この研究は、イランの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜホウ素に注目したのか

シュタイリッシュ油カボチャ(Cucurbita pepo subsp. pepo var. styriaca)は、果実ではなく種子を目的に栽培される植物です。論文によれば、その種子は油分が42〜54%に達し、オレイン酸やリノール酸といった不飽和脂肪酸、植物ステロール、トコフェロールを多く含み、搾られた油は伝統医療で前立腺肥大や排尿障害の治療に用いられてきました。著者らは、イランにおけるこの作物の収量が世界平均を下回っており、その一因として土壌のホウ素不足が考えられると述べています。

ホウ素は植物にとって必須の微量元素で、細胞壁の構造や膜の健全性、糖の代謝、核酸の合成に関わります。著者らは、微量元素の中でもホウ素欠乏はもっとも広く見られ、とくに生殖成長に強く影響すると整理しています。花粉管が伸びて受精に至る過程に不可欠だからです。一方で過剰になれば生育阻害や葉の変色などの害が出ることも知られています。

この研究の狙いは三つでした。第一に、果実収量・種子収量・油分・脂肪酸組成を最大にするホウ素の濃度と散布時期を見極めること。第二に、種子に蓄積したホウ素量を測り、それが種子の充実(中身のない「空種子」の発生)や、果実の中で種子が早期に発芽してしまう「胎生発芽(vivipary)」とどう結びつくかを調べること。第三に、これらの形質の相互関係を統計的に整理することです。著者らは、この作物の空種子形成に対するホウ素の影響は体系的に調べられておらず、ウリ科における胎生発芽とホウ素の関係も未解明だと記しています。

どのように調べたか

試験はイラン・カラジにあるテヘラン大学園芸科学科の試験圃場で、1作期にわたって行われました。土壌は粘土質ローム、有効態ホウ素は0.7 ppmで、過去にホウ素施肥の履歴はない圃場です。供試種子はハンガリーの薬用植物研究所由来のものが用いられました。

処理は、ホウ酸水溶液を葉面に散布するかたちで与えられました。濃度は0(対照=蒸留水)、50、100、150、200 ppmの5段階、散布時期は栄養成長期(3〜5葉期、播種後およそ36日)、雄花の出現期(42日)、雌花の出現期(49日)、幼果期(果径3〜5 cm、58日)の4段階です。散布は各段階で一度だけ、蒸発を抑えるため夕方に、液が流れ落ちる程度まで行われました。実験計画は乱塊法に基づく分割区法で、3反復が置かれています。

収穫後、株あたりの果実数や果実重に加え、正常に発達した「充実種子」と種皮だけの「空種子」が数えられ、果実内で発芽した種子とそれを含む果実も計数されました。油はソックスレー法でヘキサンを用いて抽出して油分率を算出し、脂肪酸組成はガスクロマトグラフィーで分析されました。脱脂した種子粉は灰化処理のうえ、アゾメチンH法でホウ素濃度が測定されています。得られたデータは混合モデルによる分散分析とTukey検定で比較され、さらに形質間の相関分析と主成分分析(多数の形質のばらつきを少数の軸にまとめて見る手法)が行われました。

報告された主な結果

著者らの報告では、150 ppmのホウ酸を雄花期または雌花期に散布した場合に、果実収量46,775 kg/ha、種子収量1,847.7 kg/ha、油分46.79%という最も高い値が得られました。果実収量は無処理の19,775 kg/haから137%の増加にあたり、株あたり果実数も1.39個から2.88個へ増えています。200 ppmでは果実収量が39,513 kg/haへとやや下がりましたが、150 ppmとの差は統計的に有意ではなく、著者らはこれを生理的ストレスの兆しと解釈しています。

種子の充実にも差が出ました。空種子は150 ppmで一貫して最も少なく、とりわけ雌花期の散布では1果あたり62.3個まで減り、同じ時期の対照に比べて53.5%の減少と報告されています。充実種子と空種子の比も、雌花期・150 ppmで8.86と最も高くなりました。油の質については、測定された脂肪酸のうちオレイン酸だけがホウ素濃度に有意に反応し、150 ppmで55.71%と最高値を示しました。パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸には有意な反応は見られていません。

他方で、収量とは別の現象が現れました。種子中のホウ素濃度は、幼果期に200 ppmを散布した場合に127.6 ppmと最も高く、同時期の対照(84.8 ppm)より50.5%高い値でした。そして同じ処理で、果実内発芽した種子が1果あたり150.7個と最多になり、果実全体の51%が発芽種子を含んでいました。散布時期が遅いほど種子へのホウ素移行が進みやすいことを示す結果です。相関分析では、種子ホウ素含量と果実内発芽の間に強い正の相関(r = 0.83)が、種子収量と油分の間に正の相関(r = 0.50)が見られました。空種子は充実/空種子比(r = −0.91)や収量関連形質(r = −0.60〜−0.68)と強い負の相関を示しています。主成分分析は全分散の62.8%を説明し、著者らはこの結果から、開花期の150 ppmが望ましい領域に位置し、幼果期の200 ppmは重度の果実内発芽を招く位置に置かれると述べています。

この報告が示すこと

著者らの結論は、同じ要素を同じ量だけ与えても、与える時期によって行き先と結果が変わるという点に集約されます。開花期にホウ酸を散布すれば受精と種子の充実が助けられて収量と油分が高まりますが、幼果期に高濃度を与えると種子にホウ素が集まり、果実の中での早期発芽という望ましくない現象が強く現れました。

この対比をふまえ、論文は、収量・油質・種子の充実を高めつつ果実内発芽を避けるため、雄花期または雌花期に150 ppmのホウ酸を葉面散布することを推奨しています。微量元素の管理が、量の調整だけでなくタイミングの選択でもあることを具体的な数値で示した報告と言えます。

著者:Abolghasem Hamidi Moghaddam(Department of Horticultural Science, Faculty of Agriculture, University of Jiroft, Jiroft, Iran)、Abdolkarim Kashi(Department of Horticultural Sciences, Campus of Agriculture and Natural Resources, University of Tehran, Karaj, Iran)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Abolghasem Hamidi Moghaddam, Abdolkarim Kashi. Foliar boric acid application affects yield components, seed boron content, oil quality, and induces vivipary in Styrian oil pumpkin (Cucurbita pepo subsp. pepo var. styriaca). Scientific Reports 2026-09-28. DOI: 10.1038/s41598-026-73758-3. 原著ライセンス:CC BY.