この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Animals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

夏の高温は、鶏卵生産における大きな制約の一つとされています。採卵鶏は代謝によって体内で多くの熱を生み出す一方、汗をかいて体を冷やす仕組みに乏しく、羽毛が断熱材のように働くため、暑さの影響を受けやすいと研究チームは説明しています。高温にさらされると、飼料の摂取量や産卵成績、卵の品質、体内のバランス、抗酸化の働き、免疫機能などが損なわれることが、これまでの報告で示されています。

クロロゲン酸は、コーヒー豆や薬用植物に広く含まれるポリフェノールの一種で、抗酸化、抗炎症、抗菌、脂質の調節といった性質が報告されています。ただし著者らによれば、これまでの家禽での研究の多くは短時間の急激な高温負荷や、薬剤で人工的に起こした酸化ストレスを扱ったもので、日中の高温と夜間の平温が繰り返される「周期的な暑熱」の条件下で、比較的少ない添加量でも効果があるのかは、十分に分かっていませんでした。

そこで研究チームは、クロロゲン酸を多く含む生コーヒー豆抽出物を飼料に加えることで、周期的な暑熱による産卵成績と抗酸化状態の低下を部分的に和らげられるのではないか、また添加量の違いによって血液中の代謝物や肝臓の遺伝子発現の反応が異なるのではないか、という仮説を立てて検証しました。

どのように調べたか

著者らは、およそ50週齢の採卵鶏240羽を、体重・産卵率・健康状態がそろうように4つの処理区に分けました。区分は、常温で通常の飼料を与える対照区、暑熱にさらして通常の飼料を与える暑熱区、そして暑熱下で抽出物を飼料1キログラムあたり100ミリグラム加える区と、200ミリグラム加える区です。各区は15羽ずつ4つの反復に分けられ、統計解析では個体ではなく反復を単位としました。用いた製品はクロロゲン酸を70%含む生コーヒー豆抽出物で、添加量は純粋なクロロゲン酸ではなく抽出物の量を指します。添加量の水準は、これとは別に常温下で4週間実施した用量の絞り込み試験の結果をもとに選ばれました。

暑熱の条件は14日間続けられました。対照区の部屋は終日およそ22℃に保たれ、暑熱の部屋では朝7時から夕方16時まで32〜35℃に上げ、残りの15時間はおよそ22℃に戻すという日周期を繰り返しました。照明、換気、飼育密度、飼料と水の与え方などは両室でそろえられています。研究チームは毎日、産卵数・総卵重・飼料摂取量を記録し、試験終了時には卵の品質、卵黄の成分、血清中の脂質・生化学・抗酸化・免疫の各指標、さらに血清の網羅的な代謝物プロファイルと、肝臓における細胞増殖・アポトーシス(細胞の自死)・オートファジー(細胞内の再利用の仕組み)に関わる遺伝子の発現を調べました。

報告された主な結果

まず暑熱の影響について、14日間の周期的な高温は、常温の対照区に比べて平均卵重と産卵率を低下させたと報告されています。一方で1日あたりの平均飼料摂取量には処理区間で有意な差がなく、著者らは、産卵成績の低下が飼料摂取量の減少だけで説明できるわけではないと述べています。

抽出物を加えた2つの区では、暑熱区に比べて平均卵重と産卵率がいずれも高く、常温の対照区との間に差は認められませんでした。飼料要求率(卵の生産量あたりの飼料量)については、200ミリグラム区が暑熱区より低く、100ミリグラム区は中間的で他の区と有意差はありませんでした。

抗酸化に関わる指標では、暑熱区は対照区に比べて血清中のMDA(脂質が酸化されたときに生じる物質で、酸化の進み具合の目安)が増え、総抗酸化能が下がりました。抽出物を加えた2つの区はいずれも、暑熱区に比べてMDAが低く総抗酸化能が高く、常温の対照区との差はありませんでした。ただしカタラーゼ、総SOD、グルタチオンペルオキシダーゼといった個々の抗酸化酵素の活性には有意な差がなく、著者らは、総抗酸化能の改善が測定した酵素活性の変化を伴っていなかったため、その仕組みはさらに検討が必要だとしています。血清の総コレステロールは、抽出物を加えた2区で対照区・暑熱区より低い値でした。

一方で、卵の品質や卵黄の成分については、抽出物による明確な改善は示されませんでした。卵殻強度には処理区間で差があったものの、対照区のほうが他の3区より低い値であり、著者らはこの点は慎重に解釈すべきで、さらなる検討を要すると述べています。卵重、卵白の高さ、ハウユニット、卵黄色などには有意な差はなく、抽出物を加えた区は測定した卵質の項目で暑熱区と差がありませんでした。著者らは、今回の14日間の条件では、卵の品質が改善したという明確な証拠は得られなかったと明記しています。

探索的に行われた血清の代謝物解析では、暑熱による変化は検出できるものの中程度にとどまりました。100ミリグラム区では暑熱区との間に差のある代謝物が検出された一方、200ミリグラム区と暑熱区の間では同じ基準で差のある代謝物が見つからず、2つの添加量の間には差が認められました。著者らはこれを、単純な用量依存ではなく添加量ごとに異なる反応だと解釈し、あくまで仮説を生み出す段階の結果だとしています。肝臓の遺伝子発現では、暑熱によってPCNA、MAP1LC3B、BECN1の発現が低下し、抽出物を加えた2区ではこれらが暑熱区より高くなりました。ただし著者らは、測定したのはmRNAの量であり、タンパク質の量やオートファジーの実際の働きの変化を直接示すものではない、と釘を刺しています。

この研究が示すこと

著者らは、今回の条件のもとで、クロロゲン酸を多く含む生コーヒー豆抽出物を飼料1キログラムあたり100または200ミリグラム加えることが、14日間の周期的な暑熱による悪影響を部分的に和らげたと結論づけています。同時に、この研究にはいくつかの制約があることも明示されています。暑熱期間は14日間と短く、季節を通した長期の暑熱にそのまま当てはめることはできないこと、常温と暑熱がそれぞれ1部屋ずつでしか設定されていないため部屋そのものの影響と温度の影響を切り分けられないこと、血清や肝臓の試料が各反復1羽ずつで数が限られていること、さらに常温で抽出物を与えた区を含まない設計のため、温度と添加の主効果や相互作用を別々に見積もれないことなどです。

こうした前提を踏まえると、この研究は、身近な植物由来成分を飼料に少量加えるという手立てが、暑さにさらされた採卵鶏の産卵成績と体内の抗酸化のバランスを支える可能性を、一つの実験条件のもとで示したものだと言えます。同時に著者らは、何が改善し、何が改善しなかったのか、どこまでが確かめられ、どこからが今後の課題なのかを区別して報告しており、その線引きの慎重さもまた、この研究から読み取れるものです。

著者:Yuqing Mu(College of Animal Science, Anhui Science and Technology University, Chuzhou 233100, China)、商学征(College of Animal Science, Anhui Science and Technology University, Chuzhou 233100, China)、Jie Yang(College of Animal Science, Anhui Science and Technology University, Chuzhou 233100, China)、Xuezhuang Wu(College of Animal Science, Anhui Science and Technology University, Chuzhou 233100, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yuqing Mu, 商学征, Jie Yang, et al. Dietary Chlorogenic Acid-Rich Green Coffee Bean Extract Improves Laying Performance and Antioxidant Status in Heat-Stressed Laying Hens. Animals 2026-09-06. DOI: 10.3390/ani16172801. 原著ライセンス:CC BY.