著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Agronomy

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

畑の苗を数える作業を自動化するために

トウモロコシの遺伝研究に使う試験圃場では、各列で育っている株の数を数える「立毛数の調査」が欠かせません。現在は人が畑を歩き、列ごとに生きている株を数えて記録しています。著者らは、この方法は手間と時間がかかり、短い列や多様な系統が並ぶ大きな圃場では数え間違いも起こりやすいと指摘しています。

代わりの方法として、無人航空機(ドローン)で撮影した画像をコンピューターに解析させる手法があります。ただし、実用に耐える解析モデルを作るには、実際の畑の条件を反映し、正解の印(アノテーション)が丁寧に付けられた公開データが必要です。研究チームはこの課題に応えるため、トウモロコシの幼苗を対象とした高解像度のカラー画像データセット「MSDD」を構築し、代表的な物体検出AIの性能を比べました。著者らは長期的な目標として、安価な市販ドローンと自動計数によって、技術支援の少ない小規模な研究グループでも株数を調べられるようにすることを挙げています。

どのようなデータを作り、何を比べたか

画像は2019〜2022年の栽培シーズンに、米国ミズーリ州コロンビアの遺伝研究用圃場で撮影されました。市販のドローン2機種で動画を撮り、そこからフレームを切り出しています。撮影は真上からの視点と斜めからの視点の両方を含み、飛行高度は1〜18メートル、苗の生育段階は葉の数で表すV2〜V12にわたります。土の色、風、影、天候などもさまざまで、現実の畑で起こる見え方の違いが含まれています。

画像中の苗には、1か所から1本だけ生えた「シングル」、同じ植え穴から2本または3本が生えて見分けられない「ダブル」「トリプル」の3種類の印が付けられました。葉が重なっていても茎の根元が別々に見えれば1本ずつとして扱うなど、明確な判断基準を設け、一人の担当者がすべてを確認し、別の研究者が抜き取りで点検しています。

付けられた印は合計16万3921個でした。そのうちシングルが92.47%を占め、ダブルは6.07%、トリプルは1.45%にとどまります。この偏りを補うため、研究チームは学習用データに限って、1本の苗の画像を切り抜いて隣に貼り付け、人工的にダブルやトリプルを作る「データ拡張」を行いました。評価用のデータは手を加えず、元の分布のまま残しています。

このデータを使い、YOLOv9、YOLO11、YOLOv12、Faster R-CNNという4種類の物体検出モデルの性能を比べました。評価には、検出した枠が正解とどれだけ重なり、どれだけ正しく分類できたかを0〜1の値で示す指標(mAPなど)を使っています。さらに806枚の評価用画像を、生育段階、撮影角度、風、土の状態、影といった条件ごとに分けて成績を調べました。

1本の苗は見つけやすく、まとまって生えた苗は難しい

論文によると、どのモデルもシングルの苗の検出では高い成績を示しました。主要な指標である[email protected]は、YOLOv9が0.916、YOLO11が0.901、YOLOv12が0.887でした。Faster R-CNNは0.655で、YOLO系より低い結果でした。

一方、ダブルとトリプルの検出成績は大きく下がりました。ダブルの[email protected]は0.106〜0.253にとどまり、トリプルではYOLO11の0.313が最も高く、0に近いモデルもありました。著者らは、データ中でシングルが圧倒的に多いことに加え、近くに生えた苗は重なり合い、間隔や向きもさまざまで、1本の苗が複数並んでいるのか一つのまとまりなのか見分けにくいことが原因だと考察しています。人工的に作ったダブルやトリプルで学習させても改善は限られていました。論文はその理由として、合成した苗の並びが実際の畑のまとまりより規則的で、現実の複雑な構造を再現できていなかった可能性を挙げています。

条件別の分析では、生育段階V4〜V8で真上から撮った画像が最も検出に向いていました。生育初期の苗は小さく雑草と紛らわしく、V8を過ぎると葉が重なり合って見分けにくくなるためです。湿った土や影のない場面のようにコントラストがはっきりした条件ではシングルの検出が安定していましたが、影がある場面や明るい色の土では、まとまって生えた苗の検出が特に落ち込みました。

処理速度も比べられました。806枚の評価用画像に対し、YOLO11は毎秒約27枚の速さで評価を終え、検出結果の描画や保存まで含めても毎秒約6.4枚で処理しました。これに対してFaster R-CNNは684秒かかりました。著者らは、軽量なYOLO系モデルはドローンや農機に載せた機器での処理に適していると述べています。

この研究が示すこと

この研究は、現在の検出AIが実際の畑の条件下でも1本ずつ離れて生えたトウモロコシの苗をよく見つけられることを示しました。同時に、まとまって生えた苗の見分けにはまだ大きな課題が残ることも明らかにしました。著者らはまた、株数を数えることが目的なら、ダブル1つを「シングル2つ」と判定しても数としては正しくなると指摘しています。分類の正確さを測る一般的な指標と、農業の現場で役立つかどうかは必ずしも一致しない、という見方です。

研究チームはMSDDと、ラベル付けや学習、評価に使ったプログラムを公開しています。さまざまな撮影条件と生育段階を含むこのデータは、苗の検出手法を同じ土台で比べ、その強みと弱点を確かめるための材料になります。

原著論文の著者・所属:Dewi Endah Kharismawati(Department of Electrical Engineering and Computer Science, University of Missouri, Columbia, MO 65211, USA; Department of Food, Agricultural and Biological Engineering, The Ohio State University, Columbus, OH 43210, USA; Interdisciplinary Plant Group, University of Missouri, Columbia, MO 65211, USA; Missouri Maize Center, University of Missouri, Columbia, MO 65211, USA)、Toni Kazic(Department of Electrical Engineering and Computer Science, University of Missouri, Columbia, MO 65211, USA; Institute for Data Science and Informatics, University of Missouri, Columbia, MO 65211, USA; Interdisciplinary Plant Group, University of Missouri, Columbia, MO 65211, USA; Missouri Maize Center, University of Missouri, Columbia, MO 65211, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dewi Endah Kharismawati, Toni Kazic. Maize Seedling Detection Dataset (MSDD): A Curated High-Resolution RGB Dataset for Seedling Maize Detection and Benchmarking with YOLOv9, YOLO11, YOLOv12 and Faster-RCNN. Agronomy 2026-08-19. DOI: 10.3390/agronomy16161605. 原著ライセンス:CC BY.