この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

都市農業とは、都市やその周辺の空き地・公園・区画などで野菜などを育てる取り組みを指します。アメリカでは19世紀から不況や戦時下のたびに広がっては縮小してきた歴史があり、近年はコミュニティガーデン(住民が区画を借りて自ら栽培する形)やファームスタンド(都市で育てた野菜を地域で販売・配布する形)として再び注目されています。一方で著者らは、都市農業が「中産階級の白人リベラルの趣味にすぎない」と見られがちで、移民など周縁化された人々の食生活に実際どう作用するのかは、学術的にあまり検討されてこなかったと指摘します。

そこで研究チームは、ミネソタ州ツインシティーズ(ミネアポリスとセントポール)を対象に、都市農業が移民の食の安全(フードセキュリティ)と食事の多様性にどう影響するのかを調べました。あわせて、コミュニティガーデン型とファームスタンド型で効果がどう異なるのかも比較しています。論文によれば、ヘネピン郡の住民の11%、ラムジー郡の13%が食の不安定な状態にあり、低所得層や移民ではその割合はさらに高いとされています。

どのように調べたか

調査は2024年夏に行われ、大学の倫理審査の承認を得て実施されました。研究チームはまず四つの都市農業団体に連絡を取って農場の運営者に聞き取りを行い、そのうえで、それぞれの農場から何らかの形で農産物を得ている第一世代・第二世代の移民に調査票を実施しました。比較のため、都市農業を利用していない移民の対照群にも同じ調査を行っています。最終的な回答者は57人で、コミュニティガーデン利用者、ファームスタンド利用者、対照群の三つにほぼ均等に分かれました。ほかに6件の長時間インタビューも実施しています。

調査票は、基本的な属性に加えて、過去24時間に食べたものを思い出してもらう「24時間思い出し法」と、直近4週間に食べ物をめぐってどんな困りごとがあったかを自己申告してもらう国際的な尺度(HFIAS)で構成されました。食べた材料は12の食品グループに分類され、食事の多様性を示す複数の指標が算出されています。研究チームはさらに、食品グループの有無だけでなく、実際に何種類の野菜を食べたかを数える独自の指標も作りました。そして、各食材がどこで入手されたかを記録することで、「都市農業から得た野菜を除いた場合」に食事の多様性がどう変わるかを計算し、都市農業由来の食材がどれだけ寄与しているかを検討しています。

分析の枠組みとしては、食の安全を「利用可能性」「アクセス」「安定性」「活用(調理設備や知識、時間といった食以外の資源)」「持続可能性」「主体性(自分が何を食べ、どう生産されるかを自分で決められること)」の6つの側面からとらえる考え方と、人と環境の関係を政治・経済の文脈から読み解く政治生態学の視点が用いられました。

報告された主な結果

研究チームによれば、食事の多様性の全体像やカロリー摂取、基本的な食へのアクセスといった単純な指標だけを見ると、都市農業を利用する移民と対照群とのあいだに違いは現れませんでした。著者らは、食の安全を狭く定義すると都市農業の働きが見えなくなると述べています。

しかし多面的な枠組みで見ると、別の姿が浮かび上がったと報告されています。都市農業は新鮮な野菜を通じて、移民が重要な微量栄養素にアクセスすることを助けていました。さらに、文化的に意味のある作物を自分で植えたり食べたりできることで、食のシステムのなかでの移民自身の主体性が高まり、伝統的な食文化の維持につながる可能性が示されました。

二つの形態の比較では、この主体性への効果はコミュニティガーデンのほうが強い一方、ファームスタンドはより幅広い種類の野菜を提供できるという、利用可能性との間のトレードオフがあると報告されています。

この研究が示すこと

著者らは、土地へのアクセスの拡大、栽培期間を延ばす工夫、野菜以外の食品グループの追加といった条件が整えば、都市農業には食の安全を大きく高める潜在力があると結論づけています。ただしそれは、成長する都市圏でより収益性の高い土地利用から受ける圧力、ミネソタの厳しい冬、地域ごとに異なる移民と文化の組み合わせといった、その土地固有の事情に丁寧に向き合ってはじめて可能になる、とも述べています。

食の安全を「足りているか」だけで測るのか、「誰が何を食べるかを決められるか」まで含めて測るのか——その違いによって、同じ取り組みの評価が変わりうることを、この研究は具体的な事例を通して示しています。

著者:Reece McKee(Department of Geography, Macalester College)、William G. Moseley(DeWitt Wallace Professor of Geography, Macalester College)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Reece McKee, William G. Moseley. Strengthening the six-dimensions of food security for new Americans: the political ecology of immigrant urban agriculture in the Twin Cities, Minnesota. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-09-10. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1946965. 原著ライセンス:CC BY.