この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Bioresources and Bioprocessing
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:硬い細胞壁が邪魔をする
褐藻類のワカメ(Undaria pinnatifida)は、乾燥重量あたり11〜14%のタンパク質を含み、食物繊維や多糖類、抗酸化成分も豊富なため、タンパク質やその他の有用成分を回収する原料として注目されています。研究チームは、この海藻からタンパク質を効率よく取り出す方法を探りました。
ただし、ワカメからタンパク質を取り出すのは簡単ではありません。細胞を包む壁がアルギン酸、フコイダン、ラミナリン、セルロースといった複数の層で構成されており、物質の移動を強く妨げるため、細胞の中にあるタンパク質が外へ出てきにくいのです。
従来の抽出法は、長い時間と多くの溶媒を必要とし、場合によっては高い温度を使うため、熱に弱い有用成分が壊れてしまうことがあります。そこで研究チームが着目したのが、熱を使わない「パルス電界(PEF)」という技術です。これは短時間の高電圧パルスを繰り返し加え、細胞膜に一時的または永久的な小さな穴を開ける「電気穿孔」という現象を起こすものです。膜に穴が開けば物質が移動しやすくなり、中の成分が出てきやすくなります。
しかし、PEFが主に作用するのは細胞膜であり、セルロースなどで作られた硬い細胞壁を完全に壊すわけではありません。一方、細胞壁を分解する酵素(セルラーゼなど)を使う方法は、酵素が細胞の内部まで入り込みにくいという限界があります。そこで研究チームは、PEFで細胞の透過性を高めてから酵素で処理すれば、互いの弱点を補い合えるのではないかと考え、この二段階の工程を検討しました。
何を調べたか
研究チームは韓国・統営の市場でワカメを購入し、洗浄したうえで実験に用いました。前処理として、葉状体を約1×1cmに切るかそのままにし、海水に近い3.5%の食塩水に1〜3日浸す条件を比較しました。
PEF処理には、平行に向かい合う2枚の電極を6cm離して配置した250mL容量の処理室を備えた装置を使いました。研究チームは、一度に一つの条件だけを変える方法で、電界強度(1〜5 kV/cm)、パルス幅(5〜20マイクロ秒)、パルスの繰り返し周波数(40〜100 Hz)、処理時間(30〜180秒)を順番に検討しました。海藻の投入量(12.5〜100g)も調べています。
タンパク質の量はBCA法という比色法で測定し、処理の前後で試料の電気伝導度も測りました。電気伝導度の変化は、組織の透過性が変わってイオンが出てきたことを間接的に示す指標として使われています。あわせて、投入した電気エネルギーや、消費エネルギー1kJあたりに回収できたタンパク質量(エネルギー効率)も算出しました。
さらに、最適化したPEF条件で処理した試料にセルラーゼ(0.5%と1.0%)を加え、pH 5.0、40℃で反応させました。比較のため、無処理、PEFのみ、セルラーゼのみ、PEF+セルラーゼの4群を設けています。得られた抽出液の抗酸化性は、DPPH法、ABTS法、FRAP法という3つの異なる測定法で評価しました。
主な報告結果:強くすれば良いわけではない
論文で報告された結果のうち特徴的なのは、条件を強めれば結果も良くなるという単純な関係ではなかったという点です。
電界強度については、無処理の116 µg/mLに対し、1、2、3 kV/cmでそれぞれ380、442、490 µg/mLへと増加しました。ところが、さらに強くすると4 kV/cmで314 µg/mL、5 kV/cmで274 µg/mLへと下がりました。つまり3 kV/cmが検討した範囲での最も高い値で、無処理の約3.2倍にあたります。研究チームは、より高い電界での低下について、処理が過剰であったこと、あるいはエネルギーが有効に使われなかったことが考えられるとしつつ、細胞壁の損傷や膜の穴そのものを直接測定していないため、これらは実験で証明された原因ではなく可能性のある説明として扱うべきだと述べています。
パルス幅も同様で、5マイクロ秒では303 µg/mL、10マイクロ秒で最大の487 µg/mLとなり、15マイクロ秒(369 µg/mL)、20マイクロ秒(255 µg/mL)では低下しました。処理時間についても、30秒で350 µg/mL、60秒で最大の490 µg/mLに達した後、90秒から180秒にかけて280、240、212、200 µg/mLへと段階的に下がりました。
一方、パルスの繰り返し周波数だけは傾向が異なりました。40 Hzの255 µg/mLから、60 Hzで343、80 Hzで432、100 Hzで493 µg/mLへと、検討した範囲内では上がり続けました。研究チームは、これについて100 Hzは調べた範囲内での最適値であり、100 Hzを超える周波数で抽出効率が下がることを示す証拠ではないと注意を促しています。
この研究が示すこと
研究チームは、PEFと酵素処理を別々の抽出手段として扱うのではなく、一つのつながった工程として評価する必要があると位置づけています。PEFで細胞膜の透過性を高め、続く酵素処理で残った細胞壁の障壁を弱めるという順序に意味があるという考え方です。
また、この研究は抽出量だけでなく、電気伝導度、投入エネルギー、エネルギー効率といった工程としての特性も同時に測っている点に特徴があります。条件を強くしても回収量が増えないなら、余分に使ったエネルギーは無駄になります。実際に電界強度・パルス幅・処理時間のいずれにも「ここから先は増えない」境目が見つかったことは、抽出条件を決めるうえで実際に測って確かめる意味を示しています。
研究チームは、この成果を実験室規模での検討結果として、褐藻バイオマスからタンパク質などの有用成分を穏やかな条件で回収する方法を評価する基礎になるものと述べています。
著者:Antony Rinthiya Mariadavid(Department of Seafood Science and Technology, The Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, Tongyeong, 53064, Republic of Korea)、Maya Malikhaturohmah(Department of Seafood Science and Technology, The Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, Tongyeong, 53064, Republic of Korea)、Hyesuck An(Department of Seafood Science and Technology, The Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, Tongyeong, 53064, Republic of Korea)、Sana Mansoor(LSTME-Busan, 31, Gwahaksandan 1-ro, 60 beon-gil, Gangseo-gu, Busan, 46742, Republic of Korea)、Giovanni Luzi(LSTME-Busan, 31, Gwahaksandan 1-ro, 60 beon-gil, Gangseo-gu, Busan, 46742, Republic of Korea)、Jae Hak Sohn(Department of Food Science and Culinary Arts, College of Health and Welfare, Silla University, Busan, 46958, Republic of Korea)、Khawaja Muhammad Imran Bashir(Department of Seafood Science and Technology, The Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, Tongyeong, 53064, Republic of Korea. [email protected])、Jae‐Suk Choi(Department of Seafood Science and Technology, The Institute of Marine Industry, Gyeongsang National University, Tongyeong, 53064, Republic of Korea. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Antony Rinthiya Mariadavid, Maya Malikhaturohmah, Hyesuck An, et al. Optimization of pulsed electric field pretreatment followed by cellulase hydrolysis for enhanced protein recovery and antioxidant activity from brown seaweed (Undaria pinnatifida). Bioresources and Bioprocessing 2026-09-22. DOI: 10.1186/s40643-026-01140-2. 原著ライセンス:CC BY.