この研究は、オランダの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Public Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の背景と目的
植物由来の代替肉は、気候変動や人口増加といった課題に向き合う食料システムのなかで、食肉生産の環境負荷を減らす選択肢のひとつとして注目されてきました。論文によれば、こうした製品を口にするのは菜食主義の人だけでなく、肉を減らそうとする柔軟な食生活の人や、ふだん肉を食べる人にも広がっています。
その一方で、植物由来の製品に「バーガー」「ソーセージ」「ステーキ」といった、これまで動物由来の食品に使われてきた言葉を用いてよいのかという議論が続いています。著者らは、そうした言葉が調理法や食べ方を理解する助けになるという意見と、消費者を誤認させ動物由来製品の価値を損なうという意見が対立してきた経緯を整理しています。
論文では「混乱」と「誤認させること(ミスリーディング)」は別の概念だと説明されています。混乱は、示された情報について消費者がはっきりしないと感じる認知的な反応であり、誤認させる情報とは、製品について不正確な印象を抱かせるような示し方をされた情報を指します。事実として誤っていなくても、示し方によっては誤認を招きうるとされます。著者らは、この区別を踏まえたうえで、代替肉の表示のどの部分がオランダの消費者に混乱あるいは誤認と受け止められているのかを明らかにすることを研究の目的としました。
どのように調べたか
研究チームは、オランダの消費者25名を対象に、2022年から2023年にかけて対面のフォーカスグループ(座談会形式の集団討議)を計5回実施しました。1回あたりの参加者は4〜6名、討議時間は90〜120分です。
グループの編成は、主食の食事で肉を食べる頻度によって分けられました。週2回以下の「非常習的な肉食」の人だけのグループ、週2回を超える「常習的な肉食」の人を含むグループ、そして両者を混ぜたグループです。似た食習慣の人同士では深く掘り下げ、混合グループでは異なる立場の間で議論が生まれることをねらったと説明されています。
討議は三つの段階で進められました。まず代替肉についての一般的な知識や経験を語り合い、次に表示や見せ方、混乱や誤認の可能性に焦点を当て、最後に市販されている二つの代替肉(肉に似せた製品と、似せていない製品)を実際に見ながら意見を交わしました。録音は文字に起こされ、リフレクシブ・テーマ分析という質的手法で分析されています。これは、データを繰り返し読み込んで意味のまとまり(テーマ)を見いだす方法で、研究者自身の立場が解釈に及ぼす影響を自覚し、明示することを重視する点に特徴があります。
報告された主な結果
分析から三つの主要なテーマが導かれました。「誤認を招きうる要素」「期待の管理」「誰に責任があるのか」です。
一つ目のテーマでは、製品名、売り場での置かれ方、そして信頼属性が鍵となる要素として挙げられました。参加者は、肉に似せようとしない製品については名前から中身が明らかで誤認を招かないと考える一方、肉を思わせる名前については意見が大きく分かれました。誤解を招くと感じる人もいれば、たとえば「ベジタリアンのチキン」という名前があることで料理の見当がつけやすいと利点を語る人もいました。ただし、いずれの立場でも、肉を使っていないことが包装上ではっきり分かることが誤認を避ける重要な条件だという点では意見が一致していました。
参加者たちは、肉のつもりで代替肉を買ってしまった経験はないと述べています。論文はこれを、スーパーマーケットで肉と代替肉の売り場が分けられていることと結びつけて報告しています。ただし冷凍食品売り場とスプレッド(パンに塗る食品)の売り場は例外で、特に冷凍売り場では包装がよく似ているため取り違えかねないと感じた参加者がいました(実際に取り違えた経験があったわけではありません)。
信頼属性とは、価格や見た目のように買う前に確かめられるものでも、味や食感のように食べれば分かるものでもなく、消費者が自分では判断できない性質のことです。環境への持続可能性や健康によいかどうかがこれにあたります。参加者の多くは当初、代替肉は肉より持続可能だろうと考えていましたが、話し合ううちに、表示にその情報がないため実際にどの程度そうなのかは判断が難しいと気づいたと報告されています。健康面についても、栄養強調表示や健康的に見える包装が期待を生むものの、必ずしもその通りとは限らず、それを誤認を招くものと受け止める参加者がいました。原材料についても、何が入っているのか分かりにくいという声が挙がった一方、それはスーパーの多くの製品にも当てはまることだという反論も同じ場で出されています。
