著者の所属・活動拠点の国は、イタリア、南アフリカ、イギリス、ケニアです。

掲載誌:Societies

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ヨーロッパの大学の学生食堂は、手頃な価格で食事を提供して学生の食の安全を支え、経済的な格差をならし、学生同士が交流する場にもなると考えられてきました。一方で、利用のしやすさには学生によって差があります。その背景としては、お金や移動の不便さだけでなく、食堂という場所に人々が抱く文化的なイメージもあると考えられますが、この側面はあまり調べられてきませんでした。

著者らは、ミラノの学生が昼休みをどう過ごし、何をきっかけに学生食堂を使ったり避けたりするのかを明らかにしようとしました。特に注目したのは、食堂に対するイメージ、記憶、期待が、学生と食堂の関係にどう影響するかです。論文はこうしたイメージを「食をめぐる想像(イメージ)」と呼んでいます。

何を調べたか

研究チームは2025年4月から5月にかけて、ミラノのサクロ・クオーレ・カトリック大学の学生56人に個別の聞き取りを行いました。質問をおおまかに決めたうえで自由に語ってもらう「半構造化インタビュー」という方法です。参加者は、協力者から次の協力者を紹介してもらう形で集めました。統計的に全体を代表することは目指していません。語りの記録全体から繰り返し現れるテーマを取り出す方法で分析しました。

論文によると、ミラノでは家族と暮らしながら近郊から毎日通う学生が多く、この点で北ヨーロッパの大学都市とは事情が異なります。今回の参加者も大半が19〜25歳の学部生で、71%が家族と同居していました。

主な結果

著者らによると、学生にとって昼休みは、限られた時間、場所、お金をやりくりする場面でした。授業が詰まっているため食事に使える時間は短く、速さと近さが重視されます。食堂が教室から離れていると、移動だけで休み時間の大部分がなくなってしまいます。そのため、費用は払えても時間の面で使いにくくなっていました。代わりに最も広く選ばれていたのは、家から弁当(ミラノで「スキシェッタ」と呼ばれるもの)を持ってくる方法です。ほかに、費用が高くても速くて近い周辺の店を使う学生もいました。

56人中37人は食堂を利用しておらず、利用者もたまに使う程度でした。食事で重視する点を5段階で尋ねると、平均は味が4.55、健康が3.66、費用が2.98で、費用は3番目でした。ただし著者らは、多くの学生が家族の援助を受けているという事情を踏まえて、この結果を読む必要があると述べています。収入のない学生にとっては、補助のある食堂の価格でも計画的なやりくりが必要になるからです。

論文が特に重視したのは、食堂のイメージです。学生は大学内の複数の食堂を区別せず、食堂を混雑した騒がしい場所として描いていました。37%を超える回答者は、「食堂(メンサ)」という言葉から、今の大学ではなく小中学校の給食の場を自分から思い浮かべていました。そこは、うるさく、食べることを強いられ、味気ない決まった献立で、自分で選べない場所として記憶されていました。著者らは、こうした子どもの頃の記憶が、実際に大学の食堂を試す前から避ける気持ちにつながっていると報告しています。

一方で、そうした抵抗感を上回る力として見いだされたのが、友人との付き合いです。食堂の料理や雰囲気が好きでない学生でも、仲間が集まる場所になっていれば足を運んでいました。学生たちは食堂を「待ち合わせ場所」や、授業の外で一緒に過ごす場として語っています。決まった席を自分たちの場所にしたり、持参した食事を食堂で食べたり、勉強に使ったりする例もありました。著者らはこれを、学生が食堂の意味を自分たちの場所として塗り替えている姿だと解釈しています。

この研究が示すこと

著者らによれば、今回の学生にとって学生食堂は、ヨーロッパの研究でよく描かれるような、食の困窮を防ぐ欠かせない支えではありませんでした。家庭が食事の主な供給源になっているためです。食堂を使うかどうかは、価格や移動の便も考えたうえで、過去の記憶から生まれたイメージと仲間との関係に大きく左右されていました。

この研究は一つの大学を対象にした探索的な調査で、結果をヨーロッパの学生全体に当てはめられるわけではない、と著者らは断っています。そのうえで著者らは、食堂の利用を広げるには、料理の質や価格だけでなく、空間のあり方、提供の仕方、学生が持ち込む食堂のイメージにも目を向ける必要があると結論づけています。

原著論文の著者・所属:Michele Filippo Fontefrancesco(Department of Sociology, Università Cattolica del Sacro Cuore, 20123 Milan, Italy; Faculty of Management Science, Durban University of Technology, Durban 4001, South Africa; School of Department of Anthropology, Durham University, Durham DH1 3HP, UK; School of Education and Social Sciences, University of Embu, Embu 60100, Kenya)、Martina Pili(Department of Sociology, Università Cattolica del Sacro Cuore, 20123 Milan, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Michele Filippo Fontefrancesco, Martina Pili. More than a Meal: The Cultural Imaginary and Practices Behind Student Access to University Canteens in Milan. Societies 2026-08-18. DOI: 10.3390/soc16080264. 原著ライセンス:CC BY.