この研究は、スーダンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Sudan journal of health sciences.

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と背景

鉄とビタミンB12の不足は、世界の学齢期の子どもに広くみられる健康問題の一つとされています。著者らは、これらの不足が子どもの身体的な成長や学業成績に影響しうる問題であることを背景として挙げています。ビタミンB12は造血と神経細胞の維持に関わる水溶性ビタミンで、鉄は酸素を運ぶヘモグロビンの重要な構成要素です。

2023年4月に始まったスーダンの武力紛争により多くの家族が国内の他地域や近隣国へ移動し、生活条件や食事が大きく変わりました。研究チームは、エジプトのギザに移り住んだスーダン人学童と、スーダンのハルツーム州カラリに住み続けている学童とで、血液検査の値と微量栄養素の状態を評価して比べることを目的としました。

どのように調べたか

研究は2025年5月から7月にかけて行われた横断的分析研究です。横断研究とは、ある一時点での状態を観察して比べる方法で、原因と結果の関係までは判断できない設計です。著者らはこの点を限界として明示しています。

対象は、エジプトのギザの学校1校とスーダンのカラリの学校1校に在籍する8〜16歳の児童生徒です。慢性疾患や血液の病気がある子ども、最近輸血を受けた子ども、採血時に急性感染症があった子どもは除外されました。当初は224人を予定し、名簿からくじ引きで選ぶ方法で抽出しましたが、スーダン側では紛争に伴う立ち入りの制限、両国で費用の制約があり、実際に評価できたのはエジプト70人、スーダン50人の計120人(回答率53.6%)でした。

検査では、全血球計算(血液中の赤血球・白血球・血小板などを数える基本的な検査)を同一機種の自動分析装置で行い、血液を薄く引いて染色した標本を顕微鏡で観察して細胞の形を確かめ、血清中の鉄とビタミンB12を別の自動分析装置で測定しました。統計解析では2群の平均を比較したうえで、両群は年齢と性別の構成が異なっていたため、年齢と性別の影響を差し引いた再解析(共分散分析)も行い、その調整後の結果も併せて報告しています。

報告された主な結果

著者らの報告によると、ヘモグロビン、MCV(赤血球の平均的な大きさ)、MCHC(赤血球に含まれるヘモグロビンの濃さ)、好中球の割合、そして血清ビタミンB12には、2群で統計的に意味のある差はみられませんでした。ヘモグロビンはエジプト群12.13 g/dL、スーダン群12.16 g/dLとほぼ同じで、著者らはこれをもとに、いずれの群でも明らかな貧血が広くみられる状態ではなかったと述べています。

一方で差がみられた項目もあります。RDW(赤血球の大きさのばらつきを示す指標)はエジプト群で低く(14.05%対14.88%)、血小板数はエジプト群で高く(289.26対214.80 ×10³/μL)、リンパ球と単球の割合もエジプト群で高い値でした。好酸球の割合はエジプト群で低く(1.50%対2.94%)、血清鉄はエジプト群で高い値(116.99対77.94 µg/dL)と報告されています。これらは年齢と性別で調整した後も統計的な有意差が保たれました。ただし著者らは、血清鉄については両群の平均値がいずれも基準範囲内にあり、この差がどちらかの群の鉄欠乏を示すものとは考えにくいと述べています。

逆に、調整前には差がみられたMCH(赤血球1個あたりの平均ヘモグロビン量)と白血球の総数は、年齢と性別で調整すると統計的な有意差には達しませんでした(それぞれ調整後p=0.080、p=0.056)。また、顕微鏡による血液標本の観察では、どちらの群にも意味のある形の変化は認められませんでした。

著者らは限界も挙げています。検体は両国の別々の検査室で分析されたため、試薬や保管温度、検査までの時間などの細かな違いを完全には揃えられなかったこと、採血時の空腹かどうかが統一されていなかったこと、フェリチンや葉酸などを測定できず鉄の状態を十分に評価しきれなかったこと、各国1校のみの参加で回答率も53.6%にとどまるため、移動したスーダン人学童全体に当てはめられるとは限らないことです。

この研究が伝えること

この研究は、居住する国が異なるスーダン人学童の間に、血液のいくつかの指標と血清鉄で違いがあり、その多くは年齢や性別の違いだけでは説明しきれないことを示した報告です。同時に、ヘモグロビンやビタミンB12といった中心的な指標には差がなく、どちらの群でも明らかな貧血が目立つわけではありませんでした。

著者らは、こうした所見が、紛争によって移動を経験したスーダン人の子どもたちに対して、血液検査による定期的なスクリーニングを行うことの意義を支持するものだと結論づけています。

著者:Albara Ahmed(Department of Hematology, Faculty of Medical Laboratory Sciences, El-Razi University, Khartoum, Sudan)、Mustafa B. M. Ahmed(Department of Hematology, Medical Laboratory Science Program, Al-Fajr College for Science & Technology, Khartoum, Sudan)、Osman A. O. Ahmed(Department of Hematology, Medical Laboratory Science Program, Al-Fajr College for Science & Technology, Khartoum, Sudan)、Hadia N. M. S. Ahmed(Department of Hematology, Medical Laboratory Science Program, Al-Fajr College for Science & Technology, Khartoum, Sudan)、Fairoz A. M. S. Abdelrahman(Department of Hematology, Medical Laboratory Science Program, Al-Fajr College for Science & Technology, Khartoum, Sudan)、Fatima Y. A. Alshaikh(Department of Hematology, Medical Laboratory Science Program, Al-Fajr College for Science & Technology, Khartoum, Sudan)、Saif eldowla Ayoub(Department of Microbiology, Medical Laboratory Science Program, Al-Fajr College for Science & Technology, Khartoum, Sudan)、Mohamed E. Abdelwadoud(Department of Histopathology, Faculty of Medical Laboratory Sciences, Nile University, Khartoum, Sudan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Albara Ahmed, Mustafa B. M. Ahmed, Osman A. O. Ahmed, et al. Hematological and Micronutrient Profile among Sudanese Schoolchildren in Egypt and Sudan. Sudan journal of health sciences. 2026-08-31. DOI: 10.69993/2026.4.2.en5. 原著ライセンス:CC BY.