著者の所属・活動拠点の国は、ウクライナです。

掲載誌:Herald of Khmelnytskyi National University Technical sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜパンの栄養強化に注目するのか

ウクライナでは、パンやパン類が食事から摂るカロリーの約40%を占めるとされ、年齢や収入に関わらず多くの人が日常的に食べています。一方で、パン製造業は長く縮小傾向にあります。著者らが引用した資料によると、2013年に小麦粉は約237.8万トン、パンは約156.1万トン生産されていましたが、2018年までにそれぞれ17%と31%減少しました。設備の老朽化、投資不足、原料費の上昇、小規模ベーカリーとの競争に加え、新型コロナウイルスの流行と全面的な戦争が、この傾向をさらに強めたと論文は述べています。

こうした状況のなかで、業界では単純な配合のパンが減り、付加価値のある製品が増えています。その一つが、健康への配慮を打ち出した「機能性食品」としてのパンです。論文によると、ウクライナで健康志向のパン類の生産量は、2022年に2018年比で111%増加しました。

著者らは、パンが手に入りやすく、毎日食べても飽きにくいことから、栄養成分を食事に取り入れる土台として適していると考えています。一方で、一般的な小麦パンには、アミノ酸のバランスが偏っている、微量栄養素が少ない、血糖値を上げやすいといった弱点もあるとしています。

この総説の目的は、これまであまり使われてこなかった植物やキノコの素材をパンに加えた研究を集めて整理することです。そのうえで、どのような形で、どのくらいの量を加えるのが適切かを検討しています。

植物由来の素材を加えたパンの研究

著者らが集めた研究では、植物素材は主に粉末として加えられ、エキスやペーストとして使われる例もありました。全体の傾向として、ポリフェノールや食物繊維、抗酸化成分が増える一方、加える量が多いと生地の性質が悪くなり、パンが膨らみにくくなることが報告されています。これは、小麦粉の割合が減ることで、生地の骨組みとなるグルテン(小麦のたんぱく質がつくる網目構造)が薄まるためだと説明されています。

個別の例として、サツマイモ(バタタ)の粉末で小麦粉の一部を置き換えると、たんぱく質やフェノール化合物が増え、抗酸化力も高まりました。ただし、パンの体積や生地の弾力は低下し、風味を保てる量は5〜10%とされました。緑茶の葉の粉末は、小麦粉100gあたり1gで全粒粉パンの抗酸化力を高め、保存中の過酸化物の蓄積も抑えました。風味への影響はほとんどなかったと報告されています。このほか、コリアンダーの葉の粉末は3〜5%、ウコン(ターメリック)の粉末は4%での利用が紹介されています。

グリーンコーヒー豆の粉末は、3%ではポリフェノールや鉄を加えつつ味への影響が小さかった一方、7%では中身がはっきり緑色になり、苦みが出ました。ブドウの種のエキスは、加熱で有害な物質ができるのを抑え、抗酸化力も高めました。ただし、焼成中に抗酸化力の30〜40%が失われたとされています。

油を搾ったあとの亜麻(フラックス)の搾りかすを2.5〜5.0%加えると、酵母が出す二酸化炭素が2.7〜4.7%増えました。一方で、発酵に要する時間は5〜15分長くなりました。5%を超えると苦みや草のような香りが出て、体積は17〜19%減少しました。麻の実の粉や種子は5〜7%で、たんぱく質や食物繊維、オメガ3・オメガ6脂肪酸が増えましたが、10%では気泡が減り、体積も大きく下がりました。アマランサスとチアシードを合わせて5〜10%加えた研究では、必須アミノ酸が4〜12%増えました。アマランサスの粉は体積を10〜18%減らした一方、チアシードは粘り気のある成分の働きで体積を8%増やしたと紹介されています。カボチャのペーストは液状の素材として扱われ、小麦粉に対して25〜30%と多めの量でも有望とされましたが、焼成後に縮みやすく、甘みが出る点も指摘されています。

キノコと使用済みキノコ培地への期待と限界

著者らが特に注目したのはキノコ素材です。キノコには、たんぱく質、食物繊維、βグルカン(多糖類の一種)、ビタミン、ミネラルが多く含まれます。キノコの多糖類は、免疫やコレステロールなどへの作用について研究が進められていると論文は紹介しています。また、ヒラタケ類などに含まれる熱に強い多糖類や、ビタミンB群・Dは、一般的な小麦パンにはないものだと述べています。

生のキノコは水分が89〜93%と多く、そのまま生地に混ぜるのは困難です。そのため、乾燥させて粉末にする方法が主流です。粉末にすると保存しやすく、量も調整しやすくなります。一方で、粉末になるのはもとの重さの7〜12%ほどにとどまり、乾燥に多くのエネルギーがかかり、熱に弱い成分が一部失われることや、キノコ特有の香りが出ることが課題として挙げられています。

論文が新しい方向として示しているのが、キノコ栽培を終えた後の培地(菌糸と、木くずなどの植物繊維の残りが混ざったもの)の利用です。原料費を大きく抑えられ、廃棄物を減らす循環型の生産にも合うとされています。

キノコ素材を加えたパンの研究をまとめると、キノコの種類に関わらず栄養価は高まる傾向がありました。ただし、加える量が一定を超えると、気泡や弾力、体積、色、味が損なわれます。多くの研究では、キノコ粉末が15%を超えるとパンの中身の構造が崩れ、皮が黒ずみ、苦みが出て、体積が大きく減ると報告されています。また、全粒粉に加えた場合は、白い小麦粉に加えた場合よりも色や食感への影響が小さいことも紹介されています。

この総説が示すこと

著者らは、乾燥した植物やキノコの添加物の多くについて、小麦粉の重さに対して5〜10%が適量であり、この範囲であればパンの見た目や味、食感を保ちながら栄養価を高められると結論づけています。液状の植物ペーストでは、25〜30%までが目安とされています。

この総説は、パンの栄養を高める工夫には、何を加えるかだけでなく、どのくらい加えるかが重要であることを示しています。研究者が集めた知見は、食品の加工で出る副産物や使用済みのキノコ培地を活かしながら、日常的に食べられるパンの品質を保つための手がかりを整理したものといえます。

著者:ОЛЕКСАНДР СОКОТ(ТДАТУ)、НІНА БІСЬКО(Інститут ботаніки імені М. Г. Холодного НАНУ, Таврійський державний агротехнологічний університет імені Дмитра Моторного)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):ОЛЕКСАНДР СОКОТ, НІНА БІСЬКО. ВИКОРИСТАННЯ РОСЛИННИХ ТА ГРИБНИХ ДОБАВОК У ВИРОБНИЦТВІ ХЛІБОБУЛОЧНИХ ВИРОБІВ. Herald of Khmelnytskyi National University Technical sciences 2026-10-15. DOI: 10.31891/2307-5732-2026-369-22. 原著ライセンス:CC BY.