この研究は、ギリシャの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

地中海地域で古くから食べられてきたテーブルオリーブ(塩水などに漬けて食用にした加工オリーブ)は、現在では世界中で消費される商品になっています。論文によれば、2023/24年産の世界生産量と消費量はそれぞれ約280万トン、286万トンに達しています。著者らは、この果実が複数の生体機能性成分を消費者に届ける食品になり得る点に注目しています。具体的には、ヒドロキシチロソール、チロソール、オレウロペインといったフェノール化合物と、マスリン酸・オレアノール酸という五環性トリテルペン酸です。

ただし、オリーブの品種、加工方法、栽培条件、産地の違いによって、市販品に含まれるこれらの成分の量は大きく変動します。そのため品質管理には、信頼できる分析手順があらかじめ検証されている必要があります。ここで問題になるのは、フェノール化合物とトリテルペン酸では水と油へのなじみやすさ(極性)が大きく違うことです。この性質の差から、従来は両者を別々に抽出し、別々の条件で測ることが多く、同時測定は分析上の難題とされてきました。既存の同時測定法も、質量分析(MS)という高価で操作が複雑な検出器を使うものや、1回の分析に70分かかるものがありました。

そこで研究チームは、5つの主要成分(上記のフェノール3種とトリテルペン酸2種)を対象に、迅速な逆相超高速液体クロマトグラフィー・ダイオードアレイ検出法(RP-UHPLC-DAD)を開発し、その性能を検証することを目的としました。DADは紫外・可視光の吸収を測る検出器で、MSより安価で扱いやすい一方、選択性は劣ります。論文では、MSを持たない研究室でも使える、日常的な品質管理向けの現実的な手段を示すことが狙いだと説明されています。

どのように調べたか

著者らは、UHPLCと通常のHPLCの両方で使える2.6 μm粒子のC18カラムを用い、有機溶媒にはアセトニトリルを選びました。開発の途上では、既報の条件をそのまま当てはめると、水側の移動相に加えたギ酸が210 nmの波長で強く光を吸収するため、アセトニトリルの比率を上げる過程でベースラインが下がり、トリテルペン酸の検出・定量が妨げられたと報告されています。ギ酸や酢酸をリン酸(0.2%、pH約2)に置き換えるとこの問題は解消しました。最終的な条件では5成分すべてが20分以内に溶出し、再平衡化を含めた総分析時間は25分となりました。著者らは、比較対象とした既報法に比べて分析時間を3.5分の1、溶媒消費量を1.75分の1に減らせたとしています。

抽出については、既報の4つの手順を未加工のハルキディキ種オリーブで比較しました。その結果、純メタノールと超音波を組み合わせる手順(プロトコル4)が、チロソールと両トリテルペン酸で他より有意に高い濃度を与えました(次に良い手順の1.28〜1.53倍、p<0.05)。一方でヒドロキシチロソールやオレウロペインについては他の手順より低い値でしたが、トリテルペン酸の抽出効率が際立って優れていたことと、溶媒使用量が少なく工程が単純であるという実務上の利点から、この手順が採用されています。

検証と実試料への適用には、ギリシャの主要3品種の市販品が使われました。ハルキディキ種のグリーンオリーブ(スペイン式:アルカリ処理と塩水発酵)、カラマタ種の黒オリーブ(ギリシャ式:アルカリ処理なしの塩水発酵)、スロンバ・サッスー種の黒オリーブ(樹上で自然に熟したものを乾塩処理)です。加工法の異なる3種類を含めることで、多様な組成の試料で性能を確かめる設計になっています。ただし論文は、これらの市販品では品種と加工方式が不可分に結びついているため、両者の影響を切り分けることはできないと明記しています。試料はいずれも凍結乾燥して種を除き、粉末にしてから分析されました。

主な報告結果

検量線はいずれも決定係数が0.999を超える良好な直線性を示しました。検出限界・定量限界はMSを用いた既報法より高い(感度が低い)ものの、DADを用いた既報の検証済み手法とはよく一致していたと報告されています。標準溶液での正確さは、定量限界を超える濃度で相対誤差が常に15%未満、精度は相対標準偏差8.4%以下でした。実試料に添加回収試験を行うと、3つの加工品すべてで回収率は70.8〜108.9%の範囲に収まり、参照した既存ガイドラインの推奨範囲内でした。著者らは、この一貫した回収率が、加工方法の異なる多様なテーブルオリーブに同一の抽出法を適用できることを裏づけると述べています。

