日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Microbiology and Immunology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を確かめようとしたのか

ヨーグルトの発酵に使われる乳酸菌の一種、ラクトバチルス・デルブルエッキー・ブルガリクス OLL1073R-1 は、菌体の外に「菌体外多糖(EPS)」と呼ばれる大きな糖の分子を作り出します。研究チームによれば、この株が作るEPSについてはこれまで主にウイルスに対する免疫を高める働きが報告されてきましたが、細菌感染に対する生体防御にどう関わるかはほとんど分かっていませんでした。

そこで著者らは、細菌に対する守りの側面に注目しました。対象にしたのは化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)です。論文では、この菌はのどの炎症やとびひといった比較的軽い感染症から、壊死性筋膜炎や毒素性ショック症候群といった死亡率の高い重い病気まで引き起こす病原体であり、本来は細胞の外で増える菌と考えられているものの、マクロファージなどの食細胞の内部で生き延びて免疫からの排除を免れる場合があると説明されています。

マクロファージは細菌を取り込んで内部で殺す免疫細胞、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は感染細胞などを攻撃する別種の免疫細胞です。著者らは、マクロファージを活性化させる物質であるIL-12(インターロイキン12)が、NK細胞にIFN-γ(インターフェロンγ)を作らせる橋渡しをすることが知られている点に着目し、EPSがこのIL-12とIFN-γの経路を通じてマクロファージの殺菌力を高めるのではないか、という仮説を立てました。

どのように調べ、何が見えたか

研究チームは、ヒト由来の単球系細胞株を薬剤処理してマクロファージにしたものと、NK細胞に似た性質をもつ細胞株を用い、試験管内(in vitro)で培養する実験系を組み立てました。EPSは、この乳酸菌で発酵させた脱脂乳から抽出・精製して調製し、濃度を変えて細胞に加えています。細胞に化膿レンサ球菌を感染させたあと、細胞の外に残った菌を抗菌薬で取り除き、細胞内で生き残っている菌の数を時間を追って数えることで、マクロファージの「細胞内殺菌活性」を評価しました。

まずマクロファージだけにEPSを加えた場合、細菌が細胞に付着する量は変わらず、細胞内で菌を殺す力にも統計的に意味のある増加は見られませんでした。一方、比較対象として用いたIFN-γやLPS(細菌由来の刺激物質)で処理したマクロファージでは、細胞内の菌が有意に減りました。

ところが、マクロファージをNK様細胞と一緒に培養したうえでEPSを加えると、結果が変わりました。高い濃度(100および200 μg/mL)のEPSでは、IFN-γやLPSで処理した場合に匹敵する殺菌活性の上昇が認められたと報告されています。より低い濃度(0、5、50 μg/mL)では、共培養であっても殺菌活性は上がりませんでした。

仕組みをどこまで示したか

著者らは、この違いが何によるのかを調べました。遺伝子の発現量を測ったところ、EPSで刺激したマクロファージではIL-12の遺伝子発現がEPSの濃度に応じて有意に上昇し、IFN-γの発現は検出されませんでした。逆にNK様細胞をEPSで直接刺激しても、IL-12・IFN-γのいずれの遺伝子発現も誘導されませんでした。つまりEPSはマクロファージに直接働いてIL-12を作らせる一方、NK様細胞に直接IFN-γを作らせるわけではないことになります。

実際にタンパク質として分泌されるIFN-γの量を測ると、マクロファージ単独でもNK様細胞単独でも産生は見られず、両者を一緒に培養してEPSで刺激したときにだけ、濃度に応じた有意な産生が確認されました。研究チームは、低い濃度のEPSで殺菌活性が上がらなかったのは、マクロファージを活性化するのに十分なIFN-γが作られなかったためではないかと考察しています。

さらに、IL-12またはIFN-γの働きを打ち消す中和抗体を共培養系に加えたところ、EPSによる殺菌活性の向上はいずれの場合も有意に失われ、中和作用のない対照抗体では影響がありませんでした。以上から著者らは、EPSがマクロファージにIL-12を作らせ、それがNK細胞を活性化してIFN-γを産生させ、そのIFN-γがマクロファージの殺菌力を高める、という流れを支持する結果だと述べています。

この報告が示す意味

著者らは本研究の限界も挙げています。今回の実験は培養細胞株を用いた試験管内のモデルであり、生体内での意義は改めて確かめる必要があること、IL-12についてはタンパク質量ではなく遺伝子発現のレベルでしか測っていないこと、IL-18やTNF-αといった他のサイトカインの関与は検討していないこと、そしてEPSがマクロファージにどう認識されるのか、その働きを担う構造上の特徴は何かが未解明であることです。

それでもこの報告は、これまで主にウイルスに対する免疫との関連で語られてきた乳酸菌由来のEPSが、細胞の中に潜り込んで免疫をかわす細菌に対する守りにも関わりうることを示しました。しかもその働きは、EPSがマクロファージを直接強くするのではなく、マクロファージとNK細胞という二種類の免疫細胞のやりとりを介して現れる——この間接的な仕組みを具体的なサイトカインの経路として描き出した点に、本研究の報告としての意義があります。

著者:Chikara Kohda(Department of Microbiology and Immunology Showa Medical University School of Medicine Tokyo Japan)、Hiroki Ishikawa(Department of Microbiology and Immunology Showa Medical University School of Medicine Tokyo Japan)、Yoshihiro Kuno(Department of Microbiology and Immunology Showa Medical University School of Medicine Tokyo Japan)、Yasunari Matsuzaka(Department of Microbiology and Immunology Showa Medical University School of Medicine Tokyo Japan)、Hiroki Kono(Wellness Science Labs Meiji Holdings Co., Ltd. Tokyo Hachioji Japan)、Toshihiro Sashihara(Wellness Science Labs Meiji Holdings Co., Ltd. Tokyo Hachioji Japan)、Hirotaka Kuwata(Department of Oral Microbiology and Immunology Showa Medical University School of Dentistry Tokyo Shinagawa Japan)、Masayuki Iyoda(Department of Microbiology and Immunology Showa Medical University School of Medicine Tokyo Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Chikara Kohda, Hiroki Ishikawa, Yoshihiro Kuno, et al. Exopolysaccharides From Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R‐1 Enhance Macrophage Bactericidal Activity Through IL‐12‐Dependent Macrophage–NK Cell Crosstalk. Microbiology and Immunology 2026-09-14. DOI: 10.1111/1348-0421.70090. 原著ライセンス:CC BY.