海藻といえば、食物繊維やミネラルが豊富な食材というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。実は近年、海藻に含まれる多糖類やポリフェノールを原料にして、ナノサイズの炭素材料「カーボンドット(CDs)」を作る研究が進められています。カーボンドットは直径10ナノメートル以下という非常に小さな粒子で、抗酸化作用や紫外線を遮る働きなど、さまざまな機能を持つ可能性が注目されている素材です。今回紹介する研究は、6種類の海藻からカーボンドットを作り出し、その特性や機能性を調べたうえで、実際に冷蔵保存中のエビの品質保持に応用できるかどうかを検討したものです。
研究でわかったこと
研究チームは、Gracilaria salicornia(GS-CDs)、Halymenia dilatata(HD-CDs)、Sargasum polycystum(SP-CDs)、Spatoglossum asperum(SA-CDs)、Ulva lactuca(UL-CDs)、Caulerpa peltata(CP-CDs)という6種類の海藻を原料に、「水熱合成」という高温高圧の処理でカーボンドットを作りました。得られたカーボンドットは、いずれも直径10ナノメートル未満の球形で、さまざまな化学的な官能基(分子の性質を左右する構造)を持つことが、赤外分光法やX線光電子分光法、電子顕微鏡などの分析によって確認されました。
機能性を調べたところ、UL-CDs(Ulva lactuca由来)は紫外線(UV-A)を遮る効果が他の種類よりも強いことが示されました。また抗酸化力については、HD-CDs(Halymenia dilatata由来)がDPPHラジカル消去活性とFRAP(鉄還元能)の両方で最も高い値を示し、SA-CDs(Spatoglossum asperum由来)はABTSラジカル消去活性が最も高いという結果でした。さらにHD-CDsは、カビの一種であるアスペルギルス・フラバスとアスペルギルス・パラジチカスに対して抗真菌作用を示したと報告されています。すべてのカーボンドットは、食中毒の原因となる病原菌や食品を腐敗させる細菌の増殖を抑える働きが確認されましたが、効果を得るのに必要な濃度(最小発育阻止濃度)が高めだったことから、抗菌効果としては限定的だったとされています。安全性の面では、正常な培養細胞(BJ細胞)に対して、500 mg/Lという濃度までは80%を超える生存率が保たれていたことも示されました。
さらに研究チームは、抗酸化力が確認されたSA-CDs(500 ppm)を、殻をむいて背わたを取ったバナメイエビ(Litopenaeus vannamei)に添加し、10日間冷蔵保存した際の変化を調べました。その結果、カーボンドットを添加した試料では、過酸化物価(PV)やTBARS値(脂質酸化の指標)が、無添加の対照群やビタミンC(アスコルビン酸)を添加した群よりも低く保たれ、多価不飽和脂肪酸の残存率も高いことが示されました。つまり、この研究の範囲では、脂質の酸化が抑えられる傾向が確認されたということです。ヒートマップや主成分分析(PCA)といった統計解析からは、脂質酸化の進み方がカーボンドットの種類と保存期間の両方に影響を受けることも示唆されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、海藻由来のカーボンドットという新しい素材の基礎的な特性と機能性を評価し、食品保存への応用可能性を探った一つの研究です。得られた結果は実験室レベルでの分析や、エビを用いた保存試験に基づくものであり、ヒトが摂取した場合の効果や安全性を直接示したものではありません。また、抗菌効果については「限定的」とされている点や、種類によって得意な機能(UV遮蔽、抗酸化、抗菌など)が異なっている点にも注意が必要です。今後、さらなる研究によって知見が積み重ねられていく段階にあるテーマだと言えるでしょう。
まとめ
海藻から作られたカーボンドットは、種類によって紫外線遮蔽力や抗酸化力、抗菌作用などの特性が異なり、その中でもSA-CDsを添加したエビでは、冷蔵保存中の脂質酸化が抑えられる傾向が報告されました。海藻という身近な資源から、食品保存に役立つ可能性のある新素材が生み出されようとしている点は興味深く、今後の研究の展開が注目されるテーマです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:海藻バイオマス由来カーボンドット:特性、生理活性、および冷蔵保存中のバナメイエビにおける脂質酸化抑制効果(フーズ・2026年07月)