著者の所属・活動拠点の国は、ルーマニアです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食品廃棄は、サプライチェーンでの損失、保存設備の不足、消費者の知識不足といった技術的な問題として扱われることが多くあります。しかし著者らによれば、食品廃棄は、それを防ぐ技術を最も備えているはずの社会でもなお多く残っています。そこで著者らは、廃棄を物流の問題だけでなく、必要以上のエネルギーや肉を供給する「過剰消費」の一部として捉え直せるのではないかと考えました。
研究チームは、多様な国々を比べて、食料システムの「豊かさ」、環境への負荷、食品廃棄が同じように動くかを調べました。そのうえで、得られたパターンを「食の倫理」と「食の市民性」という考え方で読み解こうとしています。食の倫理とは、節度、資源の尊重、環境の限界への配慮、動物由来食品が与える影響への意識などを指します。食の市民性とは、そうした倫理が日々の食行動に表れたものを指し、価格や便利さだけで選ぶ受け身の消費者と対比される概念です。
何をどのように調べたか
著者らは、所得水準、地域、食生活の違いが幅広く含まれるように、20か国を意図的に選びました。対象には米国、日本、ドイツ、中国、インド、ナイジェリア、エチオピアなどが含まれます。データは、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、世界銀行、国連環境計画(UNEP)などの国別統計を使いました。ただし、無作為に選んだ標本ではありません。そのため論文は、結果をこの20か国の傾向を描いたものと位置づけています。
使った指標は次の5つです。1人1日あたりの供給エネルギー量、成人の肥満率、1人あたりの肉の供給量、1人あたりのCO2排出量、1人あたりの食品廃棄量です。各指標は単位がばらばらなので、平均からどれだけ離れているかを示す共通の尺度に変換しました。これを平均して「システム的圧力指数」という総合指標を作っています。この指数に基づいて国々を上位・中位・下位の3グループに分けました。最も圧力の低いグループは、さらに所得の高い国と低い国に分けています。1人あたりの耕地面積は、消費行動ではなく国土条件を反映するため、指数には含めず別に扱いました。
さらに主成分分析も行いました。主成分分析は、複数の指標の動きをまとめ、背後にある少数の「軸」を取り出す手法です。著者らはこれを使い、食品廃棄が供給エネルギーや肉、肥満、CO2と同じ軸に乗るのか、別の軸に乗るのかを確かめました。
主な結果
豊かさと圧力が最も高いグループには、米国、オーストラリア、メキシコ、ルーマニア、ギリシャ、ブラジル、ポーランドが入りました。
一方、主成分分析では、食品廃棄が豊かさとは別の軸に乗る結果が出ました。最も大きな軸は全体のばらつきの63.3%を説明し、主に豊かさの指標に対応していました。食品廃棄はこの軸との相関が0.33にとどまりました。これに対し、ばらつきの20.8%を説明する2番目の軸とは0.93という強い相関を示しました。
圧力が最も低いグループの中では、性格の異なる2つのタイプが見えてきました。所得が高く消費が中程度のスウェーデンと日本は、食品廃棄量も対象国の中で最も低い水準にありました。両国より低かったのはオランダだけです。一方、インドネシア、ナイジェリア、インド、ケニア、エチオピアの低所得・制約型のグループは、消費量が最小限であるにもかかわらず、1人あたり年平均125.6kgと比較的多くの廃棄が報告されました。最も圧力の高いグループの平均148.0kgと大きくは離れていない値です。
著者らは、低所得国の廃棄量が比較的多い点について、仮説として慎重に説明しています。収穫後の取り扱いや低温輸送網の制約といった構造的な要因が、下流の廃棄にも影響している可能性があるという見方です。あわせて、これらの国の推計は信頼度が低い部分を含むため、解釈には注意が必要だとしています。また、指数から食品廃棄を除いて計算し直すと、4か国の分類が隣のグループに移りました。そのため論文は、分類が大筋では安定しているものの、完全に頑健とまでは言えないと報告しています。
研究が示すこと
論文は、食品廃棄が豊かさの単純な副産物として増えるわけではなく、豊かさとの結びつきは比較的弱いと結論づけています。同じように廃棄が少なく見えても、その背景は国によって異なり、高所得国では消費のあり方、低所得国では構造的な制約が関わっている可能性があります。
著者らは、食の倫理と食の市民性を、因果関係が証明された要因としてではなく、結果を読み解くための枠組みとして示しています。そこから導かれるのは、一律の食品廃棄対策ではなく、国のタイプに応じて行動面の働きかけと政策手段を使い分ける必要がある、という見方です。
原著論文の著者・所属:Ioana Mihaela Balan(University of Life Sciences “King Mihai I”, 30645 Timisoara, Romania)、Teodor Ioan Trasca(University of Agronomic Sciences and Veterinary Medicine of Bucharest, 011464 Bucharest, Romania; University of Life Sciences “King Mihai I”, 30645 Timisoara, Romania)、Nicoleta Mateoc-Sirb(Branch of Timisoara, Romanian Academy, 300223 Timisoara, Romania; University of Life Sciences “King Mihai I”, 30645 Timisoara, Romania)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ioana Mihaela Balan, Teodor Ioan Trasca, Nicoleta Mateoc-Sirb. From Food Waste to Food Citizenship via Food Ethics—Cross-Country Analysis. Foods 2026-10-26. DOI: 10.3390/foods15213822. 原著ライセンス:CC BY.