この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

L-グルタミン酸は、自然界に多く存在するアミノ酸の一つです。体内の窒素代謝にかかわるほか、うま味のもととなる成分として食品産業で広く使われています。工業生産は主に微生物の発酵で行われ、中心となっているのはコリネバクテリウム・グルタミカムという細菌です。一方で、別の特性も備えた生産菌を探す研究も続いています。

研究チームが注目したのは乳酸菌です。乳酸菌は長く食品の発酵に使われてきた実績があり、米国や欧州でも安全性が認められた位置づけにあります。ただ、グルタミン酸をどれだけつくるかは菌株ごとの差が大きく、伝統的な発酵食品から分離した乳酸菌については、培養条件の最適化や、プロバイオティクスに関連する性質との関係がまだ十分に調べられていませんでした。

そこで研究チームは、発酵食品から分離した乳酸菌の中からL-グルタミン酸をよくつくる菌株を探しました。さらに、有望な菌株の培養条件を統計的な実験計画で検討し、プロバイオティクスに関連する性質も評価しました。

142株からの選抜

研究チームは、5種に属する乳酸菌142株を調べました。これらは発酵食品から分離され、ブラジルのラブラス連邦大学の保存機関で管理されているものです。各株を一定の条件で7日間培養し、培養液中のアミノ酸を調べました。

まず、薄層クロマトグラフィーという簡易な分離法で確認したところ、142株すべてでL-グルタミン酸が検出されました。次に、アミノ酸と反応して発色する試薬(ニンヒドリン)を使い、生成量をおおまかに推定しました。この方法はグルタミン酸以外のアミノ化合物にも反応するため、結果はグルタミン酸に換算した推定値です。平均は20.0 mM、範囲は10.60〜33.78 mMでした。

推定値が27.19 mMを超えた17株について、液体クロマトグラフィー(HPLC)でより特異的に定量しました。17株の内訳は、伝統的な先住民の発酵飲料に由来する8株と、生ソーセージ、カカオ、アップルケフィア、リンゴ、果肉を除いたコーヒーなど、ほかの発酵基質に由来する9株です。対象は、菌体の外に出たグルタミン酸と菌体の中にとどまるグルタミン酸です。その結果、菌体外は2.42〜31.97 mM、菌体内は1.26〜44.83 mMと、株によって大きな差がありました。なお、菌体内の値は株どうしを比べるための相対値で、菌体量で補正したものではないと論文は説明しています。

菌体外の量が最も多かったのはリモシラクトバチルス・ファーメンタムCCMA 0205(31.97 mM)、菌体内の量が最も多かったのは同じ種のCCMA 0209(44.83 mM)でした。どちらも、ブラジル先住民の伝統的な発酵飲料「ヤクパ」から分離された株です。同じ種の中でも生産量のばらつきが大きいことから、著者らは、グルタミン酸生産は種ではなく菌株ごとの性質によるところが大きいと述べています。

培養条件の検討

生産量が上位だった4株について、培養時のpH、温度、培養時間の3つを変え、生産量がどう変わるかを調べました。用いたのは、少ない実験回数で複数の条件の影響を数式にまとめる統計的な実験計画法(中心複合計画)です。

4株のうち、条件と生産量の関係を統計的に有意な数式モデルで表せたのはCCMA 0205だけでした。ほかの株にも特定の条件で比較的高い値が出た例はありました。しかし、条件全体を通した反応が安定せず、予測できるモデルにはなりませんでした。著者らは、工程を設計するうえでは、たまたま高い値が出ることよりも、条件に対して予測どおりに反応することを重視してこの株を選んだとしています。

CCMA 0205の菌体外生産では、温度と培養時間が有意に影響し、検討した範囲ではpHの影響は有意ではありませんでした。実験で最も高かった値は、pH 5.5、30℃、48時間の条件で得られた4.694 mMです。モデルが予測する最適条件も同じで、予測値は約3.86 mMでした。

この値は、選抜段階の31.97 mMより低くなっています。著者らは、選抜では7日間(168時間)培養したのに対し、条件検討の培養時間は最長112時間だったことが主な違いだと説明しています。両者は異なる実験なので直接比べるべきではなく、今回の検討で全体としての最適条件が決まったわけではない、とも述べています。

菌体内の蓄積については、個々の要因の単独の効果は有意ではありませんでした。要因の影響は非線形の形で現れました。モデルが予測した最適条件はpH 4.69、35.3℃、72.7時間で、予測値は約4.13 mMです。菌体外と菌体内で最適条件が異なることから、著者らは、両者が別々の生理的な仕組みで調節されている可能性を指摘しています。また、これらの予測値は実験による確認が必要だとしています。

安全性・表面性質の評価と研究の意味

選ばれた4株について、試験管内で安全性に関係する性質も調べました。赤血球を壊す活性(溶血性)とDNAを分解する酵素の活性は、どの株にも見られませんでした。これらは病原性と関連づけられることの多い性質です。

菌の表面の性質も調べました。腸の表面への付着しやすさの間接的な目安とされる疎水性は、4株とも89%を超えていました。病原菌と互いに集まり合う性質(共凝集)では、CCMA 0205が大腸菌で65.71%、サルモネラ菌で65.39%と、ほかの株より有意に高い値を示しました。一方、同じ菌どうしで集まる性質には株による差がありませんでした。著者らは、これらの試験管内の結果だけでプロバイオティクスとしての性質が確立されるわけではないとしています。

この研究は、発酵食品から分離した乳酸菌がいずれもL-グルタミン酸をつくる一方、その能力は菌株によって大きく異なることを示しました。その中で、ブラジル先住民の伝統的な発酵飲料から得られたCCMA 0205は、菌体外への生産、培養条件に対する予測しやすい反応、試験管内で好ましい表面性質を併せ持つ株として報告されました。こうした伝統的な発酵飲料が、有用な微生物を探すための資源になりうることを示す結果といえます。

著者:Juliete Gomes de Lara de Souza(Department of Biology, Federal University of Lavras (UFLA), Campus Universitário, 37, Lavras, 200-000, MG, Brazil)、Angelica Cristina de Souza(Department of Biology, Federal University of Lavras (UFLA), Campus Universitário, 37, Lavras, 200-000, MG, Brazil)、Andreísa Teixeira de Castro(Department of Biology, Federal University of Lavras (UFLA), Campus Universitário, 37, Lavras, 200-000, MG, Brazil)、Danilo M. Daloso(Department of Biochemistry and Molecular Biology, Federal University of Ceará (UFC), Campus do Pici, Fortaleza, 60440970, CE, Brazil)、Rosane Freitas Schwan(Department of Biology, Federal University of Lavras (UFLA), Campus Universitário, 37, Lavras, 200-000, MG, Brazil)、Disney Ribeiro Dias(Department of Food Science, Federal University of Lavras (UFLA), Campus Universitário, 37, Lavras, 200-000, MG, Brazil)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Juliete Gomes de Lara de Souza, Angelica Cristina de Souza, Andreísa Teixeira de Castro, et al. L-Glutamic acid production by lactic acid bacteria from Brazilian fermented foods: screening, optimization, and probiotic-related properties of Limosilactobacillus fermentum CCMA 0205. International Microbiology 2026-10-06. DOI: 10.1007/s10123-026-00905-1. 原著ライセンス:CC BY.