トルティーヤの原料になるトウモロコシは、石灰水で煮る「ニシュタマル化」という下処理を経て粉にされます。この工程で出る煮汁は「ネハヨテ」と呼ばれ、強いアルカリ性で有機物や浮遊物、カルシウムを多く含む廃水です。メキシコでは、この廃水が年間およそ1440万立方メートルも河川などに排出されていると推定されており、水資源や環境への負荷が課題になってきました。今回紹介する研究は、この身近な食品廃水を都市農業の灌漑に再利用できないかを検証したものです。
研究でわかったこと
研究チームは、小規模なトルティーヤ生産者から出るネハヨテ廃水を、微細藻類とシアノバクテリアを組み合わせたアルカリ好性の混合培養によって処理する方法を検討しました。処理には「HRAP」と呼ばれる開放型のフォトバイオリアクター(浅い水路状の培養槽で光合成微生物を育てる装置)が用いられ、処理後の水を都市農業の灌漑に活用できるかどうかが評価されました。
評価にあたっては、廃水の回収効率、処理の有効性、再利用の実現可能性、費用対効果、そして二酸化炭素排出量(カーボンフットプリント)といった要素を組み合わせ、「環境評価スコア(EAS)」という指標を新たに用いて、メキシコ・プエブラの都市食料システムを対象に3つの廃水回収シナリオ(回収率の異なるパターン)が比較されました。
その結果、いずれのシナリオでも部分的な廃水処理と資源回収に一定の可能性があることが示され、処理効率は55%、土壌の保水力は160%改善したと報告されています。費用対効果の面では、廃水の50%を回収するシナリオが最も高い比率(91.1)を示し、コストと便益のバランスに優れた構成であることが示唆されました。一方、環境面や資源回収の効果を総合したEASでは、廃水を100%回収するシナリオが最も高いスコア(77.63)となり、回収率を上げるほど得られる環境・資源面の恩恵がコストの増加をわずかに上回る結果になったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、トルティーヤ生産という食品システムの中に循環経済の実践を組み込む一つの試みとして、HRAPを用いた発酵ネハヨテの処理・活用に可能性があることを示すものです。ただし、著者らは、実際に大規模な運用へとつなげるためには、エネルギー効率の改善や処理プロセスの最適化といった技術的な課題が今後重要になると指摘しています。回収規模を単純に拡大するだけでは、全体としての持続可能性がかえって低下しかねない点にも注意が必要とされています。この記事はあくまで一つの研究成果を紹介するものであり、実際の水質改善効果や農業利用の安全性・効果を保証するものではありません。
まとめ
私たちが日々口にするトルティーヤの背後には、廃水という形で流れていく資源があります。今回の研究は、その廃水を微生物の力で処理し、都市農業の水資源として活かす可能性を、コストや環境負荷の観点から具体的に評価した点が興味深い試みといえます。まだ技術面の課題は残るものの、食品生産と資源循環を結びつける一つのアプローチとして注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:メキシコの食品システムにおける循環経済実践を支えるトウモロコシ石灰煮沸廃水の再利用(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)