この研究は、イラン、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Advanced Pharmaceutical Bulletin

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:食品と病気を「分子」でつなぐ地図をつくる

私たちの食生活が健康に関わることは広く知られていますが、「どの食品が、体の中のどの分子を通じて、どの病気と関係するのか」を体系的にたどれる資料はまだ十分に整っていません。著者らは、食品のデータベースや病気に関わる遺伝子のデータベースは個別に充実してきた一方で、それらを分子のレベルで結びつけて一望できる統合的な資源が不足していると指摘しています。

この研究の目的は、食品・食品由来の代謝物・その標的となるタンパク質や遺伝子・病気という四つの階層を一つのネットワークとして結びつける枠組みを提案することです。ここでいう「代謝物」とは、食べたものが消化や腸内細菌のはたらき、体内の代謝経路を経て変化してできる物質を指します。著者らは、世界で二番目に多いがんであることを理由に乳がんを事例として取り上げ、この枠組みが実際にどのように機能するかを示しました。

著者らによれば、既存の資源の多くは「食品と病気」「食品と成分とタンパク質」といった二層か三層の関係にとどまり、また関連の強さに点数や方向性を割り当てる仕組みが、かえって思い込みを補強し、予想外のつながりの発見を妨げる可能性があるといいます。そこで本研究では、あえて方向性のある点数付けを行わず、仮説を生み出すための素材として関連を洗い出す方針をとったと説明されています。

方法:既存データベースの統合とネットワークの可視化

著者らは三つの公開データベースを組み合わせました。食品とその成分の情報はFooDBから、体内に存在する代謝物とタンパク質、そして代謝物とタンパク質の相互作用の情報はヒト代謝物データベース(HMDB)の4.0版から、病気に関係するタンパク質・遺伝子の情報はDisGeNETから取得しています。データの取り込みと初期整理はMicrosoft Excel 2019で行われました。

こうして集めた情報をもとに、食品・代謝物・タンパク質/遺伝子・病気の直接的および間接的な関係を表す多層ネットワークを構築し、生物学的ネットワークの解析・可視化に広く使われるソフトウェアCytoscape(3.7.2版)で描き出しています。さらに、ネットワークの中で重要な位置を占める要素を探すために、つながりの本数を表す「次数」と、他の要素同士を橋渡しする度合いを表す「媒介中心性」という二つの指標による解析が行われました。

加えて著者らは、ネットワークから得られた関連を既存の知見と照らし合わせるため、PubMedで文献検索を実施しています。対象は、食事内容と乳がんの発症・再発・死亡との関連を調べたシステマティックレビューとメタアナリシスです。2024年12月25日の検索で227件が見つかり、題名と抄録による選別で86件に絞られ、本文の評価を経て最終的に35件が詳細な検討に含められました。

主な結果:巨大なネットワークとAPOEという中心

統合されたネットワークには、およそ1,000種類の食品、約61,500の食品成分、約250,000の代謝物、そして約15,000の疾患関連バリアントが含まれたと報告されています。このうち乳がんに関するネットワークは、15,966個のノード(要素)と321,144本のエッジ(つながり)から構成されました。

つながりの多さで上位に並んだ要素を調べたところ、最も突出していたのはアポリポタンパク質E(APOE)という遺伝子で、13,628の代謝物と結びついていました。残る九つの主要な中心点は食品グループが占めており、果物、動物性食品、ハーブ・香辛料、野菜、豆類、穀類および穀物製品、茶類、ナッツ類、大豆食品が挙げられています。これらの要素の次数は745から13,595の範囲にありました。

文献のとりまとめからは、果物と野菜を多く摂ることが乳がんに対して保護的に働く一方、アルコール、脂質、加工肉はリスクを高めるという結果が示され、著者らはこれがネットワーク解析の所見と整合すると述べています。なお、レビューの中で最も多く検討されていた食品グループは野菜(17件)と果物(13件)であり、砂糖や間食、甘い食品はそれぞれ1件にとどまっていました。

この研究が示すこと

著者らは本研究を、食品を代謝物と生体内の経路を介して病気へと結びつける分子レベルの枠組みの提案と位置づけています。この枠組みの特徴は、関連に良し悪しの重み付けをせず、検証可能な仮説を立てるための出発点として関連を提示する点にあり、また乳がんに限らず他の疾患にも適用できる方法として設計されています。

一方で著者らは、この成果がそのまま食事の指針になるわけではないことも示しています。論文の結論では、データ統合のさらなる改善、交絡因子(結果に影響を与えうる他の要因)への対処、そして実験による検証が必要であると述べられており、個別化された食事の推奨につなげるにはこうした段階を踏む必要があるとされています。

食品と病気の関係を、成分・代謝物・タンパク質という道筋まで含めて一枚の地図として描き出す試みは、これまで別々に扱われてきた知識を結び直す手がかりになります。この研究は、その地図をどう描けるかを乳がんという具体例で示したものと言えるでしょう。

著者:Zahra Fathifar(Department of Health Information Technology, School of Management and Medical Informatics, Tabriz University of Medical Sciences, Tabriz, Iran)、Leila R Kalankesh(Department of Health Information Technology, School of Management and Medical Informatics, Tabriz University of Medical Sciences, Tabriz, Iran)、Fatemeh Sadeghi‐Ghyassi(Iranian Research Center for Evidence-Based Medicine, Faculty of Medicine, Tabriz University of Medical Sciences, Tabriz, Iran)、Yadollah Omidi(Department of Pharmaceutical Sciences, Barry and Judy Silverman College of Pharmacy, Nova Southeastern University, Florida, 33328, USA)、Alireza Ostadrahimi(Nutrition Research Center, Department of Clinical Nutrition, School of Nutrition and Food Sciences, Tabriz University of Medical Sciences, Tabriz, Iran)、Reza Ferdousi(Department of Health Information Technology, School of Management and Medical Informatics, Tabriz University of Medical Sciences, Tabriz, Iran)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zahra Fathifar, Leila R Kalankesh, Fatemeh Sadeghi‐Ghyassi, et al. Deciphering Food-Disease Relationships Through Molecular Networks in Breast Cancer. Advanced Pharmaceutical Bulletin 2026-09-05. DOI: 10.34172/apb.47157. 原著ライセンス:CC BY.