この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Advanced Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
アレルギー性喘息は喘息の中で最も多いタイプで、気道がふさがりやすくなり、粘液が過剰に作られ、好酸球という白血球が気道に集まって炎症を起こします。論文によれば、こうした反応の中心にあるのは「Th2細胞」と呼ばれる免疫細胞が優位になる状態で、そこから出るIL-4、IL-5、IL-13といった物質がアレルギー反応を後押しします。世界の喘息人口は増え続け、2050年には2億7500万人に達すると見込まれていると著者らは紹介しています。
肺の中でアレルゲンを取り込み、Th2細胞への偏りの引き金を引くのが樹状細胞(DC)です。DCにはCD103陽性型とCD11b陽性型があり、アレルギー性喘息ではCD11b陽性DCが炎症の現場に次々と集まってきて炎症を悪化させることが、これまでの研究で示されてきました。研究チームは以前の研究で、健康な人の便から分離した乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum GUANKEがDCを介した免疫の方向づけに関わることを報告しています。そこで今回は、この菌が腸内細菌と代謝物の変化を通じてアレルギー性の気道炎症を和らげるのかどうかを調べました。
何をどう調べたか
著者らは、卵白アルブミン(OVA)というタンパク質でアレルギー性気道炎症を起こしたマウスを用いました。GUANKEを毎日経口投与する群と対照群を比べ、気道に集まる細胞の数と種類、気道の反応しやすさ(気道過敏性)、血液中のIgE、肺のサイトカイン、肺組織の見え方などを調べています。発症前から与える予防的な使い方に加えて、最後のアレルゲン曝露の後から7日間与える治療的な使い方も検討しました。
さらに、腸の内容物と血液に含まれる代謝物を網羅的に測り、腸内細菌の構成を16S rRNA遺伝子の解読で調べました。菌の働きが腸内細菌そのものに依存するかを確かめるため、抗生物質で腸内細菌を減らしたマウスに、GUANKE投与マウスの便の細菌を移植する実験(便微生物移植)と、抗生物質処理後に菌を直接与える実験を比較しています。骨髄から作った樹状細胞を使った培養実験や、その細胞をマウスに移す実験も行いました。加えて、臨床的な関連を確かめるため、喘息患者28人と健康な対照28人の血液について、トリプトファン関連の代謝物を測定しています。
主な報告結果
GUANKEを与えたマウスでは、気管支肺洗浄液や肺に集まる好酸球・マクロファージ・好中球が減り、気道過敏性もやわらぎました。血液中のIgEとTh2関連サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13)は低下し、組織を見ても気道の粘液の過剰分泌が抑えられていました。一方でTh1のIFN-γやTh17のIL-17Aの変化は元に戻らなかったため、著者らはTh2寄りに働く仕組みだと述べています。免疫を抑える側の制御性T細胞は部分的に回復しました。治療的な投与でも同様の効果が確認されています。
細胞レベルでは、GUANKEは肺でのCD11b陽性DCの増加とその成熟(CD86の発現)を抑え、DCの前段階の細胞を呼び寄せる物質(Ccl2、Ccl8、Ccl20)や、Th2細胞を呼び寄せる物質(Ccl17、Ccl22)の発現も下げました。代謝物の解析では、トリプトファン代謝の経路が変化しており、その中のインドール-3-酢酸(IAA)が、喘息モデルで下がっていた血液中の値がGUANKE投与によって回復しました。他のインドール系代謝物には目立った変化はなく、培養液の測定ではGUANKE自身がIAAを多く作ることも示されています。
IAAを直接マウスに与えると、気道の炎症細胞の減少、気道過敏性の改善、IgEとTh2サイトカインの抑制、CD11b陽性DCの蓄積の抑制など、GUANKEと似た変化が現れました。加えてIAAでは、GUANKEでは動かなかったIFN-γの回復とIL-17Aの抑制も見られています。腸内細菌については、GUANKEで多様性が上がり、Bacteroides属の複数の菌種が増えていました。重要なのは、GUANKE投与マウスの便の細菌を移植すると血液中IAAと保護効果が受け渡された一方、抗生物質で腸内細菌を減らした後にGUANKEを直接与えてもIAAは回復せず保護効果も見られなかった点です。著者らはこれを、もともと住んでいる腸内細菌に依存した仕組みを支持する結果と位置づけています。培養実験では、IAAで処理したDCはTh2への偏りを弱め、Th1側を増やす方向に働きました。
ヒトの検体でも、喘息患者の血液中IAAは健康な対照より低く、N-アセチルセロトニンやセロトニン、ニコチンアミド、ニコチン酸も低い値でした。著者らは、血液中IAAの低下がマウスの実験モデルとヒトの喘息に共通して見られる特徴だと述べています。
この報告が意味すること
この研究が描き出しているのは、腸で作られた小さな代謝物が肺の免疫細胞のふるまいに届く、という腸と肺のつながりです。乳酸菌そのものではなく、その菌がもともとの腸内細菌と協調して生み出すIAAという物質が、アレルギー反応の引き金を引く樹状細胞に働きかけていた、と著者らは報告しています。
菌を与えるだけでは腸内細菌がいなければ効かなかったという対比は、プロバイオティクスの働きを考えるうえで、宿主にすでに住んでいる細菌の状態が無視できない要素であることを示しています。またヒトの血液でもIAAの低下が見られたことは、動物実験で見つかった代謝の変化が実際の喘息とも重なりうることを示す手がかりとして報告されています。
