バナナは世界で最も広く生産されている作物の一つです。皮をむいて食べるという特徴上、加工の過程で大量の「バナナの皮」が副産物として発生しますが、その多くはこれまで廃棄されてきました。バナナの皮には食物繊維とポリフェノールが豊富に含まれていることが知られており、食品原料としての活用が期待されています。しかし、皮を剥いた後に急速に劣化し、酵素による褐変が起こることが、利用を妨げる大きな障壁となっていました。この褐変に関わるのが、ポリフェノールオキシダーゼ(PPO)と呼ばれる酵素です。ドイツ・ボン大学の学位論文として発表された今回の研究では、このPPOの性質を詳しく調べ、それを不活性化する条件を確立したうえで、食物繊維原料としての活用可能性が検討されました。

PPOの性質と不活性化条件を調べる

研究の前半では、まず抽出条件を調整してPPOの活性を高めたうえで、'Prata'種のバナナの皮に含まれるPPOの性質が調べられました。その結果、このPPOは30〜40℃、pH6.0〜6.5で最も高い活性を示し、基質の中ではドーパミンに対する親和性が最も高い(KM=0.94mM)ことが分かりました。次に加熱によるPPOの不活性化が検討され、'Prata'種では90℃で5分間、'Cavendish'種では90℃で15分間の加熱により、PPO活性が完全に失われることが確認されました。一方、プラズマ処理した空気を用いた方法では、活性の低下は46%にとどまりました。また、活性の変化を数式で解析したところ、少なくとも2種類のアイソザイム(性質の異なる同じ働きの酵素)が存在すると考えられ、そのうち熱に対して最も安定性が高いのは、細胞膜に結合した状態のPPOであることが示唆されました。

加熱処理と乾燥が食物繊維の質と量に与える影響

研究の後半では、実際にバナナの皮に対して熱によるPPO不活性化処理を行い、その効果が調べられました。90℃で15分間のブランチング(湯通しのような短時間加熱処理)により、PPOは完全に不活性化され、それに伴って可溶性食物繊維(SDF)の含有量、保水力、保油力が改善しました。一方で、抗酸化能や総フェノール含量には影響が見られませんでした。具体的には、ブランチング処理により食物繊維濃縮物(DFC)の総食物繊維(TDF)含量が11%増加し、SDF画分に含まれるガラクツロン酸の含量は52%増加しました。さらに、熱風乾燥を行うと、不溶性食物繊維(IDF)の機能性が保たれたまま、その収率が9%向上し、SDFの純度も17%向上することが確認されました。加えて、バナナの熟度も食物繊維の性質に大きく影響することが示され、より熟したバナナから得られたDFCは、TDF含量が高く、SDFの純度は197%高くなるという結果が得られました。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

今回の結果から、加熱による安定化処理が、PPOに由来する褐変や品質劣化の問題を克服しつつ、食物繊維画分の収率や機能特性を維持・向上させる有効な手段となりうることが示されました。あわせて、熟度がバナナの皮の食物繊維の性質に大きく影響することも明らかになっています。これらの知見は、バナナの皮を機能性食物繊維原料として活用するための処理条件を検討するうえでの基礎データとなるものです。ただし、これは一つの学位論文としてまとめられた研究であり、特定の品種('Prata'種・'Cavendish'種)を対象とした実験室レベルでの検討です。ここで示された結果が、実際の食品製造の現場や他の品種にそのまま当てはまるかどうかは、今後さらなる検証が必要と考えられます。

まとめ

本研究は、バナナの皮の食物繊維原料化を妨げてきた酵素的褐変の原因であるポリフェノールオキシダーゼの性質を明らかにし、加熱処理によってこれを不活性化できることを示しました。さらに、ブランチングや熱風乾燥といった処理方法が、食物繊維の収量や機能特性の改善につながる可能性が示唆されています。廃棄されがちなバナナの皮を、食品素材として有効活用するための一つの手がかりを与える研究といえます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:バナナの皮を食物繊維原料として有効活用するためのポリフェノールオキシダーゼ不活性化と工程適応(ボン大学電子学位論文リポジトリ(bonndoc)・2026年08月)