ウォーターケフィアは、砂糖水に「ケフィア粒」と呼ばれる種を加えて発酵させる伝統的な発酵飲料です。この粒の中には多様な微生物が共生しており、なかでも乳酸菌(LAB:lactic acid bacteria)が豊富に含まれることが知られています。これまでの研究では、各サンプルから主に見つかる菌の種類を調べるものが中心でしたが、同じ一つのケフィア粒由来のサンプルの中に、機能性が異なる複数の乳酸菌株がどの程度存在するのかは、まだ十分に調べられていませんでした。今回紹介する研究は、マレーシア産のウォーターケフィア粒から乳酸菌を分離し、抗酸化活性とプロバイオティクスとしての可能性を評価したものです。
研究でわかったこと
研究チームは、まずコロニーの形状観察、グラム染色、カタラーゼ試験といった基本的な手法で細菌を分類し、15株の乳酸菌の候補を分離しました。次に、これらの株についてDPPH法とABTS法という二つの方法でラジオカル消去活性(抗酸化活性の指標)を測定しました。
その結果、15株のうち分離株2と分離株5が、他の株と比べて統計的に有意に高い抗酸化活性を示しました(p<0.05)。具体的には、ABTSラジカル消去活性はそれぞれ72.70±3.38%、77.74±3.27%、DPPHラジカル消去活性はそれぞれ41.62±1.18%、48.07±5.18%だったと報告されています。
抗酸化活性が高かったこの2株について、さらにプロバイオティクスとしての特性が調べられました。具体的には、胃酸を想定した酸耐性、腸内の胆汁酸を想定した胆汁耐性、腸の上皮細胞への付着能力、そして抗生物質への感受性が評価されています。その結果、分離株2は胆汁酸ストレス下での生存率が93.57±1.31%と高く、ヒト大腸がん由来のHT-29細胞への付着率も88.8±6.3%と高い値を示したとされています。
さらに16S rRNA遺伝子という、細菌の種類を特定する際によく使われる遺伝子の配列を調べたところ、分離株2・5はいずれも「Lacticaseibacillus paracasei(ラクティカゼイバチルス・パラカゼイ)」という、プロバイオティクスとしての機能が広く報告されている種であることが確認されました。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、マレーシア産のウォーターケフィア粒という特定のサンプルから分離された菌株を対象にした基礎的な特性評価の段階にあります。論文の要旨では、分離株2について「抗酸化能を持つ有望なプロバイオティクス候補」としつつ、その機能や安全性を検証するにはさらなる研究が必要だとされています。今回示された結果は主に実験室内での試験に基づくものであり、ヒトが摂取した場合の効果を直接示すものではない点には注意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。
まとめ
今回の研究では、マレーシア産のウォーターケフィア粒から15株の乳酸菌が分離され、その中でも分離株2と分離株5が高い抗酸化活性を示すことが確認されました。特に分離株2は、胆汁耐性や腸上皮細胞への付着能力にも優れており、Lacticaseibacillus paracaseiと同定されています。発酵食品の中にどのような機能を持つ菌が存在するのかを一株ずつ丁寧に調べていく、こうした基礎研究の積み重ねが、今後のプロバイオティクス研究の土台になっていくと考えられます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:マレーシア産ウォーターケフィア粒由来Lacticaseibacillus paracaseiの抗酸化能とプロバイオティクス潜在能(アジア太平洋分子生物学・バイオテクノロジー誌・2026年06月)