スーパーで買う野菜や乳製品、肉、魚介類、そして調理済みの惣菜や飲料。こうした身近な食品には、目に見えない微生物が付着していることがあります。多くは無害ですが、なかには食中毒を引き起こす菌や、抗菌薬(抗生物質)が効きにくい耐性菌が含まれている場合もあります。こうした「薬剤耐性(AMR)」は世界的な公衆衛生上の課題として注目されており、食品がその拡散経路の一つになりうると考えられています。今回紹介する研究は、エジプトで流通する食品を対象に、どのような微生物がどれくらいの頻度で存在し、どの程度の薬剤耐性を持つのかを調べたものです。

研究チームは、野菜、乳製品、肉類、魚介類、調理済み食品(レディ・トゥ・イート食品)、飲料を含む合計133件の食品サンプルを collect し、微生物学的な検査を行いました。その結果、128件のサンプルから微生物の増殖が確認され、合計128種類の細菌・真菌が同定されました。菌の同定には、MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析)という手法が用いられています。これはタンパク質のパターンを質量分析によって解析し、菌の種類を特定する技術で、この研究では128件のうち125件(97.7%)で種レベルまでの同定に成功し、残る3件(2.3%)は同定の信頼度が低い結果にとどまったと報告されています。

どんな菌が、どれくらいの割合で見つかったのか

同定された微生物のうち、最も多く検出されたのは大腸菌(Escherichia coli)と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)で、いずれも20.3%を占めました。次いでサルモネラ属菌(Salmonella spp.)が14.8%、セレウス菌(Bacillus cereus)が11.7%と続いています。これらはいずれも食中毒の原因として知られる細菌です。また、細菌だけでなく真菌(カビや酵母の仲間)も全体の14.9%を占め、Penicillium属、Candida属、Aspergillus属、および種を特定できなかった酵母が含まれていたとされています。

薬剤耐性の状況と、この研究の位置づけ

抗菌薬に対する感受性試験(サンプルの菌が薬にどの程度反応するかを調べる試験)では、菌の種類によって耐性のパターンにばらつきが見られ、全体としてはグラム陰性菌(大腸菌など細胞壁の構造が異なるグループの細菌)でより高い耐性頻度が観察されたと報告されています。さらに、複数の抗菌薬に同時に耐性を示す「多剤耐性(MDR)」の性質を持つ菌株も見つかり、特に大腸菌と緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)で顕著だったほか、Enterobacter cloacae複合体や黄色ブドウ球菌でも多剤耐性のパターンが確認されたとされています。この研究はエジプトという特定の地域における食品由来微生物の多様性と薬剤耐性の状況を示す最新のデータを提供するものであり、一つの調査結果として位置づけられるものです。研究チームは、食品安全の監視やリスク評価、公衆衛生上の対応を支えるためには、食品由来の病原菌や薬剤耐性について継続的な監視を続けることが重要だと述べています。

この研究はエジプトのアハラム・カナディアン大学薬学部の研究者によって行われたもので、対象となった食品や検出された菌の分布は、あくまでエジプトで収集されたサンプルに基づく結果です。異なる地域や食品流通の状況では結果が異なる可能性があり、この一つの調査結果だけで薬剤耐性の全体像や特定の食品の安全性を断定的に判断することはできません。

まとめ

今回の研究では、エジプトで収集された133件の食品サンプルを対象に、MALDI-TOF MSという質量分析技術を用いて微生物を同定し、大腸菌や黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、セレウス菌などが高い頻度で検出されたことが報告されました。また、グラム陰性菌を中心に薬剤耐性の傾向が見られ、一部の菌株では複数の抗菌薬に耐性を示す多剤耐性のパターンも確認されています。食品を介した微生物や薬剤耐性菌の広がりを理解するうえで参考になる知見ですが、これは特定の地域・時期に行われた一つの調査であり、研究チーム自身も継続的な監視の必要性を指摘しています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Sayed E. El-Sayed. Prevalence and antimicrobial resistance of foodborne microorganisms in Egypt identified by MALDI-TOF MS. ディスカバー・フード (2026). DOI: 10.1007/s44187-026-01224-0.