野菜や果物、全粒穀物、豆類、ナッツ、オメガ3脂肪酸を含む魚などを多くとり、加工食品や精製された炭水化物、飽和脂肪を控える「抗炎症食」という食事パターンが、近年の研究で注目されています。慢性的な軽い炎症は、虚血性心疾患や脳卒中、糖尿病、慢性腎臓病、非アルコール性脂肪肝、さらには自己免疫疾患や神経変性疾患など、世界の死因の半数以上に関わる病気の背景にあると考えられているためです。抗炎症食は、腸内細菌の構成やC反応性蛋白、インターロイキン6、腫瘍壊死因子α(TNF-α)といった炎症マーカーに望ましい影響を与える可能性が指摘されています。しかし、こうした食事法が実際に社会に広がるかどうかは、専門家の知見だけでなく、一般の人々がどれだけ理解し、受け入れ、実践しているかにかかっています。今回紹介する研究は、中国・貴州省の一般成人を対象に、抗炎症食に関する「知識」「態度」「実践」を調べたものです。

どのように調べたのか

研究チームは2026年2月から4月にかけて、貴州医科大学附属病院や近隣の大学、工場などで、18歳以上の一般成人を対象に横断調査を実施しました。検証済みの質問票を用い、年齢・性別・学歴・婚姻状況・月収・身長体重・持病の有無・運動時間・睡眠状況・情報源といった基本属性に加え、知識(6つの単一選択式と9つの正誤式、合計0〜21点)、態度(9項目、5段階評価で合計9〜45点)、実践(8項目、5段階評価で合計8〜40点)の3領域を測定しました。質問票は臨床栄養の専門家(経験5年と30年の2名)による内容の精査を経て作成され、32人を対象にした予備調査でも信頼性が確認されています(全体のクロンバックα係数は0.847)。各領域のスコアは、合計得点に対する割合をもとに「不十分(60%未満)」「中程度(60〜79%)」「良好(80%以上)」の3段階に分類する基準(Bloomの基準)で評価されました。さらに、知識・態度・実践の関係性を探るため、構造方程式モデリング(SEM)という統計手法を用いて、各要素がどのように影響し合っているかを分析しています。

当初689件の回答が集まりましたが、回答時間が90秒未満のもの(8件)、18歳未満(1件)、明らかに不自然な入力(1件)を除外し、最終的に679人分の有効回答(有効回答率98.55%)が解析対象となりました。回答者は男性49.2%、女性50.8%とほぼ半々で、31〜45歳が53.9%と最も多く、都市部居住者が62.3%、既婚者が71.3%を占めていました。持病のない人が85.0%を占める一方、高血圧(10.6%)や高脂血症(6.9%)を持つ人も一定数含まれていました。

わかったこと――知識は不足、態度は前向き、実践は中程度

知識・態度・実践それぞれの平均点は、知識10.36±4.44点(満点21点)、態度31.38±4.49点(満点45点)、実践25.89±4.94点(満点40点)でした。項目ごとの回答を見ると、「食事の要素が体の炎症過程に影響し、食事パターンを変えることで炎症レベルを調整できる」ことを「よく知っている」と答えたのは8.84%にとどまり、「抗炎症食とは慢性炎症を減らすことを目指した食事パターンである」という定義をよく知っていたのも6.63%とごく一部でした。一方で、慢性炎症が心臓病・糖尿病・関節炎・一部のがんなどと関連することは61.71%が「聞いたことがある」以上と回答するなど、炎症と病気の関連については比較的認知が広がっている一方、抗炎症食そのものの定義や、理想的な食事における野菜・果物の推奨割合(全体重量の3分の2という具体的な内容)などの詳細な知識は不足している傾向が見られました。

態度の面では、「抗炎症食は伝統的な食事より健康に良いと思う」に「強く同意」「同意」と答えた人が合わせて約64%、「関連知識をもっと学びたい」への同意も約61%に上るなど、全体として前向きな姿勢がうかがえました。ただし同時に、「様々な食品摂取を管理する必要があり、この食事の変更は難しいと感じる」「抗炎症食は要求が多く、長期間維持するのが難しいと思う」といった項目にも4割前後が同意しており、有用性を認めつつも実行の難しさへの懸念を抱いている様子が読み取れます。

実践面はさらに控えめで、「食品を購入する際に抗炎症作用を意識している」と「常に」「よく」答えた人は合わせて26.36%にとどまりました。オメガ3脂肪酸を含む食品(深海魚やナッツなど)や全粒穀物の定期的な摂取、加工食品や高糖分食品の回避、揚げ物や炒め物を控えた調理法の実践なども、「時々」以下の回答が多くを占めました。実践を妨げる要因としては、経済的なコスト、信頼できる情報へのアクセスの難しさ、食習慣を変えることの難しさ、時間的制約、特定の食品の入手しにくさなどが挙げられています。

知識・態度・実践はどうつながっているか

統計分析では、知識と態度(相関係数r=0.274)、知識と実践(r=0.451)、態度と実践(r=0.244)の間にいずれも統計的に有意な正の相関が見られました(すべてP<0.001)。構造方程式モデリングによる分析でも、知識は態度に対して直接的な関連(標準化係数β=0.482、P=0.013)を、また実践に対しても直接的な関連(β=0.486、P=0.006)を示し、さらに態度を介した間接的な関連(β=0.185、P=0.013〜0.015)も確認されました。態度から実践への直接的な関連(β=0.384、P=0.008)も見られています。属性別では、学歴や月収が高いほど知識・実践スコアが高い傾向、都市部居住者は農村部居住者より態度・実践スコアが高い傾向、糖尿病のある人は実践スコアが高い傾向などが示されました。

これらの結果から、著者らは「知識水準の向上が、より好ましい態度や、より健康的な食行動と関連していた」と結論づけています。ただし本研究は横断調査であり、対象も便宜的な方法で集められているため、因果関係を示すものではなく、知識・態度・実践の関連性を探索的に示したものと位置づけられています。また、この調査は抗炎症食に関する知識・態度・自己申告による実践状況を尋ねたものであり、実際の食事摂取内容や臨床的な抗炎症効果そのものを評価したものではない点にも著者らは触れています。都市と農村の格差や、経済的な制約、信頼できる情報へのアクセスのしやすさなど、個人の知識や意欲だけでなく、社会的・環境的な要因が実践に影響しうることも指摘されており、著者らは、正確な食事情報への公衆のアクセスを高め、実践的で低コストな教育戦略を導入することが、抗炎症食への集団レベルでの理解と実践を後押しする可能性があるとしています。

まとめ

今回の調査は、中国貴州省の一般成人679人を対象に、抗炎症食に関する知識・態度・実践の現状と、それらの関連性を検討したものです。結果からは、抗炎症食という考え方そのものへの詳しい知識はまだ限られている一方、健康への関心や学びたいという前向きな姿勢は比較的広く見られ、実際の行動(実践)はその中間にとどまっているという構図が浮かび上がりました。知識が態度や実践と関連していたという知見は、正確な情報提供が実践のきっかけになりうることを示唆していますが、この研究は特定の地域・対象者に基づく一つの横断調査であり、結果を他の集団にそのまま当てはめられるかどうかは今後の検証が必要です。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:一般集団における抗炎症食に関する知識、態度、実践(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)