この研究は、マレーシア、中国、ポルトガルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Healthcare

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

加齢が進む社会では、高齢者が健康と自立した生活を保つうえで、生活習慣のうち変えられる部分に注目が集まっています。研究チームは、日々の暮らしの一部である「身体活動」と「肥満に関連する食行動」の二つに焦点を当てました。

ここで問題になるのは、二つの行動のつながりをどう捉えるかです。これまでの研究の多くは、ある時点で「よく動く人ほど食行動も整っている」といった人と人のあいだの違いを示してきました。しかし研究チームが問いたかったのは別のことでした。同じ一人の人の中で、ふだんより食行動が整っていた時期のあとに、ふだんより活動量が増えるのか。逆に、ふだんより活動量が多かった時期のあとに、食行動が整うのか。つまり、個人内の一時的な変化が互いに先行し合うのかどうかです。

論文では二つの仮説が立てられました。ふだんより問題の少ない食行動が見られた機会のあとには、次の時点でふだんより高い身体活動が見られる。そして、その逆方向の関連も見られる、というものです。男女差については、方向を定めた予測は立てられませんでした。

何を、どのように調べたか

調査は中国の湖南省・江西省・貴州省にある17の地域で行われ、2025年5月、8月、11月の3回、同じ人たちに同じ質問票が配られました。3か月ずつ等間隔で2つの観察期間が確保されたことになります。対象は65歳以上で、その地域に6か月以上住み、質問票に自分で、あるいは訓練を受けた調査員の標準的な補助を受けて回答できる人たちでした。最初に有効と判断された1397人のうち、3回すべてに有効な回答をそろえた1256人が分析対象となりました。平均年齢は69.00歳、男性578人(46.0%)、女性678人(54.0%)です。

身体活動は、運動の強度・持続時間・頻度を尋ねる3項目からなる尺度(PARS-3)で、過去1か月の状況を測りました。得点は0〜100の範囲で、高いほど活動量が多いことを示します。食行動は、坂田式食行動尺度短縮版(EBS-SF)の中国語版7項目が使われました。食事のリズム、満腹感、食べ方、体質の認識、食事の内容、代理的な飲食、食べる動機といった側面を尋ねるものです。この研究では全項目を逆転させて合計しており、得点が高いほど問題の少ない食行動を意味します。論文は、この逆転はあくまで尺度の向きを変えただけで、食事の質の指標に変わったわけではないと明記しています。

分析には「ランダム切片交差遅延パネルモデル(RI-CLPM)」という手法が使われました。これは、人によって元々異なる安定した水準(いつもよく動く人・あまり動かない人といった違い)と、同じ人の中で時期によって上下する一時的なずれとを、統計的に分けて扱う方法です。従来のモデルではこの二つが混ざってしまうため、研究チームは個人内の変動だけを取り出して、二つの行動が互いに先行するかを検討しました。年齢・性別・都市/農村・省・学歴・月収を考慮に入れた追加の分析も行われています。

主な報告結果

まず、人と人のあいだの違いについてです。ふだんから身体活動が多い人ほど、問題の少ない食行動を報告する傾向が強く見られました。安定した水準どうしの相関はr = 0.803と、かなり強いものでした。

一方、同じ人の中の一時的なずれについては、両方向とも統計的に有意な関連が見られましたが、いずれも小さいものでした。ふだんより問題の少ない食行動が見られた時期のあとには、次の時点でふだんよりやや高い身体活動が続きました(標準化係数0.094〜0.096)。逆に、ふだんより高い身体活動のあとには、次の時点でふだんより問題の少ない食行動が続きました(同0.112〜0.113)。この結果は、人口統計学的な変数を考慮しても大きく変わりませんでした。

研究チームはこの対比を重視しています。強い相関(0.803)は、あくまで「よく動く人は食行動も整っている傾向がある」という人どうしの違いを表すものであり、「ある人が一時的によく動けば食行動が整う」という個人内の変化の強さとは別の話だからです。従来型のモデルではこの二つが混ざるため関連がより大きく推定されましたが、両者を分けると、個人内のつながりは控えめなものでした。

男女差は、平均的な水準に現れました。男性は平均して身体活動が高く、女性は問題の少ない食行動を報告する傾向がありました。ただし、3回の調査を通じた平均値の変化は、身体活動も食行動も統計的に有意ではなく、その変化の仕方に男女で違いは検出されませんでした。

論文は限界も挙げています。地域の協力可能性に基づく非確率的な標本であること、両方の行動が自己申告であること、BMIや慢性疾患、服薬、身体機能などのデータが得られていないこと、3か月という一つの観察間隔しか扱っておらず季節の影響を含みうること、そして観察研究であるため時間的な前後関係は示せても因果関係を特定するものではないことです。

この研究が示すこと

この研究が伝えるのは、二つの水準を区別して見ることの大切さです。「よく動く高齢者は食行動も整っている」という人どうしの強い関連があるからといって、同じ人の中で一方が変われば他方も同じ強さで変わる、とは限りません。研究チームは、健康行動を扱う縦断研究では、問いのレベルと分析のレベルをそろえる必要があると指摘しています。

同時に、小さいながらも双方向の関連が確認されたことから、論文は身体活動と肥満に関連する食行動を、互いに関連しつつも別個の要素として、複数の時点にわたって併せて検討することを勧めています。

著者:Shi Luo(Faculty of Sports and Exercise Science, University of Malaya, Kuala Lumpur 50603, Malaysia)、Bin Chen(College of Physical Education, Hunan Normal University, Changsha 410012, China)、Xianxiong Li(College of Physical Education, Hunan Normal University, Changsha 410012, China)、John Gary(Department of Economics, Management, Industrial Engineering and Tourism, University of Aveiro, 3810-193 Aveiro, Portugal)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shi Luo, Bin Chen, Xianxiong Li, et al. Within-Person Longitudinal Associations Between Obesity-Related Eating Behaviors and Physical Activity Among Older Adults: A Three-Wave Random-Intercept Cross-Lagged Study. Healthcare 2026-08-28. DOI: 10.3390/healthcare14172747. 原著ライセンス:CC BY.