この研究は、イタリア、スペイン、オーストラリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Italian Journal of Marketing

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ホテルの朝食ビュッフェでは、好きな料理を好きなだけ取れる気軽さから、食べきれない量を皿に取ってしまい、食品が残されやすくなります。旅行は楽しみやくつろぎを重視する場面であるため、食品ロスを減らす配慮は後回しになりがちだと、これまでの研究でも指摘されてきました。

この研究で研究チームは、ビュッフェに掲示する呼びかけメッセージが、客の残す食べ物の量とどのように関係するかを調べました。対象は、イタリアの4つ星ホテルとオーストラリアの5つ星ホテルの朝食ビュッフェです。文化や社会の背景によってメッセージの受け止め方が違う可能性があるという先行研究を踏まえ、実際のホテルの現場で二つの場所の反応の傾向を比べています。著者らは、文化が直接の原因だと証明することではなく、それぞれの現場でどのような傾向が見られるかを探ることを目的としています。

何をどう調べたか

調査は2021年から2024年にかけて、複数の期間で行われました。客にはこの取り組みが調査であることを知らせていません。メッセージは、ビュッフェで客が料理を選ぶ場所の見やすい位置に掲示されました。

使われたメッセージは2種類です。一つ目は、クロワッサン1個(40グラム)の栄養価を示し、そのエネルギーが「20分のランニング」に相当するなどと説明したうえで、健康的な朝食には1個が目安であり、食べる分だけ取って皿に残さないよう求めるものです。研究ではこれを、損失を強調する「ロスフレーム」で、自分自身の利益に訴えるメッセージと位置づけています。二つ目は、ホテルが環境認証を取得していることを紹介し、食品ロスを減らすというホテルの目標に協力してほしいと呼びかけるものです。こちらは、得られる良い結果を強調する「ゲインフレーム」で、他者や社会の利益に訴えるメッセージとされています。

ただし、二つのメッセージは、損失か利益かという表現の違いだけでなく、誰の利益に訴えるか、健康と環境のどちらを話題にするかも異なります。そのため著者らは、これらを単一の要素の比較ではなく、複数の要素を組み合わせた「メッセージの組み合わせ」として扱っています。

各回の調査は3週間を1サイクルとし、1週目は掲示なし、2週目は健康のメッセージ、3週目は環境のメッセージという順番で進め、このサイクルを繰り返しました。ホテルの従業員が毎日、客の皿に残されたクロワッサンを数えました。ほぼ丸ごと残っていれば「1」、半分以下なら「1/2」として記録しています。重さを正確に量るのは実際の営業中には難しいため、この簡便な方法が採られました。記録は各ホテルで63日分あり、掲示なしの週とメッセージを掲示した週の残量を統計的に比べています。

あわせて、ホテルの受付や会計カウンター、ビュッフェに置いたQRコードを通じて、環境意識や食品ロスへの考え方を尋ねる任意のアンケートも実施しました。回答数はイタリアのホテルで137件、オーストラリア(メルボルン)のホテルで48件でした。

主な結果

健康面に訴えるメッセージについて、イタリアのホテルでは9回の週ごとの比較のうち7回で、掲示なしの週に比べてクロワッサンの残量が統計的に意味のある減少を示しました。オーストラリアのホテルでは、9回のうち5回にとどまりました。

環境面に訴えるメッセージについても、イタリアのホテルでは掲示なしの週より残量が一貫して少なくなりました。オーストラリアのホテルでも一部で減少は見られたものの、効果はより弱く、週によるばらつきも大きかったと報告されています。研究チームは、どちらのメッセージも残量の減少と関連していた一方、その大きさや安定性は二つのホテルで異なっていたとまとめています。

アンケートでも二つのホテルで違いが見られました。日常的な環境配慮の習慣を尋ねた質問では、最も環境に配慮した回答を選んだ人がイタリアでは約62%、オーストラリアでは約24%でした。食べ物を捨てることが環境に悪いと考えるかといった質問では、最も強い懸念を示す回答の割合が、オーストラリアの52.1%に対し、イタリアでは80.6%でした。さらに、掲示が自分の食べ方に良い影響を与えたかを尋ねた質問では、イタリアの回答者の71.2%が最も強い影響を示す「7」を選びました。一方、オーストラリアの回答者では「3」が50%と最も多く、高い評価(6〜7)は15.6%にとどまりました。

ただし著者らは、アンケートは任意回答で人数にも差があり、残量の記録とも結びついていないため、現場の結果を直接説明するものではなく、背景を補う参考情報として扱うべきだとしています。

この研究が示すこと

研究チームは、メッセージの効果は文化の違いだけで決まるのではなく、ホテルの運営形態や滞在日数、客の行動の傾向など、複数の要因が重なって表れる可能性があると考察しています。実際、二つのホテルは星の数や平均滞在日数が異なり、各国1軒ずつの調査でもあります。また、メッセージは決まった順番で掲示されており、残量の測り方も簡便なもので、対象はクロワッサン1品目に限られていました。そのため著者らは、結果は厳密な因果関係ではなく、傾向を示すものとして解釈すべきだとしています。

それでも、実際に営業しているホテルで繰り返し観察した結果、掲示メッセージと食べ残しの減少との関連が確認され、その現れ方が場所によって異なることが示されました。食品ロスを減らす呼びかけは、どこでも同じ方法が通用するとは限らず、その場の客や運営の状況に合わせて考える必要がある。この研究は、そのことを現場のデータから示しています。

著者:Claudia Cozzio(Faculty of Economics and Management, Free University of Bolzano, Bolzano, Italy)、Francisco J. Santos‐Arteaga(Department of Financial and Actuarial Economics & Statistics, Complutense University of Madrid, Madrid, Spain)、Ajay Khatter(William Angliss Institute, Melbourne, Australia)、Oswin Maurer(Faculty of Economics and Management, Free University of Bolzano, Bolzano, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Claudia Cozzio, Francisco J. Santos‐Arteaga, Ajay Khatter, et al. Persuasive message bundles and food waste reduction: a field-based comparison across hotel settings in Italy and Australia. Italian Journal of Marketing 2026-10-01. DOI: 10.1007/s43039-026-00143-3. 原著ライセンス:CC BY.