この研究は、デンマークの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Probiotics and Antimicrobial Proteins
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
糖尿病では傷が治りにくくなることが知られており、傷口がふさがるまでに時間がかかったり、炎症が長引いたりすることが大きな合併症のひとつとされています。著者らは、現在の治療の多くが傷そのものへの処置(局所的な管理)に重点を置いており、治りにくさの背景にある全身的な要因には十分に対応していない、と指摘しています。
一方で、プロバイオティクス(生きた微生物を摂取することで体に良い働きが期待されるもの)は、免疫や代謝の仕組みに働きかけるものとして注目されてきました。ただし著者らによれば、菌株ごとの違いに着目し、口から摂ることで糖尿病の傷の治りに影響するかどうかを調べた証拠はまだ限られています。そこでこの探索的な研究では、Lacticaseibacillus rhamnosus PB01という特定の菌株を口から与えた場合に、糖尿病モデルの傷の治り方が変わるかどうかが検討されました。
どのように調べたか
研究チームは、ストレプトゾトシンという薬剤を使って糖尿病の状態にしたラット(雄のスプラーグ・ドーリー系)を用いました。動物は、健康な対照群、糖尿病の対照群、そしてプロバイオティクスを与えた糖尿病群に分けられています。糖尿病のラットには、毎日、経口でL. rhamnosus PB01(1×10⁹ CFU)または生理食塩水が与えられました。
そのうえで皮膚の全層に及ぶ切除創(全層欠損の傷)をつくり、傷がふさがっていく経過を、規格化したデジタルプラニメトリ(傷の面積を画像から測定する方法)で継続的に評価しました。あらかじめ定めた時点では、組織を顕微鏡で調べる評価に加え、炎症や再生に関わる指標を染め分ける免疫組織化学染色も行われています。
報告された主な結果
著者らの報告によれば、プロバイオティクスの摂取は全身の血糖コントロールを変化させませんでした。それにもかかわらず、傷をつくった直後の初期の期間には、治療を受けていない糖尿病対照群と比べて傷の閉鎖が有意に改善していたとされています。ただし、後の段階になると各群の傷の閉鎖状況は近づき、差は見られなくなりました。
組織の所見としては、プロバイオティクスを与えた糖尿病ラットの傷で、炎症細胞の浸潤が定性的に少なく、炎症を促すサイトカインの染色も弱い傾向が示されました。あわせて、組織の修復に関わるトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)の発現パターンにも違いが見られたと報告されています。
この報告が示すこと
著者らは、経口でのL. rhamnosus PB01の摂取が、血糖コントロールとは独立して、糖尿病ラットにおける初期の傷の閉鎖の改善と関連していたと結論づけています。ここで示されているのは関連であり、この探索的な研究の範囲で観察された動物モデルでの結果です。
血糖の改善を伴わずに初期の変化が見られたという点は、傷の治りにくさに対して、傷口の外側から――つまり全身の経路を通じて――働きかける可能性があることを示唆するものとして報告されています。著者らは、菌株ごとの違いに着目したプロバイオティクスについて、仕組みの解明とヒトへの応用を見据えたさらなる検討が必要だとしています。
著者:Shaghayegh Hemmati(Department of Health Science and Technology, Faculty of Medicine, Aalborg University, Selma Lagerlöfs Vej 249, 9260, Gistrup, Denmark)、Malwina Ulanowska(Department of Health Science and Technology, Faculty of Medicine, Aalborg University, Selma Lagerlöfs Vej 249, 9260, Gistrup, Denmark)、Hiva Alipour(Department of Health Science and Technology, Faculty of Medicine, Aalborg University, Selma Lagerlöfs Vej 249, 9260, Gistrup, Denmark)、Simone Riis Porsborg(Department of Health Science and Technology, Faculty of Medicine, Aalborg University, Selma Lagerlöfs Vej 249, 9260, Gistrup, Denmark)、Vladimir Zachar(Department of Health Science and Technology, Faculty of Medicine, Aalborg University, Selma Lagerlöfs Vej 249, 9260, Gistrup, Denmark)、Fereshteh Dardmeh(Department of Health Science and Technology, Faculty of Medicine, Aalborg University, Selma Lagerlöfs Vej 249, 9260, Gistrup, Denmark)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shaghayegh Hemmati, Malwina Ulanowska, Hiva Alipour, et al. Oral Lacticaseibacillus rhamnosus PB01 Supplementation Enhances Early Wound Closure in Diabetic Rats. Probiotics and Antimicrobial Proteins 2026-09-17. DOI: 10.1007/s12602-026-11190-9. 原著ライセンス:CC BY.