著者の所属・活動拠点の国は、フィンランドです。
掲載誌:International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:購入記録の「時間の流れ」を生かす
人々が何を食べているかを把握することは、集団の健康状態を理解したり、食事に関する推奨や政策の効果を確かめたりするうえで欠かせません。従来の栄養調査は、食事記録や聞き取りなど本人の申告に頼る方法が中心で、手間がかかるうえ、記憶違いや申告の偏りが生じやすく、数年おきの「一時点の姿」になりがちだと著者らは指摘しています。
そこで注目されているのが、小売店のポイントカード(会員カード)に残る購入記録です。購入記録は実際に口にした量そのものではなく、家庭で買われた食品の種類や割合を示す、いわば消費の代わりとなる指標です。ただし、これまでの分析手法の多くは、一定期間の購入をひとりにつき一つの値にまとめてしまうため、買い方が時間とともにどう変わるかという情報が失われていました。
研究チームは、隠れマルコフモデルと呼ばれる統計手法を食料品の購入データに当てはめる具体的な枠組みを示すことを目的としました。このモデルは、直接は見えない「状態」(ここでは買い物のパターン)を観測データから推定し、人がそれらの状態の間をどのように行き来するかを確率として表すものです。あわせて、その結果から性別、年齢、世帯構成、世帯収入による違いを描き出すことも目指しました。
何を調べたか
研究では、フィンランドの大手小売グループの会員で研究参加に同意した人々の、2016年9月から2018年12月までの28か月分の購入記録を用いました。家庭の食料品購入の40%以上をこの小売店で行っていると回答し、背景質問票にも答えた2万9245人が分析対象となり、有効な月単位の記録は69万4753件にのぼりました。
購入された食品・飲料は、栄養価にもとづいて161の食品群に分類され、世帯の人数や利用頻度の違いをならすため、2500キロカロリーあたりのグラム数に換算されました。1か月の購入量が1週間分の目安(1万7500キロカロリー)に満たない月は除外されています。さらに、多数の食品群を少数の軸に要約する次元削減を行ったうえで、月ごとのデータに隠れマルコフモデルを当てはめ、最終的に9つの状態を持つモデルが採用されました。推定された各状態には、栄養の研究者が購入の特徴をもとに名前を付けています。
主な結果:9つの買い物パターンと、その安定性
見いだされた9つのパターンは、三つのグループに整理されました。一つ目は「健康志向」で、赤身肉・加工肉や砂糖入り飲料の購入が少なく、植物性食品を重視する「バランス型」「家庭料理型」「フレキシタリアン型」「プラネタリー型」の4つです。プラネタリー型は乳製品を含む動物性食品全般の購入が比較的少なく、最も植物中心のパターンでした。二つ目は「嗜好品志向」で、赤身肉・加工肉が多く、植物性食品や食物繊維の多い穀物が少ない「伝統型」「手軽さ重視型」「砂糖入り飲料・スナック型」「ビール・菓子・ごほうび型」の4つです。三つ目は「乳児向け」で、粉ミルクや離乳食の購入が際立つ1つのパターンでした。
各パターンの割合は期間を通じて3〜19%で、最も多かったのは手軽さ重視型、伝統型、家庭料理型、バランス型でした。期間中、フレキシタリアン型、プラネタリー型、砂糖入り飲料・スナック型はゆるやかに増える傾向が見られました。また、家庭料理型は夏に少なくなり、ビール・菓子・ごほうび型は年末に高まるといった季節的な動きも報告されています。国の食事指針と照らし合わせると、健康志向のパターンはいずれも平均して赤身肉の目安を満たし、フレキシタリアン型とプラネタリー型は果物・野菜の目安も満たしていました。一方、嗜好品志向のパターンはどれも果物・野菜の目安に届かず、魚とナッツ・種子類の目安を満たすパターンは一つもありませんでした。
買い物のパターンは月単位ではかなり安定しており、翌月に別のパターンへ移る確率は低いものでした。1年単位で見ても、乳児向けパターンを除けば同じパターンにとどまる確率は41〜69%と推定されています。参加者のおよそ半数(47%)は期間を通じて一つのパターンにとどまり、移った人の多くも2〜3のパターンの間での行き来でした。移り変わりは主に健康志向どうし、あるいは嗜好品志向どうしといった似たパターンの間で起こり、たとえばプラネタリー型とフレキシタリアン型の間を行き来する確率が比較的高くなっていました。乳児向けパターンからは、他のパターンへ移っていく傾向が見られました。
属性による違いと、研究が示すこと
属性別に見ると、女性は男性より健康志向のパターンが多く(48%対43%)、男性は嗜好品志向のパターンが多い傾向にありました(55%対49%)。60歳以上ではバランス型や家庭料理型が好まれる一方、若い世代ではフレキシタリアン型やプラネタリー型といった植物中心のパターンが目立ちました。大人だけの世帯では健康志向が多く、子どものいる世帯では嗜好品志向が多く、とくに大人1人と子どもの世帯では70%を占めました。収入の最も高い層では健康志向が54%だったのに対し、月1000〜1999ユーロの層では36%でした。なお、これらは属性とパターンの関連を示したもので、属性が買い方を決める原因であることを示したものではありません。
パターンの移りやすさも属性によって異なりました。月あたりの平均的な移行確率は、30歳未満で7.8%と最も高く、70歳以上では1.9%と最も低く、年齢が上がるほど買い方が安定している様子がうかがえます。世帯構成別では、大人2人と子どもの世帯が7.3%と最も高い値でした。
著者らは、隠れマルコフモデルが、長期間にわたって頻繁に記録された購入データから、解釈しやすい形で買い方の変化をとらえられる手法であると結論づけています。見いだされたパターンは比較的安定しており、変化はゆるやかで、移るとしても似たパターンの間が中心でした。この結果は、食料品の買い方が簡単には変わらないものであることを示していると研究チームは述べています。
原著論文の著者・所属:Anna M. Ruokolahti(Department of Food and Nutrition, University of Helsinki, Helsinki, Finland; Health Sciences Unit, Faculty of Social Sciences, Tampere University, Tampere, Finland)、Haniyeh Danesh Doost(Department of Clinical Chemistry, Fimlab Laboratories, and Finnish Cardiovascular Research Center - Tampere, Faculty of Medicine and Health Technology, Tampere University, Tampere, Finland; Health Sciences Unit, Faculty of Social Sciences, Tampere University, Tampere, Finland)、Anna-Leena Vuorinen(Health Sciences Unit, Faculty of Social Sciences, Tampere University, Tampere, Finland)、Henna Vepsäläinen(Department of Food and Nutrition, University of Helsinki, Helsinki, Finland)、Reija Autio(Health Sciences Unit, Faculty of Social Sciences, Tampere University, Tampere, Finland)、Maijaliisa Erkkola(Department of Food and Nutrition, University of Helsinki, Helsinki, Finland)、Mikael Fogelholm(Department of Food and Nutrition, University of Helsinki, Helsinki, Finland)、Hannu Saarijärvi(Faculty of Management and Business, Tampere University, Tampere, Finland)、Jaakko Nevalainen(Health Sciences Unit, Faculty of Social Sciences, Tampere University, Tampere, Finland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Anna M. Ruokolahti, Haniyeh Danesh Doost, Anna-Leena Vuorinen, et al. Uncovering food purchase behaviors and their shifts using Hidden Markov Modeling. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity 2026-08-07. DOI: 10.1186/s12966-026-01963-4. 原著ライセンス:CC BY.