著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Health and Technology Journal (HTechJ)

ライセンス: CC BY-SA 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

出産後、母乳を与えている間はしばらく月経が戻らないことがあり、これは「授乳性無月経」と呼ばれます。赤ちゃんが乳首を吸う刺激によって、母乳の分泌に関わるホルモンであるプロラクチンが増え、排卵を抑える方向に働くことが背景にあると説明されています。論文によると、頻繁な授乳や夜間の授乳は卵巣の働きの抑制を長引かせ、授乳回数の減少や母乳以外の栄養の追加は卵巣の働きの回復につながるとされています。

この仕組みは、出産から次の妊娠までの間隔を考えるうえで実際的な意味を持ちます。論文では、産後6か月以内に、完全またはそれに近い頻繁な授乳を続け、月経が戻っていないという条件を満たす場合に用いられる「授乳性無月経法」という避妊の考え方が紹介されています。一方で、月経が再開したとき、完全母乳育児をやめたとき、赤ちゃんが6か月になったときには、別の避妊法の併用が勧められるとされています。ただし、完全母乳育児と月経再開の関係についての知見は研究によってばらつきがあり、個人差も大きいことが指摘されています。

インドネシア教育大学の研究チームは、地域で暮らす授乳中の母親を対象に、完全母乳育児と産後の月経再開時期との関連を明らかにすることを目的としました。あわせて、対象者の完全母乳育児の実践状況や月経が戻る時期のパターンを記述することも目指しました。ここでいう完全母乳育児とは、医学的に必要なビタミン・ミネラル・薬を除き、赤ちゃんに母乳だけを与えることを指します。

どのように調べたか

調査は2024年8月から9月にかけて、インドネシア・西ジャワのスメダン県チマラカ郡トルナマンガラ村で行われました。対象は、生後6〜12か月の乳児を育てている20〜35歳の授乳中の母親で、避妊法の使用の有無は問わず、産後の月経再開時期を思い出して答えられる人としました。条件に合う人を全員対象とする方法で、60人が参加しました。

参加者は、基本的な属性に関する10問、完全母乳育児に関する8問、月経再開時期に関する2問からなる計20問の質問票に、Googleフォームで回答しました。母乳育児の期間や産後に初めて月経が戻った時期は、本人の記憶に基づく回答です。研究チームは、完全母乳育児の期間と月経再開の時期がどの程度連動しているかを、順位に基づく相関の手法(スピアマンの順位相関)で分析しました。

この研究は、ある一時点で情報を集める「横断研究」です。そのため、二つの事柄が一緒に見られるかどうか(関連)は示せても、一方が他方を引き起こしたか(因果)までは示せない設計だと、著者ら自身が述べています。

主な結果

参加した母親の91.7%は専業主婦で、年齢は20〜25歳が46.7%、26〜35歳が53.3%でした。避妊法は注射が48.3%と最も多く、子宮内避妊具(IUD)が35.0%、インプラントが6.7%、使用していない人が10.0%でした。

60人のうち56人が6か月以上の完全母乳育児を行っていたと答えました。月経の再開については、39人が産後6か月以降、21人が6か月より前と回答しました。

分析の結果、完全母乳育児の期間と月経再開の時期との間には、統計的に意味のある正の相関が見られました(相関係数0.364、p値0.004)。つまり、完全母乳育児の期間が長い母親ほど、月経が戻る時期が遅い傾向が見られたということです。ただし著者らは、この相関の強さは強いものではなく中程度にとどまると述べています。一方、母親の年齢と月経再開時期との間には、統計的に意味のある関連は見られませんでした(相関係数−0.196、p値0.133)。

この研究が示すこと

著者らは、今回の結果は、授乳が卵巣の働きを抑えるという既知の生理的な仕組みと整合するものだとしています。同時に、関連の強さが中程度だったことから、母乳育児は月経回復を左右する重要な要因の一つではあるものの、それだけで決まるわけではなく、他の生理的・生殖に関わる要因とともに働いていると考えられると述べています。

研究チームは結果の解釈には慎重さが必要だとしています。一つの村の60人という小規模な調査であること、母乳育児の期間や月経再開時期を本人の記憶に頼っていること、横断研究のため因果関係を示せないことに加え、ホルモンを使った避妊法の影響や出産回数、栄養状態、授乳の回数や夜間授乳などの要因を十分に考慮した分析ではないことが挙げられています。

こうした限界を踏まえたうえで、この研究は、地域で暮らす母親たちの間でも、完全母乳育児が長いほど産後の月経再開が遅い傾向が見られたことを示しました。著者らは、母乳育児を赤ちゃんの栄養の問題としてだけでなく、母親の産後の体の回復や出産間隔とも関わるものとして捉え、看護師や助産師による母乳育児支援と産後の家族計画の相談を結びつけて考えることの意義を指摘しています。

原著論文の著者・所属:Nunung siti Sukaesih(Nursing Department, Universitas Pendidikan Indonesia, Indonesia)、Emi Lindayani(Nursing Student, Universitas Pendidikan Indonesia, Indonesia)、Raina Azhari Nariswari(Universitas Pendidikan Indonesia)、Delli Yuliana Rahmat(Universitas Pendidikan Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nunung siti Sukaesih, Emi Lindayani, Raina Azhari Nariswari, Delli Yuliana Rahmat Exclusive Breastfeeding and Timing of Postpartum Menstrual Resumption among Lactating Mothers: A Cross-Sectional Study. Health and Technology Journal (HTechJ) 2026-10-02. DOI: 10.53713/htechj.v4i5.839. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。