この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜメタノールが課題になるのか
キウイフルーツを原料とした果実酒は、独特の酸味と香り、栄養成分から注目されている一方で、製造上の難しさがあります。キウイフルーツにはペクチンという多糖類が多く含まれ、果汁の粘度を高めて固液分離や清澄化を妨げます。そのため実際の製造では、ペクチンを分解する酵素剤(ペクチナーゼ)を加えて処理効率を上げる方法が一般的に用いられています。
しかし論文は、この酵素処理には安全面の懸念が伴うと説明しています。市販のペクチナーゼ製剤には複数の酵素活性が含まれ、そのうちペクチンメチルエステラーゼはペクチンのメチルエステル基を加水分解する際にメタノールを放出します。他の酵素がペクチンの網目構造をほぐすことで、メチルエステル部位へのアクセスがさらに進むという関係です。著者らは、メタノールが体内で代謝されると健康被害を起こしうる物質であること、国際ぶどう・ぶどう酒機構(OIV)がワインに上限値(白・ロゼで250 mg/L、赤で400 mg/L)を定めている一方、ペクチンの多いブドウ以外の果実酒については国際的に統一された基準や体系的な低減策が比較的乏しいことを指摘しています。
そこで研究チームは、ペクチナーゼの添加量、発酵前の清澄処理、発酵温度という三つの工程条件がメタノール生成と発酵性能に与える影響を評価し、アルコール生成と製品品質を保ちながらメタノール蓄積を抑える製造条件を見いだすことを目的としました。
どのように調べたか
原料には中国・湖南省で2025年に収穫された‘東紅’という品種のキウイフルーツが使われ、発酵には自然発酵したキウイフルーツから分離された、メタノール生成の少ない酵母株(Saccharomyces cerevisiae X11)が用いられました。追熟・破砕した果肉を遠心分離で清澄化したのちペクチナーゼで処理し、糖度とpHを調整・加熱殺菌してから酵母を接種し、10日間発酵させています。
まず三つの条件を一つずつ変える単因子実験が行われました。発酵温度は19〜27 ℃、ペクチナーゼ添加量は0.02〜0.10 g/L、清澄のための遠心分離速度は0〜10,000 r/minの範囲です。従来的な条件(25 ℃、酵素0.10 g/L、発酵前の遠心なし)を対照区(CK)としています。その結果を踏まえ、各因子から3水準を選んで直交表による9通りの組み合わせ試験が行われました。
得られた酒については、メタノール濃度をヘッドスペースガスクロマトグラフィーで、エタノールや糖・有機酸を高速液体クロマトグラフィーで測定し、総ポリフェノール量や総フラボノイド量も定量しています。香気成分はHS-SPME-GC-MS(試料の上部空間の揮発成分を微小繊維に吸着させて分析する手法)で調べ、内部標準法による相対的な比較として扱われました。さらに10名の評価者による官能評価が行われ、香りの純粋さ、香りの強さ、口当たりの調和、後味、総合的な好ましさなどが5段階で採点されました。
報告された主な結果
単因子実験では、発酵温度の上昇に伴ってメタノールが19 ℃の266.01 mg/Lから25 ℃の304.34 mg/Lへ増加し、27 ℃でわずかに低下しました。エタノール生成も25 ℃で最大となり、その後やや減少しています。ペクチナーゼ添加量については、メタノールが添加量とともに増え続け、0.10 g/Lで276.58 mg/Lと最も高くなった一方、エタノールは0.08 g/Lまで増加した後わずかに低下しました。清澄の遠心分離では、速度を上げるほどメタノールが減り続けるわけではなく、2500 r/minで最も低くなり、それより速い条件ではむしろ増加しました。著者らは、不溶性の固形分が多く除かれた結果として可溶性ペクチンの相対的な割合が高まり、酵素が作用しやすくなった可能性を一つの説明として挙げています。
直交試験で最も良好だったのは、exp-Aと呼ばれる組み合わせでした。メタノールは167.45 mg/Lと9通りの中で最も低く、エタノールは12.66 %volと高い水準を保っています。対照区(メタノール267.45 mg/L、エタノール11.92 %vol)と比べると、メタノール生成は37.39 %減少し、エタノールはむしろ増加しました。分散分析では、メタノール生成に有意な影響を与えた因子はペクチナーゼ添加量のみ(p < 0.05)で、発酵温度と遠心速度には有意差が認められませんでした。エタノール生成についてはいずれの因子も有意ではありませんでした。
品質面では、各処理区のpHは3.27〜3.34と狭い範囲に収まり、処理条件の違いによる酸塩基環境への影響は限定的でした。総フラボノイドと総ポリフェノールは処理区のほうが対照区より高く、exp-Aも対照区を有意に上回っており、フェノール関連成分の保持が損なわれていないと報告されています。有機酸ではリンゴ酸がすべての試料で最も多く、酢酸は処理区で増加したもののいずれも0.5 g/L未満にとどまりました。
香気成分の主成分分析では、第1・第2主成分の寄与率が58.83 %と15.33 %(累計74.16 %)でした。exp-Aは対照区の近くに位置し、メタノールを減らしながら揮発性香気の全体像を対照区と近い状態に保っていたと示されています。低温発酵のexp-19は第1主成分の軸方向で対照区やexp-Aから部分的に分離し、酢酸イソアミルやヘキサン酸エチルなどのエステル類が比較的多く検出されました。官能評価では、exp-19が果実香の純粋さと香りの強さで最高点を得た一方、口当たりの調和と後味の受容性は低く、exp-Aは口当たりの調和・後味・総合的な好ましさで比較的高い評価となり、全体としてバランスの取れた評価を得ています。酵素量だけを下げたexp-0.02は、多くの項目で最も低い評価でした。
この研究が示すこと
著者らは、メタノールがペクチンのメチルエステル基に由来するのに対し、エタノールは酵母が発酵性糖から生成するという由来の違いに注目しています。そのため、ペクチンの分解を制御することは、アルコール発酵そのものを妨げずにメタノールを減らす道筋になりうる、というのが本研究の説明です。
結論として、メタノールの抑制で鍵となるのはペクチナーゼ添加量の管理であり、これに発酵温度と発酵前の清澄の強さを組み合わせて調整することで、エタノール生成や主要な理化学特性、香りのプロファイルを保ったままメタノールを低減できたと報告されています。香りの強さだけが品質を決めるのではなく、香りと味わい全体の調和が重要であることも、官能評価から示されました。ペクチンの多い果実を原料とする酒づくりにおいて、安全性と風味の両立を工程設計の側から考えるための一つの具体例を示した研究といえます。
著者:Weihao Chen(College of Food Science and Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)、Ju Shen(College of Food Science and Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)、Jiaxin Xu(College of Food Science and Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)、Yilin You(College of Food Science and Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)、Weidong Huang(College of Food Science and Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)、Jicheng Zhan(College of Food Science and Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Weihao Chen, Ju Shen, Jiaxin Xu, et al. Methanol Mitigation in Kiwifruit Wine Fermentation Through Process Regulation: Effects on Physicochemical Properties and Aroma Characteristics. Foods 2026-09-05. DOI: 10.3390/foods15173150. 原著ライセンス:CC BY.