この研究は、イスラエルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

培養肉をつくるには、動物の細胞を大量に増やす必要があります。細胞の多くは何かに貼りついた状態でないとうまく増えないため、細胞がくっつく土台となる「足場(スキャフォールド)」が使われます。なかでも直径数十〜数百マイクロメートルほどの微小な粒子は「マイクロキャリア」と呼ばれ、少ない容積で広い表面積を確保できるため、大量培養に向いた材料として注目されています。

ただし現在市販されているマイクロキャリアは合成樹脂製だったり、細胞が付きやすいようコラーゲンなどで表面を加工したものが多く、コストがかかります。また食べられない材料の場合は、増やした細胞を足場からはがす工程が必要になります。研究チームは、食べられて安価な足場があればこうした課題を減らせると考えました。

そこで着目したのが「おから」です。おからは豆乳や豆腐をつくる際に出る搾りかすで、食物繊維を主成分とし、タンパク質や脂質、炭水化物も残っています。水分が多く傷みやすいため廃棄の負担が大きい一方、食品素材としての利用可能性も指摘されてきました。研究チームは、このおからを原料としたマイクロキャリアが、ウシの細胞を増やす土台として使えるかどうかを調べました。

何を調べたか

実験に使われたのは、ウシの脂肪組織から取り出した間葉系幹細胞(AD-bMSC)です。間葉系幹細胞は脂肪や筋肉などいろいろな組織の細胞に変化できる能力(多分化能)をもち、自分自身を増やす力も高い細胞です。論文では、肉の風味や食感を左右する脂肪をつくりやすい点で、培養肉の材料として有望だと位置づけられています。

研究チームはまず、大豆を洗って粉砕・吸水させ、液体部分と不溶性の固形分(おから)に分離するという段階的な工程を組み、そこから処理方法の異なる8種類の足場を作り分けました。加熱乾燥して二度挽きしたもの(T4)とその派生(高度な均質化と噴霧乾燥を加えた4RD、さらにプラズマ処理を加えた4EA・4HU)、凍結乾燥した素のおから(OP-FD)とその脱細胞処理版(OP-DC-FD)、そして豆乳由来の湿ったおからを蒸留水で10倍に薄めたもの(OP-M)と豆腐由来の同等品(OP-T)です。比較対象には、コラーゲンをコーティングした市販のポリスチレン製マイクロキャリア(論文中でS1と表記)が使われました。

作製した足場は電子顕微鏡で形や構造を観察し、レーザー回折で粒子の大きさの分布を測定しています。細胞側については、代謝活性から生きた細胞の量を推定するアラマーブルー法で増え方を追い、DNA量を測るQubitによる測定と突き合わせて、この評価法が足場の種類を越えて細胞数を反映しているかを確かめました。さらに、足場で増やした細胞をプラスチック皿に戻して、増殖の速さ、間葉系幹細胞の目印となる表面マーカー(CD44・CD29)の発現、そして脂肪細胞へ変化して脂肪を蓄える能力を調べています。

主な結果

8種類の足場を比べた結果、細胞をよく支えたのはOP-FDとOP-Mの2種類でした。これらの上での細胞の生存・増殖は、足場を使わず細胞同士が塊になって育つ条件(細胞凝集塊)より高く、市販のS1と同程度だったと報告されています。

論文が強調しているのは、処理を複雑にすれば性能が上がるとは限らなかったという点です。研究チームは当初、高度な均質化や噴霧乾燥、プラズマ処理によって細胞の接着が良くなると予想していましたが、これらを加えたT4系の派生(4RD・4EA・4HU)は、より単純な凍結乾燥を経たOP系より細胞を支える力が劣りました。この結果を受けて、処理を最小限にしたOP-MとOP-Tが試され、最終的にOP-Mが有力候補となりました。OP-Mは最後の乾燥工程がなく、使用前に24時間浸しておく必要もないため、工程が短く製造コストを抑えられる点が理由として挙げられています。豆腐由来のOP-Tは粒子が大きく(784±43.3マイクロメートル)ピペットを詰まらせるため、扱いにくかったと記されています。