二つ目のテーマである期待については、「チキン」「ミートボール」といった肉を思わせる言葉が、味や食感についての期待を生むことが示されました。ここでは肉を食べる頻度による違いが見られたと報告されています。ふだん肉を食べる参加者は、肉の代わりに食べるなら肉のような体験を求める傾向があり、同時に肉を思わせる名前を魅力に欠ける、あるいは分かりにくいと受け止める声が目立ちました。あまり肉を食べない参加者は、そうした言葉をさほど気にせず、言葉遊びとして面白がる人もいました。いずれにせよ、肉に似せようとして期待に届かなかった場合には落胆につながるという意見が語られています。参加者は全体として、より透明性の高い情報、たとえば原材料の出どころが分かる認証や品質マークのようなものを求めていました。
三つ目のテーマは、誤認を防ぐ責任の所在です。これは質問項目になかったにもかかわらず議論のなかから浮かび上がったもので、当局(EUと加盟国)、食品事業者と小売業者、そして消費者自身の三者が挙げられました。参加者は、正しい情報を提供する最も大きな責任は食品事業者にあると考えていました。同時に、消費者にも表示を読んで自ら情報を得る責任がある程度あると認めつつ、忙しさから実際には多くの人が丁寧に読まないだろうという指摘も出ています。
この研究が示すこと
著者らは、この結果から「法的な誤認」と「社会的な誤認」を区別することの重要性を指摘しています。前者はEU食品法に適合していない場合を指し、後者は、消費者が製品情報を解釈する過程で生じた混乱が、だまされたという主観的な感覚につながる場合を指します。表示を分かりにくいと感じたという事実だけでは、その表示が消費者を誤認させたことの証明にはならない——論文はこの点を繰り返し強調しています。
参加者が実際に取り違えて買った経験を語らなかった一方で、現在の表示のあり方に「だまされたように感じるかもしれない」という懸念を示したことは、この二つの誤認の隔たりをよく表しています。同時に、肉を思わせる言葉が親しみやすさを生み、味や調理法、使い方の手がかりになるという肯定的な側面も参加者から語られました。
著者らは、食品の流通全体を通じた明確で透明性のある情報伝達が必要であり、表示の標準化には規制の枠組みや政策の取り組みが重要な役割を果たしうると述べています。消費者の保護と、分かりやすい伝え方とを両立させることが、信頼を育むうえで欠かせないというのが、この研究から伝わるメッセージです。
著者:Linsay Ketelings(Food Claims Research Venlo, System Earth Science, Faculty of Science and Engineering, Maastricht University Campus Venlo)、Roos Caanen(Food Claims Research Venlo, System Earth Science, Faculty of Science and Engineering, Maastricht University Campus Venlo)、Remco C. Havermans(Laboratory of Behavioural Gastronomy, System Earth Science, Faculty of Science and Engineering, Maastricht University Campus Venlo)、Stef Kremers(School for Nutrition and Translational Research in Metabolism (NUTRIM), Department of Health Promotion, Maastricht University)、Alie de Boer(Food Claims Research Venlo, System Earth Science, Faculty of Science and Engineering, Maastricht University Campus Venlo)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Linsay Ketelings, Roos Caanen, Remco C. Havermans, et al. Seductive or deceiving? A focus group study on perspectives and expectations of consumers on meat alternative labeling practices. Frontiers in Public Health 2026-09-22. DOI: 10.3389/fpubh.2026.1938629. 原著ライセンス:CC BY.