著者の所属・活動拠点の国は、ドイツです。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

似ているようで異なる2つの花を比べる

健康志向の食品や加工を抑えた食品への関心が高まるなか、食べられる花は色や香りの素材として注目されています。なかでも商業的に重要なのが、バラ(Rosa属)とローゼル(ハイビスカスの一種、Hibiscus sabdariffa)です。どちらもアジア、中東、アフリカ、ヨーロッパなどで、伝統的な薬や料理、化粧品に使われてきました。

ただし、この2つは植物としてまったく別の種類です。著者らは、従来の研究が民族植物学的な記録か、個別の成分分析にとどまりがちで、品種、栽培環境、部位、加工方法による違いを製品づくりの観点から整理できていないと指摘しています。そこでこの総説では、栄養成分、植物由来の機能性成分、食品素材としての性質を両者で比較しました。さらに、食品安全、アレルギー、規制の現状もまとめ、根拠に基づく製品開発を支えることを目指しています。

成分の量は似ていても、果たす役割は違う

著者らがまず強調するのは、報告されている成分値のばらつきの大きさです。値は品種、育ち方、部位、加工、分析方法によって変わるため、研究同士を単純には比べられません。たとえばローゼルでは、赤い色素であるアントシアニンの量が品種によって2〜3倍異なり、ある成分は乾燥重量100gあたり最大446mgに達したと紹介されています。このため論文は、素材の規格を属や種の名前だけで決めず、品種や加工履歴まで含めて考える必要があるとしています。

炭水化物は、どちらの花でも栄養成分の大部分を占めます。乾燥重量あたりで、バラの花びらは約60〜86%、ローゼルの萼(がく)は約60%です。ところが中身は異なります。バラでは糖類が中心で、開花の段階によって量が変わり、香り成分づくりや発酵に関わります。そのため著者らは、収穫の時期が香りの強さを左右しうると述べています。一方、ローゼルではペクチンなどの構造性の多糖類が最大78.2%を占めると報告されています。こうした多糖類は、とろみやゲル化、保水性に関わります。論文は、総量が近くても両者を同じ炭水化物源として扱うべきではないと結論づけています。

たんぱく質と脂質でも違いがあります。ローゼルの種子は、乾燥重量あたり最大33.45%のたんぱく質を含むと報告されています。このたんぱく質は、乳化性や保油性など、加工食品の素材として役立つ性質も示しています。また種子には11〜21%の油が含まれます。この油はリノール酸やオレイン酸が多く、酸化を抑えるトコフェロール(ビタミンEの仲間)も豊富です。これに対してバラでは、脂質に関わる部分の中心は精油です。精油は主に香りを担う成分です。

色素の不安定さと、「含まれる量」と「吸収される量」の差

ローゼルの鮮やかな赤色と抗酸化性の主役はアントシアニンです。著者らは、ローゼルを天然着色料の有力候補と位置づけています。一方で、この色素はpHが上がったり加熱されたりすると壊れやすい性質があります。80℃で60分加熱すると、最大56%が失われたという報告が紹介されています。抽出温度を上げると色素を多く取り出せる一方で、分解も進みます。論文は、この両立の難しさも指摘しています。色素を安定させる方法はいくつか研究されていますが、どれも熱やpHなど一つの要因にしか対応しておらず、総合的な解決策はまだないとしています。

ミネラルについても注意を促しています。ローゼルの鉄は含有量だけを見ると有望に見えますが、植物の鉄は吸収されにくい形です。さらにローゼル飲料では、ポリフェノールと鉄が結びつくことで、加えた鉄のうち消化管で吸収可能な状態で残るのは約25%だったと報告されています。著者らは、素材に含まれる量と、体が実際に吸収できる量は同じではないと述べています。そのうえで、栄養強化をうたうには、最終製品でミネラルが吸収可能な状態に保たれていることを示す必要があるとしています。

全体として論文は、両者の役割を次のように整理しています。バラは香りや風味を生かす素材で、飲料、菓子、発酵乳製品、化粧品などに向きます。ローゼルは色、酸味、とろみ、栄養面を同時に担える幅広い素材だとしています。

安全性と規制に残る空白

安全性の面では、ローゼルに含まれるシアン化合物の量は低く、品種によって異なると報告されています。ただし、実際の摂取量と照らし合わせて評価するのに必要な、一般的な摂取量のデータが不足しています。微生物については、乾燥ローゼルやローゼル飲料から細菌やカビが検出された例が紹介されています。また、色素を守るために加熱を抑える製法では、殺菌効果も弱まるというトレードオフがあると指摘されています。

農薬については、食用バラ54試料から74種類の農薬が検出され、確認された農薬の91%が食用バラには登録されていないものだったという研究が紹介されています。乾燥によって残留農薬が約3.0〜3.9倍に濃縮されうることも示されています。アレルギーについては、バラ栽培者が吸入などで感作された報告はあるものの、食べた場合のデータは限られています。ローゼルでは専用の研究が見当たらず、特に種子たんぱく質を濃縮して使う場合には事前の評価が必要だとされています。規制面でも、食用花の国際的なリストや推奨摂取量は存在せず、国際的な食品規格の枠組みでもバラとローゼルは対象になっていないと報告されています。

この総説が示しているのは、バラとローゼルをひとくくりの「食べる花」として扱うのではなく、性質の異なる別々の素材として理解する必要があるという点です。製品の品質や安全性を確保するには、品種、部位、加工条件を明確にし、アレルギーや残留農薬などの未解明な点を埋めていく必要がある。著者らはそう論じています。

原著論文の著者・所属:Temilola Dada(Department of Crop Science Division of Quality and Sensory of Plant Products Georg‐August‐University Göttingen Göttingen Germany)、Susanne Neugart(Department of Crop Science Division of Quality and Sensory of Plant Products Georg‐August‐University Göttingen Göttingen Germany)、Layla Engelhardt(Department of Crop Science Division of Quality and Sensory of Plant Products Georg‐August‐University Göttingen Göttingen Germany)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Temilola Dada, Susanne Neugart, Layla Engelhardt. Edible Rose and Roselle: A Critical Review of Nutritional Composition, Safety, and Regulatory Considerations for Product Development. Journal of Food Science 2026-10-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71524. 原著ライセンス:CC BY.