著者:Yujia He(National Key Laboratory of Intelligent Tracking and Forecasting for Infectious Diseases National Institute for Communicable Disease Control and Prevention Chinese Center for Disease Control and Prevention & Chinese Academy of Preventive Medicine Beijing P. R. China)、Jielan Mi(Institute of Public Health School of Medicine Nankai University Tianjin P. R. China)、Zhiping Zhao(Shanxi Bethune Hospital Shanxi Academy of Medical Sciences Third Hospital of Shanxi Medical University Tongji Shanxi Hospital Taiyuan P. R. China)、Xiao Zhang(Gansu University of Chinese Medicine Gansu P. R. China)、Zhihan Yang(National Key Laboratory of Intelligent Tracking and Forecasting for Infectious Diseases National Institute for Communicable Disease Control and Prevention Chinese Center for Disease Control and Prevention & Chinese Academy of Preventive Medicine Beijing P. R. China)、Kun Yue(National Key Laboratory of Intelligent Tracking and Forecasting for Infectious Diseases National Institute for Communicable Disease Control and Prevention Chinese Center for Disease Control and Prevention & Chinese Academy of Preventive Medicine Beijing P. R. China)、Yuanming Huang(National Key Laboratory of Intelligent Tracking and Forecasting for Infectious Diseases National Institute for Communicable Disease Control and Prevention Chinese Center for Disease Control and Prevention & Chinese Academy of Preventive Medicine Beijing P. R. China)、Liqiong Song(National Key Laboratory of Intelligent Tracking and Forecasting for Infectious Diseases National Institute for Communicable Disease Control and Prevention Chinese Center for Disease Control and Prevention & Chinese Academy of Preventive Medicine Beijing P. R. China)、Xiaoting Wen(Shanxi Bethune Hospital Shanxi Academy of Medical Sciences Third Hospital of Shanxi Medical University Tongji Shanxi Hospital Taiyuan P. R. China)、Jianguo Xu(National Key Laboratory of Intelligent Tracking and Forecasting for Infectious Diseases National Institute for Communicable Disease Control and Prevention Chinese Center for Disease Control and Prevention & Chinese Academy of Preventive Medicine Beijing P. R. China)、Zhihong Ren(National Key Laboratory of Intelligent Tracking and Forecasting for Infectious Diseases National Institute for Communicable Disease Control and Prevention Chinese Center for Disease Control and Prevention & Chinese Academy of Preventive Medicine Beijing P. R. China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yujia He, Jielan Mi, Zhiping Zhao, et al. Lactiplantibacillus Plantarum GUANKE Alleviates Allergic Asthma by Restricting Monocyte‐to‐DC Differentiation Via Microbiota‐Associated IAA. Advanced Science 2026-09-16. DOI: 10.1002/advs.202523466. 原著ライセンス:CC BY.