粒子の大きさについては、よく機能したOP-FDとOP-Mが中央値も分布の幅も異なっていたことから、特定の粒径でなければならないわけではない、と論文は述べています。ただしこの粒度分析は各ロット1検体に基づく予備的なもので、ロット間のばらつきの検証にはなっていないと但し書きされています。

より産業条件に近い状況を想定し、1リットルのフラスコで30日間培養する予備実験も行われました。静置したOP-Mでは17日目以降に細胞が大きく増え、S1を含む他の条件を上回る値を示しています。一方、毎分80回転で撹拌したOP-Mでは結果が振るわず、論文は、せん断力に弱い可能性や、撹拌を止める時間がないために細胞が粒子から粒子へ移りにくい可能性を挙げています。ただしこれらは生物学的な実現可能性を示す予備的な結果であり、条件の調整と反復実験が必要だと明記されています。

細胞そのものの性質は保たれていました。OP-Mから回収した細胞はプラスチックに再び接着して通常の形態を示し、増殖速度は細胞凝集塊由来の細胞より有意に高く、S1由来の細胞と差はありませんでした。CD44・CD29の発現も2D培養の対照と同程度でした。脂肪への分化を誘導すると、OP-Mで増やした細胞は脂肪の蓄積が対照より有意に増え、OP-M・S1・2D培養はいずれも細胞凝集塊より高い値を示しました。なお分化の評価は、おからが複数の波長で自家蛍光を発して観察を妨げるため、足場からはがしてプラスチック皿に播き直した細胞で行われています。論文は、足場の上で直接分化させる実験が今後必要だとしています。

この研究が示すこと

この研究は、豆乳や豆腐づくりで出る搾りかすを、簡便で安価な工程を通じて、ウシの脂肪由来間葉系幹細胞を増やせるマイクロキャリアに変えられることを示しました。しかも足場の上で増やした細胞は、増える力も、間葉系幹細胞としての目印も、脂肪を蓄える能力も損なわれていませんでした。

著者らは、食品産業の副産物を価値のある材料として活かすこの方向性が、廃棄物の削減と持続可能な食肉生産という二つの課題に同時に応えうると位置づけています。ただし論文自身が、含水率やロット間のばらつきといった物理化学的な特性評価は今回行っていないこと、大豆が主要なアレルゲンであり抗栄養因子を含むこと、大容量での結果は予備的なものであることを、残された課題として挙げています。

著者:Dash O(Institute of Animal Sciences, Agricultural Research Organization - Volcani Institute, Rishon LeZion, Israel.; Department of Animal Sciences, Faculty of Agriculture, The Hebrew University of Jerusalem, Rehovot, Israel.)、Hay M(Tnuva - R&D Department, Rehovot, Israel.)、Abed El-Nabi M(Institute of Animal Sciences, Agricultural Research Organization - Volcani Institute, Rishon LeZion, Israel.; The Mina and Everard Goodman Faculty of Life Sciences, Bar-Ilan University, Ramat Gan, Israel.)、Tawil S(Department of Animal Sciences, Faculty of Agriculture, The Hebrew University of Jerusalem, Rehovot, Israel.)、Schlesinger S(Department of Animal Sciences, Faculty of Agriculture, The Hebrew University of Jerusalem, Rehovot, Israel.)、Meiri K(Tnuva - R&D Department, Rehovot, Israel.)、Rak R(Institute of Animal Sciences, Agricultural Research Organization - Volcani Institute, Rishon LeZion, Israel.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dash O, Hay M, Abed El-Nabi M, et al. Assessing the ability of bovine mesenchymal stem cells to grow on okara-based scaffolds derived from soy milk waste. Frontiers in nutrition 2026-08-31. DOI: 10.3389/fnut.2026.1828885. 原著ライセンス:CC BY.