コーヒー豆を焙煎するときに剥がれ落ちる薄い皮、「コーヒーシルバースキン」をご存じでしょうか。この副産物は焙煎工場で大量に発生しますが、食物繊維やポリフェノール(カテキンなど)、カフェインなどのメチルキサンチン類を豊富に含むことが知られています。今回紹介する研究では、このコーヒーシルバースキンを粉末にして、アイスクリームの生クリームの代わりに使えるかどうかを検証しました。研究チームはスペインのミゲル・エルナンデス大学の研究グループです。

アイスクリームは脂肪分が多いほど口当たりがなめらかになり、空気を含んだ安定した構造ができやすく、溶けにくくもなります。そのため脂肪を減らすと、氷の結晶が大きくなったり、コシがなくなったりといった弱点が出やすいという技術的な難しさがあります。世界的には低脂肪の乳製品への需要が年4%以上のペースで伸びているとされ、こうした課題を解決する素材探しが続けられてきました。

どのように調べたのか

使用されたコーヒーシルバースキンは、インドで栽培されたコーヒー(学名:Coffea canephora、いわゆるロブスタ種にあたる原料)の豆を195℃で12分間、浅めに焙煎した際に生じたものです。これを粉砕して粒径210マイクロメートル以下の粉末に加工しました。この粉末は食物繊維を100gあたり74.30g含み、遊離型・結合型のポリフェノールをそれぞれ100gあたり19.71マイクログラム、219.39マイクログラム、カフェインを1gあたり4.37ミリグラム含んでいたと報告されています。

この粉末を使い、生クリームを15.78%(SSIC25)または31.56%(SSIC50)置き換えたアイスクリームを作り、置き換えていない通常のアイスクリーム(対照群)と比較しました。評価项目は、成分分析、水分活性やpH、色、オーバーラン(撹拌によって取り込まれた空気の割合)、溶けやすさといった物理的性質、香り成分の分析(ガスクロマトグラフィー質量分析法)、ポリフェノールとカフェインの含有量、そして95人の消費者(男性33%、女性67%、主に学生や大学関係者)による9段階評価の官能評価です。

研究でわかったこと

置き換えの割合が増えるほど、アイスクリームの水分と脂肪分は減少しました。脂肪分はSSIC25で21.10%、SSIC50で41.71%減少したと報告されています。一方でたんぱく質は最大32.95%、灰分(ミネラルの総量の指標)も増加し、食物繊維は最大127.95%増えました。ミネラルの内訳を見ると、カルシウムやカリウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、銅は増加した一方、ナトリウムとリンは減少したとされています。研究チームの試算では、SSIC25を100g食べた場合、成人のカルシウム推奨摂取量の約20.5%、鉄・カリウム・マグネシウムのそれぞれ約12.9%、7.8%、8.9%をまかなえる計算になるとしています。

色については、粉末を加えるほど明るさ(L*値)が下がり、赤みと黄み、そして色の濃さ(彩度)が増して、褐色が強くなったと報告されています。これは焙煎由来のメラノイジンなど、加熱でできる褐色色素の影響と考えられるとされています。対照群との色の差(ΔE)はSSIC25で28.79、SSIC50で37.10と、人の目で違いがわかるとされる基準値(3程度)を大きく上回りました。

意外な結果として、空気の含有量を示すオーバーランは、粉末を加えるほど増加しました(対照群29.2%に対し、SSIC25で38.2%、SSIC50で52.2%)。これは粉末の食物繊維がミックスの粘度を高め、空気の泡を安定させたためと考察されています。一方で溶けやすさについては、統計的に意味のある差は見られなかったとされ、脂肪を最大31.56%減らしても溶けにくさは大きく損なわれなかったことになります。

香り成分の分析では、対照群で多かった乳製品らしい香りのケトン類(2-ヘプタノンや2-ノナノンなど)が、粉末の添加によって減少しました。代わりに、焙煎香やナッツ様の香りに関わるピラジン類(テトラメチルピラジンなど、対照群には検出されなかった成分)や、アーモンド様の香りのベンズアルデヒド、チョコレートやナッツを思わせる3-メチルブタナール(SSIC50のみで検出)といった、加熱による反応(メイラード反応)由来の香り成分が新たに現れたと報告されています。一方でクリーミーな香りに関わるラクトン類は、置き換えの前後であまり変化しなかったとされています。ポリフェノールについては、対照群では検出されなかったカフェ酸誘導体2種とバニリン酸誘導体1種が、粉末を加えたアイスクリームでは検出され、量はSSIC50のほうが多かったとされています。カフェインも対照群では検出されず、SSIC25で100gあたり214.90ミリグラム、SSIC50で335.25ミリグラムが検出されたと報告されています。

この研究を読むうえで気をつけたいこと

この研究は特定の条件下での一つの実験結果であり、結論が確定したものではありません。使用されたコーヒーシルバースキンはインド産の豆を特定の温度・時間で焙煎したものであり、焙煎条件や産地が異なれば、含まれる成分や風味への影響は変わる可能性があります。また色の変化が大きく、褐色が強く出る点や、カフェインが検出される点は、置き換えの割合によって嗜好性への影響も変わってくると考えられ、論文では官能評価もふまえて15.78%程度の置き換えが、栄養面の改善と味や食感への受け入れやすさのバランスを取る目安として位置づけられています。なお、本研究の抄録・本文の範囲では、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は見当たりませんでした。

まとめ

コーヒー豆の焙煎で生じる副産物を、アイスクリームの脂肪代替素材として活用する可能性を検討したこの研究では、脂肪分を減らしながら食物繊維やミネラル、ポリフェノールを増やせることが示された一方、色や香りには焙煎由来の変化がはっきりと表れることも報告されています。コーヒーの副産物を活用する試みは資源の有効利用という観点からも注目されていますが、実際の商品化に向けては風味やカフェイン量への配慮など、さらなる検討が必要と言えそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Candela-Salvador L, Fernández-López J, Noguera-Artiaga L, et al. From Coffee Coproduct to Functional Ingredient: Coffee Silverskin Flour as a Sustainable Fat Replacer in Ice Cream and Its Impact on Nutritional, Physicochemical, and Sensory Acceptance. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15132355. 原著ライセンス: cc-by.