この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
近年、乳酸菌などで発酵させたのちに菌を不活化した『ポストバイオティクス』が、果物や野菜を原料とした機能性食品素材として注目されています。ただし、こうした発酵液をどのような方法で粉末に加工すれば良い品質になるのかについては、体系的な検証がまだ十分ではありません。今回紹介する研究では、サボテンの一種であるオプンティア・フィクス-インディカ(Opuntia ficus-indica)の果汁を使い、乾燥方法と副材料(drying aid)の組み合わせが粉末の性質にどう影響するかが調べられました。
研究でわかったこと
研究チームは、Lacticaseibacillus paracasei HNU502という乳酸菌でサボテン果汁を発酵させたのち、菌を不活化してポストバイオティクスの液(broth)を作りました。この液を粉末にする際に、マルトデキストリンとβ-シクロデキストリンという2種類の副材料を用い、さらに乾燥方法として真空凍結乾燥(フリーズドライ)と噴霧乾燥(スプレードライ)を組み合わせ、複数の条件で粉末を作製・比較しました。
その結果、乾燥方法と副材料の組み合わせが、粉末の構造・官能特性(見た目や味などの評価)・抗酸化性にそれぞれ異なる影響を与えることが示されました。具体的には、真空凍結乾燥とβ-シクロデキストリンを組み合わせた粉末は、構造面や官能面で良好な特性を示しました。一方、噴霧乾燥とβ-シクロデキストリンを組み合わせた粉末は、抗酸化性能の面で良好な結果を示しました。全体として、β-シクロデキストリンを含む処方は、乾燥方法にかかわらず比較的良好な粉末特性と機能特性を示す傾向がありましたが、その効果は副材料の種類と乾燥方法の両方によって左右されました。
X線回折(XRD)、走査電子顕微鏡(SEM)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)という3つの分析手法で構造を詳しく調べたところ、真空凍結乾燥とβ-シクロデキストリンの組み合わせが最も高い結晶化度(77.4%)を示し、他とは異なる構造的特徴を持つことが確認されました。また官能評価では、噴霧乾燥とβ-シクロデキストリンを組み合わせた粉末が最も高いスコア(74.75点)を獲得し、同時に高いラジカル消去活性(抗酸化性の指標の一つ)も示しました。さらに示差走査熱量測定(DSC)という熱の出入りを調べる分析では、いずれの粉末も180℃以下では発熱を伴う分解が見られず、熱に対して安定していることが示されました。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、乾燥方法と副材料の組み合わせがサボテンポストバイオティクス粉末の性質に影響を与えることを示した一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。論文では、乾燥方法の選択にあたっては、狙いたい製品の品質要件(構造なのか、官能評価なのか、抗酸化性なのか)と、実際の加工のしやすさの両方を考慮する必要があると述べられています。つまり、すべての面で優れる単一の『正解』が示されたわけではなく、目的に応じて適した組み合わせが異なりうるという位置づけの研究です。
なお、この研究は中国・海南大学の食品科学工学院に所属する研究者らを中心に行われたものです。
まとめ
今回の研究では、サボテン果汁を乳酸菌で発酵させたポストバイオティクスを粉末化する際に、真空凍結乾燥・噴霧乾燥という2つの乾燥方法と、マルトデキストリン・β-シクロデキストリンという2つの副材料の組み合わせが、粉末の構造や官能特性、抗酸化性にそれぞれ異なる形で影響することが報告されました。特にβ-シクロデキストリンを用いた処方は、乾燥方法に応じて構造面あるいは抗酸化面で良好な特性を示したとされています。今後、こうした知見が機能性食品素材としての粉末製造技術の選択にどう活かされていくか、さらなる研究の展開が注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):真空凍結乾燥と噴霧乾燥がマルトデキストリンおよびβ-シクロデキストリンと組み合わせたサボテン(オプンティア・フィクス-インディカ)ポストバイオティクス粉末に与える影響(フーズ・2026年08月)
著者:Yuhui Ren(Key Laboratory of Food Nutrition and Functional Food of Hainan Province, School of Food Science and Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Siyu Ren(Key Laboratory of Food Nutrition and Functional Food of Hainan Province, School of Food Science and Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Jiahe Li(Key Laboratory of Food Nutrition and Functional Food of Hainan Province, School of Food Science and Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Weipeng Cui(Key Laboratory of Food Nutrition and Functional Food of Hainan Province, School of Food Science and Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Yuan Xu(Key Laboratory of Food Nutrition and Functional Food of Hainan Province, School of Food Science and Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Guangyuan Hua(Hainan State Farms Mushan Coffee Co., Ltd., Qiongzhong 572929, China)、Changjian Li(Hainan State Farms Mushan Coffee Co., Ltd., Qiongzhong 572929, China)、Ying Lyu(Key Laboratory of Food Nutrition and Functional Food of Hainan Province, School of Food Science and Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)、Hui Xue(Key Laboratory of Food Nutrition and Functional Food of Hainan Province, School of Food Science and Engineering, Hainan University, Haikou 570228, China)