分)を単離・精製し、「ATP-1」と名付けました。分析の結果、ATP-1は分子量が約30万8000(307.978kDa)の中性多糖で、主にガラクトース(94.07%)、グルコース(1.27%)、キシロース(4.66%)という糖から構成されていることが明らかになりました。走査型電子顕微鏡や原子間力顕微鏡を用いた観察では、ATP-1は決まった形を持たない構造をしており、分子の鎖同士が絡み合ったり、分子内で水素結合が働いたりすることで形作られていると報告されています。また、その微細な構造には、非対称なシート状のひび割れや孔が見られたとされています。
免疫調節活性に関する実験では、ATP-1をマウス由来のマクロファージ細胞(RAW264.7細胞)に作用させたところ、一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼ(COX)-2というタンパク質の発現が促進されたことが示されました。さらに、マクロファージの貪食能(異物を取り込む働き)が高まったこと、そして一酸化窒素(NO)、TNF-α、IL-6といったサイトカイン(免疫に関わる情報伝達物質)の産生が刺激されたことも報告されています。
タンパク質の網羅的な解析(プロテオーム解析)では、178個の発現量が変化したタンパク質(発現が増加したもの70個、減少したもの108個)が見つかり、これらはさまざまな分子経路に関わっていることが示されました。中でもTNFに関する経路は、炎症や免疫調節に関与する主要な20の経路の一つとして挙げられています。さらに詳しい解析(ウエスタンブロット法)により、ATP-1はTNF経路に含まれるIKKα、IKKβ、COX-2、TNF-αといったタンパク質の発現を増加させる一方、IκBα、Fas、AIP1というタンパク質の発現を減少させることが示されました。加えて、分子ドッキングという計算手法による解析では、TNF-αとガラクトース・グルコース・キシロースとの結合には、主に水素結合が関わっていると考えられています。これらの結果から、研究チームはATP-1がTNFシグナル経路を活性化することを通じて、免疫調節に関わっている可能性があるとしています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、培養したマクロファージ細胞を用いた実験や構造解析、コンピューター上での分子ドッキング解析にもとづくものであり、ヒトが実際にATP-1を摂取した場合にどのような効果があるかを直接示したものではありません。研究チームは、ATP-1が機能性食品への応用が期待される天然の免疫調節素材となる可能性を指摘していますが、これは一つの基礎研究の結果であり、免疫力の向上や病気の予防・改善を保証するものではない点に注意が必要です。今後、ヒトや動物を対象としたさらなる研究の積み重ねが待たれます。
まとめ
今回の研究では、紅藻カギケノリから新しい中性多糖ATP-1が単離・精製され、その構造が明らかにされました。ATP-1はマクロファージの貪食能を高め、NOやTNF-α、IL-6といったサイトカインの産生を刺激することが示され、TNFシグナル経路の活性化を介して免疫調節に関わっている可能性が示唆されています。海藻由来の成分が持つ働きの一端を示す興味深い研究成果といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:紅藻カギケノリ(Asparagopsis taxiformis)由来中性多糖ATP-1の構造解析とRAW264.7マクロファージに対する免疫調節効果(フード・サイエンス・アンド・ヒューマン・ウェルネス・2026年04月)