この研究は、アメリカ、ガーナの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
近年、世界各地で「甘い飲み物に税金をかける」政策が広がっています。ガーナでも2023年に、砂糖入り飲料(SSB)に20%の物品税を課す法律(Excise Duty(Amendment)Act 1108)が施行されました。しかし公衆衛生の専門家たちは、税金だけでなく、食品の宣伝規制、パッケージ前面への警告表示、公共機関での健康的な食品調達といった政策を組み合わせた「ダブルデューティー(一石二鳥)」の政策パッケージが必要だと指摘してきました。ところが、こうした幅広い政策パッケージに対して市民がどれだけ賛同しているのかは、ガーナ都市部ではこれまで十分に調べられていませんでした。今回、ガーナ大学ケープコースト校の研究グループなどが、ケープコースト首都圏の成人を対象に、この点を調べた研究を報告しています。
何を、どうやって調べたのか
研究チームは、ケープコースト首都圏に6か月以上住む18~69歳の成人450人を対象に、多段階クラスターサンプリングという方法で対象者を選び、対面での聞き取り調査を実施しました。調査地域は北部・南部・バカノ・ペドゥ・アナフォの5つの選挙区にまたがる10地域で、各世帯からは「キッシュグリッド」という手法で1人の回答者を無作為に選んでいます。調査期間は2024年1月15日から3月30日まで、有効回答率は92.3%(対象487世帯中450件が回答完了)でした。
質問は、砂糖入り飲料税・食品マーケティング規制(FMRP)・パッケージ前面警告表示(FOPWL)・公共食品調達政策(PFPP)の4つについて、5段階のリッカート尺度(強く反対~強く賛成)で賛否を尋ねる形式です。これに加え、賛否の背景にある考え方を掘り下げるため、24人を対象に詳しい聞き取り面接(インタビュー)も実施し、量的データと質的データを組み合わせる「混合研究法」がとられました。ケープコーストは「市場」を意味する現地語「オグア」の別名を持つ歴史都市で、教育水準が高い一方、非正規部門での食料不安も抱えるという特徴があるとされています。なお、調査対象となった甘い飲料・加工食品の具体例として、論文中ではコカ・コーラやファンタ、スプライトといった炭酸飲料、地元産のフルーツジュース、ビスケットやインスタント麺、ミートパイなどの超加工スナックが挙げられており、これらはコトクラバ市場や学校の売店などで広く売られていると説明されています。
調査でわかったこと
結果、4つの政策すべてに対して市民の支持率は総じて高いことが示されました。最も支持が高かったのはパッケージ前面警告表示(FOPWL)で81.4%、次いで食品マーケティング規制(FMRP)が76.8%、砂糖入り飲料税が71.2%、公共食品調達政策(PFPP)が65.6%という順でした。つまり、価格に働きかける「税」よりも、情報提供や子ども保護を目的とした「表示」や「規制」の方が、より受け入れられやすい傾向が示されたことになります。
統計的な分析(多変量ロジスティック回帰)では、4つの政策すべてへの支持と関連する要因として、政策の効果を高く見積もっていること(調整オッズ比3.45)、ガーナ保健サービス(GHS)への信頼が高いこと(調整オッズ比1.92)、非感染性疾患(NCD)に関する知識が高いこと(調整オッズ比2.10)、高等教育を受けていること(調整オッズ比1.85)が挙げられました。逆に、砂糖入り飲料税を経済的負担と感じている人(調整オッズ比0.62)や、砂糖入り飲料を毎日飲んでいる人(調整オッズ比0.48)では、政策パッケージ全体への支持が低くなる傾向が見られました。
インタビューからは3つのテーマが浮かび上がったと報告されています。1つ目は「エンパワーメント対強制」で、警告表示やマーケティング規制は消費者に選ぶ自由を残す「力を与える」政策として好意的に語られた一方、税については「心を変えずに単に貧しくするだけ」といった声も紹介されています。2つ目は子どもを広告の「巧妙な手口」から守る「道徳的な盾」としてのマーケティング規制への支持です。3つ目は、砂糖入り飲料税への支持が、税収の使い道が明確であるかどうかに大きく左右される「使途の明確化(リング・フェンシング)」という条件で、たとえば税収が国民健康保険制度(NHIS)の医療費に直接充てられるなら賛成する、という趣旨の発言が引用されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、ガーナ・ケープコースト首都圏という特定の都市部における横断調査であり、著者らも今後は政策導入後の変化を追跡する縦断的な研究が必要だと述べています。また、対象がケープコーストという教育水準が比較的高い都市であるため、結果がガーナの他地域や他の国にそのまま当てはまるとは限りません。研究チームは、社会生態学モデルと計画的行動理論という2つの理論的枠組みを組み合わせて分析していますが、これはあくまで支持の背景を説明するための枠組みであり、今回のアンケートやインタビューの結果自体が政策の効果を証明するものではない点にも留意が必要です。なお、この論文に日本の研究機関や日本の食習慣に関する言及は見当たりませんでした。
まとめ
今回の研究では、ガーナ・ケープコースト首都圏の成人450人を対象にした調査から、砂糖入り飲料税だけでなく、食品パッケージへの警告表示、子ども向けマーケティングの規制、公共機関での健康的な食品調達といった一連の政策に対しても、市民から比較的高い支持が示されたことが報告されました。特に、情報提供型の警告表示や子ども保護を目的とした規制は「自分で選べる」政策として受け入れられやすく、税については税収の使い道を明確にすることが賛同を得るカギになりうることが、量的・質的の両面から示唆されています。ただしこれは一つの都市を対象にした一つの研究であり、結論が確定したものではありません。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):砂糖税を超えて:ガーナ都市部における包括的食品政策パッケージに対する国民の受容性(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)
著者:Kasim Abdulai(Translational Nutrition Research Group, Department of Nutrition and Dietetics, University of Cape Coast)、Emil Kafui Amenu(Translational Nutrition Research Group, Department of Nutrition and Dietetics, University of Cape Coast)、Portia Bangkuu(Translational Nutrition Research Group, Department of Nutrition and Dietetics, University of Cape Coast)、Ivan Addae-Mensah(Department of Population and Health, Faculty of Social Sciences, University of Cape Coast)、Francis Adane(Department of Health Policy, Planning and Management, School of Public Health, University of Ghana)、Abass Daudi(Tamale Teaching Hospital)