日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

食べ物を無駄にしてしまうことへの罪悪感は誰にでもあるものですが、それを実際に減らす行動につなげるのは簡単ではありません。これまでの研究の多くは、食品ロスの環境負荷を伝える情報提供や啓発キャンペーンに焦点を当ててきましたが、それだけでは行動が変わりにくいことも指摘されてきました。今回、広州大学とナンザン大学の研究者による論文が、情報ではなく「感情」、それも壮大な景色や体験に触れたときに生じる「畏敬の念(awe)」という感情が、食品ロスを減らそうとする気持ちにどう関わるのかを実験的に調べています。

なお本研究は、責任著者であるYang Liu氏がナンザン大学(日本・名古屋)に所属していることから、日本主導の研究として位置づけられます。共著者のYang Zhou氏は広州大学外国語学院に所属しています。

どうやって「畏敬の念」を起こさせ、何を測ったのか

研究チームは2025年1月から3月にかけて、オンライン実験プラットフォーム「Credamo」を通じて800人を募り、注意確認に通らなかった12人を除いた788人(畏敬条件397人、中立条件391人)を分析対象としました。参加者は無作為に「畏敬条件」と「中立条件」の2グループに分けられ、畏敬条件では夕日や山の景色など、畏敬の念を感じた体験を50語以上で書き出す課題に取り組んだうえで、畏敬を誘発する画像を100秒以上見てもらいました。中立条件では日常の何気ない出来事を同じ長さで書いてもらい、中立的な画像を見てもらいました。

その後、参加者は「畏敬の念」の強さに加え、食品ロス削減意図(RFWI)、そして規範活性化モデル(NAM)という理論の枠組みに基づく3つの心理的要素——結果への気づき(AC)、責任の自覚(AOR)、個人規範(PN)——を尋ねる質問票に回答しました。あわせて、環境に関する結果を自分の行動で左右できると考える度合いを示す「環境統制感(ELOC)」も測定されています。この尺度はもともと「自分の行動では変えられない」という外的統制の向きで作られていたため、分析時には数値を逆転させ、スコアが高いほど内的な統制感(自分の行動で変えられるという感覚)が強いことを示すよう処理されています。

実験で確認されたこと

まず操作チェックとして、畏敬条件の参加者は中立条件の参加者に比べて、実際に畏敬の念を強く感じたと報告しており(畏敬条件の平均4.08、中立条件の平均2.23、統計的に有意な差)、実験による感情誘発がねらいどおりに機能していたことが確認されました。一方、喜びなど畏敬以外の感情の強さには両条件で有意な差は見られませんでした。

構造方程式モデリングという統計手法を用いた分析の結果、畏敬の念は食品ロス削減意図に直接的にプラスの関連を示すとともに、「結果への気づき→責任の自覚→個人規範」という一連の流れを経た間接的な経路でもプラスの関連を示すことが報告されています。つまり、大きく美しいものに触れて畏敬の念を抱いた人ほど、食べ物を無駄にすることの影響に気づき、自分に責任があると感じ、それが個人的な規範意識となって、食品ロスを減らそうとする意図を強めるという流れが観察されたということです。

さらに、環境統制感(内的ELOC)が高い人ほど、畏敬の念が結果への気づき・責任の自覚・個人規範に与える影響が強まるという調整効果も確認されました。言い換えると、「自分の行動が環境に影響を与えられる」と信じている人のほうが、畏敬という感情体験を実際の行動意図へとつなげやすい傾向があったとされています。モデル全体では、食品ロス削減意図のばらつきの52.3%を説明できたと報告されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

著者らは、この結果が「畏敬の念」を環境配慮行動の理論に組み込む試みとして意義があるとしつつ、いくつかの限界にも言及しています。まず、実験で測定されたのはあくまで「食品ロスを減らそうとする意図」であり、実際に食品ロスが減ったかどうかという長期的な行動そのものは検証されていません。著者らも、畏敬の念は短期的な心理的引き金として働く可能性があるとしたうえで、今後は実際の食品ロス行動を長期的に調べる必要があると述べています。また、この研究は中国語話者を対象としたオンライン実験であり、共通方法バイアス(同じ方法で測定したことによる回答の偏り)についても検証されていますが、著者ら自身、その影響を完全には排除できないとも述べています。

今回の結果は、壮大な自然や芸術に触れる体験が、食べ物への向き合い方を見つめ直すきっかけになりうることを示唆するものですが、一つの実験研究の結果であり、これによって食品ロス問題が解決するとまで言えるものではありません。今後、実際の食生活の中での行動変化を追跡する研究が待たれます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yang Zhou, Yang Liu. How awe influences the reduction of food waste intention: an empirical study on the antecedent pathways of the norm activation model. フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ (2026). DOI: 10.3389/fsufs.2026.1907566. 原著ライセンス: cc-by.