著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Scholarly review .
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:でんぷんの消化されやすさを変える
糖尿病は世界的な公衆衛生上の課題であり、論文は2022年に8億人を超える成人が糖尿病を抱えていたという推計を紹介しています。穀物などでんぷんの多い食品が速く消化されると、食後の血糖値の上がり方に関わると考えられています。
でんぷんの中には、小腸で消化されずに通過する「難消化性でんぷん(レジスタントスターチ、RS)」と呼ばれる部分があります。この研究は、トウモロコシでんぷんに三つの処理を順番に加えることで、試験管内の消化試験で消化されにくい部分を増やせるかを調べたものです。
何をどのように調べたか
著者は、加工していないトウモロコシでんぷんを出発点に、三つの処理を順に行いました。まず、でんぷんを加熱して糊状にし、枝分かれ構造を切る酵素(プルラナーゼ)で処理したうえで冷蔵して再び結晶化させ、「RS3」と呼ばれるタイプの難消化性でんぷんを作りました。次に、増粘剤として食品に使われるグアーガムをRS3の乾燥重量の20%加えて複合体にしました。最後に、少量の水を加えて120℃で加熱する「湿熱処理」を施しました。
未処理のでんぷん、RS3、グアーガム複合体、湿熱処理後の複合体の4つの試料について、消化酵素を使った試験管内の消化試験を行い、20分以内に分解される「速消化性でんぷん(RDS)」、20〜120分の間に分解される「遅消化性でんぷん(SDS)」、それでも分解されずに残るRSの割合を求めました。あわせて、X線回折で結晶構造を、電子顕微鏡で粒子の形を、示差走査熱量測定で加熱したときの熱的なふるまいを調べています。
主な結果:消化されにくい部分が大きく増加
論文によると、RSの平均値は未処理のでんぷんで16.36%でしたが、RS3にすると32.22%、グアーガムを加えると45.00%、湿熱処理後には57.10%になりました。一方、速く消化されるRDSは77.13%から、それぞれ55.67%、52.28%、36.64%へと下がりました。処理全体を通じて、RDSは40.49ポイント減り、RSは40.74ポイント増えたことになります。
統計的には、RS3の形成とグアーガムの添加でRSが有意に増え、最後の湿熱処理ではRDSが有意に下がりました。ただし、湿熱処理によるRSの45.00%から57.10%への上昇は統計的に有意ではなかったと報告されています。
構造面では、未処理のでんぷんに見られた「A型」と呼ばれる結晶の型が、処理後には「B型とV型の混合」に変わりました。結晶部分の割合を示す相対結晶化度は、16.90%からRS3で62.8%、グアーガム添加後に82.1%、湿熱処理後に86.8%へと高まりました。電子顕微鏡では、丸く滑らかだったでんぷん粒が、RS3では粗く割れた形になり、グアーガム添加と湿熱処理の後には粒子どうしが集まって境界がはっきりしなくなっていました。熱分析でも、グアーガム添加後に吸熱が始まる温度やピークの温度が上がるなど、ふるまいの変化が見られました。
この研究が示すこと
著者は、今回の試験管内の条件では、三段階の処理によってトウモロコシでんぷんが酵素で消化されにくくなったと結論づけています。消化されにくさの変化と、結晶構造や粒子の形の変化が同じ試料で見られましたが、どれか一つの仕組みが原因だと証明されたわけではないと論文は述べています。グアーガムが粘りを変えて酵素の働きを妨げるという説明も、今回は粘度などを測っていないため可能性にとどまります。また、湿熱処理は他の処理の後に行われたため、湿熱処理だけの効果は切り分けられていません。
さらに、測定は一度に作った1回分の試料を3回測ったもので、別々に作った試料での再現性は確かめられていません。血糖値の上がりやすさを示すグリセミック指数や食後血糖値も測定しておらず、試験管内でRSが増えたことが、そのまま人の血糖値の抑制につながるとは言えないと著者は強調しています。この研究は、加工の組み合わせによってでんぷんの消化のされ方を試験管内で大きく変えられることを示した段階の成果といえます。
原著論文の著者・所属:Ruocho Chen(High School Attached to Beijing Normal University in Beijing , China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ruocho Chen. Enhancing Enzymatic Resistance in Corn Starch through RS3 Formation, Guar Gum Complexation, and Heat-Moisture Treatment. Scholarly review . 2026-09-04. DOI: 10.70121/001c.169613. 原著ライセンス:CC BY.