この研究は、ポルトガル、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Stored Products Research
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的と背景
エキストラバージンオリーブオイルは、不飽和脂肪酸を多く含むため酸化しやすく、保存中に品質が少しずつ低下していきます。研究チームは、この酸化をできるだけ抑える新しい容器をつくれないかと考えました。
そこで着目したのが、オリーブ栽培で大量に出る副産物であるオリーブの葉です。葉にはオレウロペインをはじめとするフェノール化合物(植物が持つ抗酸化性の成分)が豊富に含まれています。論文によれば、オリーブ由来ではない成分を使った包装では、成分が油に移った場合にオリーブオイルとしての分類上の問題が生じうるため、オリーブ自身に由来する材料を使う意義があるとされています。
著者らは、食品用途に適した樹脂であるPETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)を3Dプリントして約180 mLのボトルをつくり、その内側にオリーブの葉由来の粉末を含む被膜を施した「はたらきかける包装(アクティブ包装)」を試作しました。あわせて、PETGとコーティング材そのものにも保護効果があるかどうかを確かめることを目的としています。
何を、どのように調べたか
材料には、ポルトガル北東部で採取した‘Cobrançosa’種のオリーブの葉を用い、凍結乾燥して粉にしました。この葉の粉をそのまま使うものと、水で抽出して凍結乾燥した粉を使うものの2種類を用意しています。抽出溶媒としてメタノールも検討されましたが、食品接触用途での毒性の懸念から、コーティングには使われませんでした。
これらの粉末を、シリコーン系の素材であるPDMS(ポリジメチルシロキサン)に混ぜ、3Dプリントしたボトルの内面にキャップも含めて手作業で塗布しました。粉末の含有量は、PDMS 11 mLあたり200 mgです。コーティング中のフェノール量は、葉粉末を用いた場合で0.92 ± 0.10、水抽出粉末を用いた場合で0.80 ± 0.13 mg GAE/mL PDMSと報告されています。
比較対象として、粉末を含まないPDMSだけを塗った3Dプリントボトルと、従来型の濃緑色ガラス瓶も用意しました。同一ロットのエキストラバージンオリーブオイルをそれぞれに充填し、ヘッドスペース(上部の空間)を約10%に揃えたうえで、暗所・40℃で30日間という加速保存試験を行っています。保存前後で、酸価(遊離酸度)、過酸化物価、紫外部の吸光係数K232・K268、総フェノール量、抗酸化活性、酸化安定性を測定し、訓練された8名のパネルによる官能評価も実施しました。さらに主成分分析や判別分析といった多変量解析を用いて、試料の傾向を整理しています。
主な報告結果
論文によれば、すべての試料が保存中に酸化し、K232が2.60を超えたことで、エキストラバージンからランパンテ(食用に適さない等級)へと格下げされました。つまり、どの容器でも加速条件下での劣化そのものは防げなかったということです。
一方で、容器による差は明確でした。葉由来の粉末で機能化したボトルに入れた油は、ガラス瓶で保存した油と比べて、過酸化物価とK268が統計的に有意に低く(P < 0.05)、酸化安定性が高く、フェノール類がより多く保持されていたと報告されています。官能評価でも、酸敗(劣化した油特有の不快なにおい・味)の強度は、機能化ボトルで3.0〜3.1、ガラス瓶では4.3でした。
保護効果の順位は、機能化ボトルがもっとも高く、次いで機能化していない3Dプリントボトル、最後にガラス瓶という結果でした。著者らはここから、PETG/PDMSという材料自体にも保護効果があり、機能化によってそれがさらに高まると解釈していますが、この解釈は経験的なものであり、仕組みの面からの確認が必要だとも述べています。多変量解析でも、機能化ボトルの油は保存していない油に近い位置にまとまり、保護効果が裏づけられました。
2種類のコーティングはいずれも有効でしたが、著者らは、抽出工程が不要で技術的な手間が少ない葉粉末のほうが実用的だと指摘しています。
この研究が示すこと
この研究は、包装の形状を自由につくれる3Dプリントと、捨てられがちなオリーブの葉という副産物を組み合わせ、油の酸化を抑える方向へ包装そのものをはたらかせるという考え方を、実際のオリーブオイルで検証したものです。
厳しい加速条件のもとでは等級の低下を止めることはできませんでしたが、容器の違いによって酸化の進み方や官能的な劣化に差が生まれることを、著者らは一連の指標で示しました。包装材料を受け身の入れ物としてではなく、中身を守る積極的な要素として設計しうること、そしてその材料を同じ作物の副産物から得られることを示した点に、この報告の意味があります。
著者:Emily F.D. Santos(CIMO, LA SusTEC, Universidade Politécnica de Bragança, Campus de Santa Apolónia, Bragança, 5300-253, Portugal)、Nuno Ferreiro(CIMO, LA SusTEC, Universidade Politécnica de Bragança, Campus de Santa Apolónia, Bragança, 5300-253, Portugal)、Ana C. A. Veloso(Polytechnic University of Coimbra, Rua da Misericórdia, Lagar Dos Cortiços – S. Martinho Do Bispo, Coimbra, 3045-093, Portugal)、Edimir Andrade Pereira(Departamento de Química, Universidade Tecnológica Federal Do Paraná, Via Do Conhecimento, Km 01, Pato Branco, 85503-390, Brazil)、Carla Moura(Polytechnic University of Coimbra, Rua da Misericórdia, Lagar Dos Cortiços – S. Martinho Do Bispo, Coimbra, 3045-093, Portugal)、Nuno Rodrigues(CIMO, LA SusTEC, Universidade Politécnica de Bragança, Campus de Santa Apolónia, Bragança, 5300-253, Portugal)、António M. Peres(CIMO, LA SusTEC, Universidade Politécnica de Bragança, Campus de Santa Apolónia, Bragança, 5300-253, Portugal)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Emily F.D. Santos, Nuno Ferreiro, Ana C. A. Veloso, et al. Active 3D-Printed PETG bottles functionalized with olive leaf-derived powders for enhanced olive oil preservation. Journal of Stored Products Research 2026-09-08. DOI: 10.1016/j.jspr.2026.103238. 原著ライセンス:CC BY.