エビは世界中で親しまれている食材ですが、そのまま加工するだけでなく、発酵させることで独特の風味やうま味を引き出す技術があります。中国などでは古くから「酒粕(さけかす)」を使った発酵食品づくりが行われており、米を原料とした酒粕をエビに使うことで、新しい風味を持つ加工食品が作られています。しかし、酒粕にはさまざまな種類があり、そこに含まれる微生物の違いによって、できあがる発酵エビの味や香りがどう変わるのかは、詳しく調べられていませんでした。今回紹介する研究は、この「酒粕の種類による違い」に着目し、微生物の働きと風味形成の関係を探ったものです。
研究でわかったこと
研究チームは、HSF・CZ・AQという3種類の米酒粕由来の「スターター(発酵のもとになる微生物の種)」を用意し、同じ条件のもとでバナメイエビ(Litopenaeus vannamei、いわゆるホワイトシュリンプ)を発酵させました。そのうえで、発酵に関わる微生物の群集構成と、できあがったエビの色や香り成分を比較しています。
微生物群集を解析した結果、HSFとCZのスターターでは、細菌の一群であるFirmicutes(フィルミクテス門)、あるいは真菌の一群であるAscomycota(子嚢菌門)が優勢で、特にPichia(ピキア酵母)とLimosilactobacillus(乳酸菌の一種)が特徴的な菌として検出されました。一方、AQのスターターでは、Mucoromycota(ムコール菌門)、なかでもRhizopus(クモノスカビ属)が主体になっていることが示されました。
発酵によってエビの色調(明るさを示すL*、赤み・緑みを示すa*、黄み・青みを示すb*の各値)は、いずれのスターターでも有意に増加し、発酵前とは異なる色合いに変化したと報告されています。また、香りのもとになる揮発性化合物についても、発酵によって好ましいとされる成分がより多く生成されたとされています。揮発性成分の総量を比較すると、HSFで発酵させたエビが236.41μg/gと最も多く、次いでCZ発酵エビが178.60μg/g、AQ発酵エビが87.27μg/gという順になり、使用したスターターによって香り成分の量に大きな差が生じることが示されました。
さらに、微生物の種類と香り成分の関係を統計的に解析した「相関ネットワークモデル」による分析では、FirmicutesとAscomycotaが、2-フェニルエチルアセテートや2-フェニルエタノールといった高級アルコール類・エステル類(いずれも花や果実のような香りに関わるとされる成分)の生成と、有意な正の相関を示すことが明らかになったと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、米酒粕由来の異なるスターターがエビの発酵過程における微生物群集や、色・香りの形成にどう関わるかを示したものであり、特定の発酵エビ製品が健康に良い、あるいは味が優れていると断定するものではありません。あくまで微生物と風味成分の関連を統計的に示したひとつの研究であり、今回得られた知見が実際の製品開発や他の食材にそのまま当てはまるかどうかは、今後のさらなる検証が必要と考えられます。
まとめ
今回の研究では、米酒粕由来の3種類のスターターを使ってバナメイエビを発酵させたところ、優勢となる微生物の種類(FirmicutesやAscomycota主体か、Mucoromycota主体か)によって、色調や香り成分の量・種類に違いが生じることが示されました。特にFirmicutesとAscomycotaは、香り豊かなアルコール類やエステル類の生成と関連することが示唆されています。発酵食品の風味がどのような微生物の働きによって生み出されるのかを理解する手がかりとなる研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:米酒粕発酵バナメイエビの品質志向設計:理化学的特性と風味形成における微生物群集の役割の解明(フード・ケミストリー:エックス・2026年07月)