年齢を重ねると、食べ物を飲み込む力(嚥下機能)が弱くなり、硬すぎたり、逆にバラバラと崩れたりする食品はむせや誤嚥のリスクにつながることがあります。そこで近年注目されているのが、食品を専用のプリンターで少しずつ押し出しながら形を作る「3Dフードプリンティング」です。やわらかく飲み込みやすい形状を保ちながら、見た目や食感を工夫できる点が期待されています。今回紹介する研究は、この3Dプリント食品の「インク(材料)」に関するものです。レンコンの粉とホエイプロテイン(乳由来のたんぱく質)を組み合わせ、そこに油を加えることで、印刷のしやすさと出来上がった食品の食感がどう変わるかを調べています。
研究でわかったこと
この研究では、レンコン全粉とホエイプロテインを主成分とし、そこに不飽和の液状油を混ぜ込んだ複合インクを作り、3Dプリントでの印刷適性(スムーズに押し出せて、かつ形が崩れないか)と、出来上がったゲルのテクスチャーを検討しました。
その結果、油を加えることで生地の見かけの粘度が下がり、粘弾性(ねばり気と弾力のバランス)にも変化が見られたと報告されています。つまり油を入れるほど押し出しやすくなる一方で、形を保つ力とはトレードオフの関係にあることが示されたということです。
印刷の精度(狙った形にどれだけ近く作れるか)とテクスチャーの両面を総合的に評価した結果、固形分と油の比率が10:0および10:1の配合で、印刷のズレが同程度に小さく、かつ保水性(水分を保持する力)も優れていたとされています。つまり、油を全く加えない場合と、ごく少量加えた場合とで、良好なバランスが得られた形です。
さらに、複数の分析手法を用いた構造解析では、このゲルの内部はおおむね非晶質(結晶のような規則構造を持たない状態)なマトリックスであり、水を含む部分での結合のあり方が油の添加によって変化していることが示唆されています。加えて、油の粒(液滴)とマトリックスとの相互作用が、押し出し時のなめらかさや、印刷後に構造が変化していく過程に関わっていると考察されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、嚥下障害に配慮した3Dプリント食品の設計にあたり、油の添加が生地の物性や構造にどう影響するかを検討したものであり、特定の配合や製品が嚥下障害の改善や予防効果を持つことを示したものではありません。また、これは一つの研究であり、ここで示された知見がすべての条件や食品に当てはまるかどうかは今後のさらなる検証が必要です。あくまで印刷適性や食感設計のメカニズムを理解するための基礎的な知見という位置づけで読むのがよいでしょう。
まとめ
レンコンとホエイプロテインを組み合わせた3Dプリント用インクに油を加えると、生地の流れやすさと形の保持力のバランスが変わり、印刷精度や保水性に影響することが示されました。今後、こうした知見が嚥下障害に配慮した食品づくりの技術的な土台の一つとして役立っていく可能性があります。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:嚥下障害対応3Dプリント澱粉系ゲルの調整:オリーブオイルによるレンコン・ホエイタンパク質インクの調整(エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード・2026年07月)