選択性については、トリテルペン酸を測る210 nmという波長が本質的に選択性の低い領域であることを踏まえ、複数の観点から確認されています。保持時間の再現性はきわめて高く、ピーク純度の指標は0.973〜1.000、標準品とのスペクトル類似度は0.9767〜0.9895で、いずれも検証時に設定した基準値を上回りました。ピーク形状の二次微分でも、成分の重なりを示す隠れた肩やねじれは見られませんでした。

実試料の測定値も報告されています。すべての試料でヒドロキシチロソールが最も多いフェノール化合物でした。ハルキディキ種とカラマタ種では高濃度(乾燥重量あたり1211 mg/kg、939.3 mg/kg)でしたが、スロンバ・サッスー種では124.9 mg/kgと大幅に低く、代わりにオレウロペイン(919.4 mg/kg)が検出されました。オレウロペインが検出されたのはこのスロンバ・サッスー種だけで、著者らはこれが自然に熟成させたオリーブのフェノール組成を裏づけるものであり、発酵させた塩水漬けオリーブでは加工中の加水分解や拡散、分解によって通常は存在しないか非常に微量であると説明しています。マスリン酸とオレアノール酸は3試料すべてでかなりの量が検出され、マスリン酸は1973.5〜4278.7 mg/kg、オレアノール酸は1296.4〜1583.8 mg/kgでした。これらはテーブルオリーブが五環性トリテルペン酸の重要な食事由来供給源であることを示す結果だとされています。なお、アルカリ処理を経たハルキディキ種のトリテルペン酸含量が自然発酵の2製品より低かった点は、アルカリ処理でこれらの成分がアルカリ液に溶け出すという既報の傾向と一致しますが、著者らは製品ごとに1試料しか分析していないため因果関係としては帰属できないと明確に述べています。

最後に、手法の環境負荷はComplexGAPI、実務での使いやすさはBAGIという評価ツールで測られました。環境面では「中程度の環境性」と判定され、エネルギー消費の大半は凍結乾燥(1試料あたり約1.5 kWh、クロマトグラフィー分析は0.2 kWh)によるものでした。ただし凍結乾燥は、成分の熱分解を抑え、乾燥重量基準で結果を表せるようにし、トリテルペン酸の測定で水の妨害を抑えるという機能上必要な工程だと説明されています。実用性の指標BAGIでは72.5点が与えられ、良好な実用適性を示すと評価されました。

この研究が示すこと

著者らは、今回の結果をMSを使う手法と突き合わせて検証してはいないと述べています。210 nmでの検出に必要なリン酸系の移動相が、MSのイオン化方式と両立しないためです。その代わり、正確さは添加回収試験と既報値との一致によって、成分の同定はピーク純度・スペクトル類似度・二次微分解析によって確かめられたとしています。

極性の大きく異なる2つの成分群を、高価な質量分析装置なしに1回の分析でまとめて測れるようにしたことが、この研究の核心です。論文は本手法を、MSを用いる手法を置き換えるものではなく補完するものと位置づけ、多様な市販テーブルオリーブに対して目的に適った、入手しやすい選択肢であると結論づけています。

著者:Aggeliki Kalogeropoulou(Laboratory of Food Chemistry & Technology, School of Chemistry, Aristotle University of Thessaloniki, 541 24 Thessaloniki, Greece)、Vasileios Zavrakoglou(Laboratory of Food Chemistry & Technology, School of Chemistry, Aristotle University of Thessaloniki, 541 24 Thessaloniki, Greece)、Fani Th. Mantzouridou(Laboratory of Food Chemistry & Technology, School of Chemistry, Aristotle University of Thessaloniki, 541 24 Thessaloniki, Greece)、Nikolaos Nenadis(Laboratory of Food Chemistry & Technology, School of Chemistry, Aristotle University of Thessaloniki, 541 24 Thessaloniki, Greece)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Aggeliki Kalogeropoulou, Vasileios Zavrakoglou, Fani Th. Mantzouridou, et al. Simultaneous Determination of the Main Phenolic Compounds and Triterpenic Acids in Table Olives Using RP-UHPLC-DAD Chromatography. Molecules 2026-08-28. DOI: 10.3390/molecules31173029. 原著ライセンス:CC BY.