著者の所属・活動拠点の国は、メキシコ、アメリカです。

掲載誌:The Science of The Total Environment

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

メキシコでは先スペイン期から土鍋で料理をする習慣があり、16世紀以降は酸化鉛を含むうわぐすり(釉薬)を塗った鍋が広く使われてきました。釉薬は液体のしみ込みを防ぎ、見た目も美しくしますが、窯の温度が十分でないと鉛が表面に残り、調理や保存の際に食べ物へ溶け出すおそれがあります。研究チームによると、こうした鉛釉の陶器はメキシコで一般の人々が鉛にさらされる主な原因とされています。2020〜2024年の全国健康栄養調査では、国内基準(血中鉛濃度5μg/dL超)を上回る子どもの割合が15.8%と報告されています。

研究チームは、伝統的な鉛釉の陶器、鉛を使わない釉薬の陶器(無鉛釉陶器)、そして高温の窯で焼かれる装飾陶器「タラベラ」の3種類を比べることを目的としました。比べたのは、器に含まれる鉛の量と、調理中や保存中に食べ物側へ溶け出す鉛の量です。さらに、その結果をもとに、日常的な食事を通じて血中の鉛濃度がどの程度上がりうるかを推計しました。

どのように調べたか

対象は、研究のために購入した容量500mLの陶器13点で、プエブラ州とオアハカ州の産品です。内訳は鉛釉の陶器4点、無鉛釉陶器6点、タラベラ3点でした。まず、器の内側と外側について鉛を調べました。色の変化で鉛の有無を判定する2種類の簡易検査と、X線を当てて含まれる元素の量を測る装置(蛍光X線分析)を使いました。

次に、食べ物を模した3種類の液体などを器に入れて加熱しました。比較用の脱イオン水、実際に炊いた米、そして酸っぱいソースのような酸性の料理を想定した4%酢酸溶液です。鉛釉と無鉛釉の器はガスコンロで15分と30分加熱し、その後室温で2時間、24時間置いて試料を採りました。タラベラは直火に耐えないため、本来の使われ方に合わせて電子レンジで加熱し、米の試験は行いませんでした。試料中の鉛は、ごく微量の金属を測定できる高感度の分析法(ICP-MS)で測りました。そのうえで、加熱前の液体や米にもともと含まれていた鉛を差し引き、「正味の溶出量」を求めました。

血中鉛濃度の推計には、米国環境保護庁の鉛体内動態モデル(AALM)を用いました。メキシコの全国調査に基づく年齢別の平均的な米の摂取量を使い、鉛の摂取源は食べ物(器で炊いた米)だけと仮定しています。これは理論上の計算です。

主な結果

鉛釉の陶器からは、非常に高い濃度の鉛が検出されました。蛍光X線分析による中央値は、内側で202,400ppm、外側で185,000ppmでした。一方、無鉛釉陶器ではどの方法でも鉛は検出されませんでした。タラベラは、蛍光X線分析では鉛を含むことが示されました。しかし、表面の溶け出しやすい鉛をとらえる簡易検査では反応しませんでした。研究チームは、高温の窯で焼くことで鉛が釉薬に固定され、溶け出しにくくなっているためと説明しています。

鉛釉の陶器では、加熱や保存の時間が長くなるほど、また液体が酸性であるほど鉛の溶出が大きくなりました。4%酢酸溶液では、24時間保存後の正味の溶出量が中央値で637.4185ppmに達しました。米を30分炊いた場合の正味の溶出量は1.2739ppmでした。これはメキシコの陶器からの鉛溶出の基準値0.5ppmを超え、もとの米に含まれていた鉛に比べて1882%の増加にあたります。鉛釉の器で加熱したすべての条件で、正味の溶出量は世界保健機関(WHO)の飲料水の指針値またはメキシコの基準値を上回っていました。

これに対し、無鉛釉陶器とタラベラでは、正味の溶出はほとんど、あるいはまったく見られませんでした。ただし無鉛釉陶器で炊いた米には小さな増加がありました。30分加熱後の正味の溶出量は0.1148ppmで、基準値は下回っていました。

モデルによる推計では、鉛釉の器で炊いた米を平均的な量食べ続けた場合、無鉛釉の器と比べて血中鉛濃度がおよそ11倍高くなると予測されました。年齢層と性別をならした上昇幅は平均で約1.6μg/dLでした。成人女性(2.20μg/dL)や就学前の子ども(女児1.85μg/dL、男児1.76μg/dL)では特に大きくなりました。無鉛釉の器の場合の上昇は平均0.11μg/dLでした。

研究が示すこと

この研究は、実際の器を使った測定で、伝統的な鉛釉の陶器が食べ物へ多くの鉛を移しうることを示しました。調理中だけでなく、料理を入れたまま置いておく間にも鉛が移り、特に酸性の料理でその傾向が強くなりました。著者らは、鉛釉の陶器は大きな健康リスクをもたらすと結論づけています。また、無鉛釉の陶器はより安全な選択肢であるものの、完全に鉛がないわけではないとしています。器の種類の違いが、日々の食事を通じた鉛の摂取に結びつきうることを、具体的な数値で示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Alejandra Cantoral(Health Department, Iberoamericana University, Mexico City, 01219, Mexico. Electronic address: [email protected])、Larissa Betanzos-Robledo(Doctoral Program in Epidemiology, National Autonomous University of Mexico, Mexico City, 04510, Mexico)、Elizabeth Sefton(Pure Earth, New York, NY, 10115, USA)、Francisco Valverde(Tecnologico de Monterrey, School of Engineering and Sciences, Monterrey, 64700, NL, Mexico)、Rosa M. Mariscal-Moreno(Health Department, Iberoamericana University, Mexico City, 01219, Mexico)、Cristina Chuck(Tecnologico de Monterrey, School of Engineering and Sciences, Monterrey, 64700, NL, Mexico)、Gordon Binkhorst(Pure Earth, New York, NY, 10115, USA)、Richard Fuller(Pure Earth, New York, NY, 10115, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alejandra Cantoral, Larissa Betanzos-Robledo, Elizabeth Sefton, et al. Lead leaching from traditional Mexican ceramics during cooking and implications for population health risk. The Science of The Total Environment 2026-08-27. DOI: 10.1016/j.scitotenv.2026.182224. 原著ライセンス:CC BY.