著者の所属・活動拠点の国は、インドネシア、ナイジェリアです。
掲載誌:AKADEMIKA Jurnal Pemikiran Islam
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
揚げ物などに使った後の食用油(使用済み食用油)は、適切に回収すればバイオディーゼル燃料の原料などとして再利用できる資源です。しかし都市部では、回収の網の目がばらばらで、情報も行き届かず、住民の参加も一定しないといった課題があります。
研究チームは、インドネシアのバンダルランプン市のイスラーム教徒が多く暮らす都市地域を対象に、三つの点を調べました。環境への意識と実際の油の扱い方の間にどのような隔たりがあるか。地域の組織や行政、経済的な見返り、デジタル技術が回収の流れをどう支えうるか。そして、イスラーム法の目的を示す考え方「マカースィド・シャリーア」の原則を、地域主体の資源循環の仕組みにどう当てはめられるか、という点です。
著者らは、マカースィド・シャリーアを目指すべき公共の利益を示す枠組みとして位置づけました。そのうえで、生命の保護、財産の保護、信頼に応える誠実さ(アマーナ)、公正(アドル)といった価値が、油の分別と引き渡し、回収や保管の責任、収益管理の透明性、利益の公平な分配といった具体的な行動に表れているかを確かめようとしました。論文は、信仰をもつことが自動的に環境に配慮した行動につながるとは想定していない、としています。
どのように調べたか
調査は2026年2月から3月にかけて、市内の六つの地区で行われました。対象をよく知る人を選び、さらにその紹介で協力者を広げる方法により、主な情報提供者32人と、市の環境局および協同組合・中小零細企業担当部局の関係者2人から話を聞いています。
方法は、数値で効果を測る調査ではなく、事例を深く掘り下げる質的な探索的研究です。45〜90分程度の聞き取り、回収拠点や小規模事業者の作業場、廃棄物を預かって価値に換える地域組織「ごみ銀行」などでの観察、活動記録の確認、自由記述式のアンケートを組み合わせました。複数の方法や情報源を突き合わせ、協力者に内容を確認してもらうなどして、結果の信頼性を高める工夫をしています。
主な結果
まず、知識と行動の隔たりが報告されました。使い回した油や無造作に捨てた油が健康や環境に害を及ぼしうることを理解している家庭の協力者もいましたが、回収に出すために油を保管していたのは30%にとどまり、70%は再利用するか捨てていると答えました。屋台などの飲食系の小規模事業者は、油を繰り返し使うことで原材料費を最大35%抑えられると受け止めており、経済的な事情が使い回しの背景にあることが示されました。
次に、地域の回収の担い手として、使用済み油を扱う「バンク・ジュランタ・ブルカ」や「バンク・サンパ・エマック・id」などの組織が、家庭や飲食事業者とその先の回収業者をつなぐ役割を果たしていることが確認されました。油を受け取り、量り、記録し、価値を決めて支払いや積み立てを行い、次の業者へ引き渡すという流れです。住民は寄付、積み立て、直接販売の三つの方法から、自分の動機に合った形で参加できます。ただし論文は、こうした取り組みがあるからといって市内のすべての地域で回収が行き届いているとは言えないこと、また回収量などの数量データは得られていないことを明記しています。
デジタル技術については、世帯・事業者・回収業者の情報を記録し調整するプラットフォームが紹介されました。位置情報を使った地図機能は回収ルートの計画に役立ち、価格や量の記録は取引の追跡のしやすさを高めうると報告されています。回収拠点あたりの輸送費は1リットル当たり2,500ルピアから1,000ルピアへと下がり、60%の減少にあたります。ただし著者らは、この減少にデジタル化がどれだけ寄与したかは今後の検討が必要だとしています。また、技術は地域組織の役割を置き換えるものではなく、その効果はデータの質や運用者の力量、継続的な利用、役割分担の取り決めに左右されると述べています。
行政については、ごみ銀行や地域グループへの指導や設備面の支援が確認されましたが、政策の成果を評価する指標や実施前後の比較は得られておらず、論文は政策の成功度を判断するものではないとしています。
研究が示すこと
著者らは、使用済み食用油の回収が進まない理由は環境意識の不足だけではなく、知識と行動の隔たり、経済的な事情、回収サービスへの近づきにくさにあると結論づけています。そのうえで、地域の回収組織、多様な参加方法、行政の支援、経済的な見返り、デジタルによる調整を、マカースィド・シャリーアの枠組みのもとで組み合わせた「循環型ハイブリッドモデル」を提案しました。
この研究が伝えているのは、宗教的な価値観は呼びかけるだけでは行動に結びつきにくく、責任ある回収、透明な取引、公平な利益の分配といった具体的な仕組みに落とし込まれてはじめて意味をもつ、という視点です。モデルの効果は道徳意識そのものよりも、利用しやすい回収サービス、信頼できる見返り、関係者どうしの連携にかかっている、と論文はまとめています。
原著論文の著者・所属:Abizar(State Islamic University of Jurai Siwo Lampung, Indonesia)、Muhammad Mujib Baidhowi(State Islamic University of Jurai Siwo Lampung, Indonesia)、Moh Agus Nugroho(State Islamic University of Sultan Amai Gorontalo, Indonesia)、Frankline C.S.A. Okeke(Alex Ekwume Federal University, Nigeria)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Abizar, Muhammad Mujib Baidhowi, Moh Agus Nugroho, Frankline C.S.A. Okeke PROMOTING MAQASID AL-SHARI’AH THROUGH CIRCULAR HYBRID MODELS: WASTE COOKING OIL VALORIZATION IN URBAN MUSLIM COMMUNITIES OF BANDAR LAMPUNG. AKADEMIKA Jurnal Pemikiran Islam 2026-10-21. DOI: 10.32332/akademika.v31i1.13722. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。