この研究は、アメリカ、バングラデシュの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

著者らは、食品の「偽装(アダルタレーション)」と「汚染(コンタミネーション)」という二つの問題を包括的に整理することを目的とした総説をまとめました。ここでいう偽装とは、品質を下げる目的で不正な物質や有害な物質を意図的または偶発的に加えること、質の劣る異物で食品を置き換えること、本来含まれるべき成分を取り除くことなどを指します。経済的な利益のために意図的に行われる偽装は「経済的動機による偽装(EMA)」とも呼ばれます。一方の汚染は、加工・保管・輸送・流通の各段階で衛生に関する知識が不足していることなどによって生じるものです。

論文が扱う問いは、こうした行為がどのような形で現れ、消費者の健康にどのような影響を及ぼし、社会や経済にどれだけの損失をもたらし、各国がどのような法規制で監視しているのか、という点です。著者らは、食品安全が政府・製造業者・消費者・サプライチェーン全体にとって近年ますます重要な主題になっていると位置づけ、市民の側にも食品汚染についての知識を持つ責任があると述べています。

どのように調べたか

著者らは文献調査によってこの主題を整理しました。2000年から2026年までの科学文献を対象に、「food adulteration(食品偽装)」「economically motivated adulteration(経済的動機による偽装)」「origin fraud(産地偽装)」「incidental food contamination(偶発的な食品汚染)」「health impacts of contaminated food(汚染食品の健康影響)」「social impacts of food adulteration」「economic impacts of food adulteration」「food regulations(食品規制)」といったキーワードで検索を行っています。

その結果、およそ250本の論文がより関連性が高いと判断され、詳しく検討されました。さらに、近年の食品偽装事件については、Trelloおよび欧州委員会の食品不正データベースに加え、関連する新聞・雑誌記事も参照しています。

報告された主な内容

著者らは意図的な偽装を五つの大きなカテゴリーに分類しています。追熟剤、人工甘味料、人工着色料、低品位品への置き換え、そしてその他の添加物です。たとえば追熟剤では、エチレンやメチルジャスモネートは人体への毒性が低いとされるものの高価であるため、南アジアの一部の国々では安価なカルシウムカーバイドやエチレングリコール、エテホンが用いられていると報告されています。カルシウムカーバイドは水分と反応してアセチレンガスを発生させるもので、論文は発がん性を持つ反応性の高い物質と記述し、短期的には頭痛やめまい、長期的には記憶障害などとの関連を挙げています。着色料についても、メタニルイエローやマラカイトグリーン、スーダン染料など、食品への使用が認められていない、あるいは各国で禁止されている染料が低価格と入手のしやすさを理由に使われている事例が整理されています。

食品の置き換えについては、水産物、食肉、飲料、香辛料、乳製品、食用油の各分野で報告例が示されています。たとえば有毒なフグがアンコウとして偽表示される事例、牛肉製品への馬肉混入、オレンジジュースへの安価なグレープフルーツジュースの混入が薬物の体内動態に影響しうること、中国八角に有毒な日本シキミが混ざることなどが挙げられます。乳製品では、牛乳アレルギーのある人が代替として選ぶ山羊乳や羊乳に牛乳が混ぜられる問題が指摘されています。また、ミルクへのメラミン混入は、窒素含有量の高さによって見かけ上のタンパク質濃度を装うもので、中国では6人の死亡が報告され、約30万人の乳幼児が被害を受けたと記述されています。

偶発的な汚染については、微量元素(アルミニウム、ヒ素、カドミウム、鉛、クロムなど)、カビ毒(アフラトキシン、オクラトキシンA、トリコテセン類、フモニシン、パツリン、ゼアラレノンなど)といった区分で整理されています。微量元素については、人体に入る経路の93%が固形食品からで、液体からは7%との推定値が引用されています。カビ毒を産生する主要なカビとしてはアスペルギルス属、フザリウム属、ペニシリウム属の三つが挙げられ、穀類や落花生、各種果実に収穫前後を通じて発生しうると述べられています。

健康以外の影響についても数値が示されています。米国では食品安全上の事故によって年間およそ70億ドルの経済的損失が生じているとされ、食品不正と偽装が世界の食品産業にもたらす費用は年間100億〜150億ドル、市販食品のおよそ10%が影響を受けるとの推計が引用されています。1件の事故で企業が年間売上高の2〜15%に相当する費用を負担しうるとも報告されています。さらに、食品不正事件は業界全体の長期的な損失、輸出市場の閉鎖、ブランド価値の毀損、消費者の信頼の低下につながると指摘されています。

この研究が伝えていること

この総説が示しているのは、食品の偽装と汚染が、古代から続きながら現代の産業構造のなかで形を変えて存在し続けている問題だということです。著者らは、経済的な動機による意図的な行為と、知識や管理の不足による偶発的な汚染という性質の異なる二つの経路を並べて整理し、それぞれが消費者の健康と産業の信頼の双方に及ぶことを、既存の報告をもとに描き出しました。

著者らはこの論文の狙いを、食品安全に関わる健康影響と、食品の品質を監視する法制度の現状について理解を深めることに貢献する点に置いています。個々の物質名や事例の多さそのものよりも、問題がどの段階でどのように生じ、どこで制度的に捉えられているのかを一望できるようにしたことが、この整理作業の意味だといえます。

著者:Mysha Momtaz(Center of Materials for Advanced Energetics, New Jersey Institute of Technology, Newark, NJ 07103, USA)、Saniya Yesmin Bubli(Chemical Engineering and Bioengineering Department, University of New Hampshire, Durham, NH 03824, USA)、Mohidus Samad Khan(Department of Chemical Engineering, Bangladesh University of Engineering and Technology (BUET), Dhaka 1000, Bangladesh)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mysha Momtaz, Saniya Yesmin Bubli, Mohidus Samad Khan. Impacts of Food Adulteration and Contamination: Health, Socio-Economic, and Legislative Aspects. Foods 2026-08-28. DOI: 10.3390/foods15173041. 原著ライセンス:CC BY.