この研究は、アルゼンチン、イタリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Soil Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
淡水の不足を和らげる方法として、下水処理場で処理した水(処理済み排水)を農業用水に使う取り組みが注目されています。ただしこの水には、人が使った薬の成分(医薬品由来化合物)がわずかに残ることがあり、土から作物へどう移動するのかが懸念されてきました。
研究チームは、処理済み排水でデュラム小麦(パスタなどに使われる小麦)を育てる条件で、かん水(水やり)の量と、植物の生育を助ける微生物を土に加えることが、これらの医薬品成分の残りやすさ・分解のされ方・植物への取り込みにどう影響するかを調べました。
どのように調べたか
実験は、条件を管理した鉢植えの環境で行われました。水やりの量は4段階(I100、および水を減らしたI70・I50・I30の欠乏条件)を設定し、淡水を使う場合と処理済み排水を使う場合を比較しています。さらに、アーバスキュラー菌根菌(植物の根と共生し、養分の吸収を助けるカビの仲間)を含む微生物資材を加えた区と加えない区を設け、その有無による違いも評価しました。
報告された主な結果
著者らによれば、処理済み排水から検出された医薬品成分のうち、栽培期間の終わりに土壌でなお検出されたのは抗てんかん薬のカルバマゼピンと抗生物質のクラリスロマイシンの2つだけでした。植物の組織から検出されたのはカルバマゼピンのみで、食用となる子実(穀粒)ではいずれの成分も定量下限(分析で数値として測れる最低の濃度)を下回りました。論文は、実際の環境に近い条件では、食べる部分への移行はごくわずかだとしています。
カルバマゼピンとその変化した産物(分解・変換されてできる物質)は主に根にたまり、地上部へ運ばれる度合いを示す移行係数は低い値でした。これは、デュラム小麦が汚染物質を地上部へ移しにくい作物であることを裏づける結果だと報告されています。微生物を加えた区では、根にとどまる度合いがさらに高まり、とくにカルバマゼピンとクラリスロマイシンに関係する変換産物の残留濃度が下がりました。著者らは、微生物の利用が土と植物の系での汚染物質の低減に寄与しうる可能性を示すと述べています。
水やりの量は、土に入る医薬品成分の総量を左右することで残留の動きに影響し、水の量が少ないほど残留濃度は低くなりました。処理済み排水を最も多く与えた処理では、ガス交換(光合成に関わる葉のはたらき)の指標が一時的に低下したものの、収量への悪影響は見られませんでした。一方で微生物の添加は、淡水でかん水した場合に収量のわずかな低下として現れ、処理済み排水の条件では収量の低下は起きませんでした。
この研究が示すこと
論文は、短期的な条件下では、適切な水管理と微生物の活用、そして作物の選び方を組み合わせることで、食用部分への汚染物質の蓄積を抑えながら処理済み排水を再利用できることを示したとまとめています。デュラム小麦は、医薬品成分を地上部へ移しにくい作物として位置づけられました。
著者:Noemi Tortorici(Department of Agricultural, Food and Forest Sciences, University of Palermo)、Francesco De Mastro(Department of Soil, Plant, and Food Sciences, University of Bari “Aldo Moro”)、Teresa Tuttolomondo(Department of Agricultural, Food and Forest Sciences, University of Palermo)、Claudio Cocozza(Department of Soil, Plant, and Food Sciences, University of Bari “Aldo Moro”)、Gennaro Brunetti(Department of Soil, Plant, and Food Sciences, University of Bari “Aldo Moro”)、Nicolò Iacuzzi(Department of Agricultural, Food and Forest Sciences, University of Palermo)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Noemi Tortorici, Francesco De Mastro, Teresa Tuttolomondo, et al. Influence of irrigation regime and microbial consortium application on pharmaceutical uptake in durum wheat irrigated with treated wastewater. Frontiers in Soil Science 2026-09-17. DOI: 10.3389/fsoil.2026.1954651. 原著ライセンス:CC BY.