気候変動や土壌の劣化が世界の農業に影を落とすなか、「環境再生型農業(リジェネラティブ・アグリカルチャー、RA)」と呼ばれる農法が近年注目を集めています。これは、耕作の仕方を工夫して土壌を健全に保つことを出発点に、農地全体の生態系サービスを取り戻そうとする草の根的なアプローチです。土壌の健康や炭素の貯留、温室効果ガスの削減、農業システムの回復力の向上などに役立つ可能性が指摘されてきました。
一方で、RAが農地の生産性を高めることで人々の暮らしや福祉にどう影響するかは議論されてきたものの、実際に人々の「食事」や「食料安全保障」にどうつながるのかは、これまであまり詳しく調べられてきませんでした。今回紹介する論文は、この点に着目し、ザンビアを舞台にRAと食生活・食料安全保障との関係を調べています。
研究でわかったこと
この研究では、等高線に沿って畑を耕す「等高線耕作」、複数の作物を順番に栽培する「輪作」、作物の残渣などで土壌を覆う「マルチング」といった、土壌に着目した一連の農法をRAとして捉え、ザンビアの2時点にわたるパネルデータ(同じ世帯を時間を追って調査したデータ)を用いて分析しています。
その結果、RAの実践は「家庭の食事多様性スコア(HDDS、どれだけ多様な食品群を食べているかを示す指標)」と正の関連を示すことが報告されています。また、24時間の食事内容をもとにした「食料消費スコア」とも正の関連が見られたとのことです。特に、等高線耕作、輪作、マルチングといった実践が、食事の質の向上や食料安全保障の改善と正の相関を持つことが示されています。
さらに研究チームは、なぜRAと食生活・食料安全保障が結びついているのかを説明する経路として、農場での生産物の多様化、市場への参加、農外での就労、そして収入の4つの可能性を挙げています。食品群ごとに詳しく見ると、RAは卵、豆類、いも類、果物・野菜の消費と正の関連を示しており、これは「農場での生産多様化」がRAと食料安全保障を結ぶ経路の一つである可能性を裏付けるものだとされています。一方で、RAと乳製品の消費との間には負の関連が見られ、これは「市場参加」という経路を支持する結果として解釈されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文はザンビアの小規模農家を対象とした一つの研究であり、観察されたデータをもとにした関連性の分析です。RAの実践と食生活の改善との間に正の関連が見出されたとはいえ、これは因果関係を直接証明するものではなく、他の地域や農業形態にそのまま当てはまるとは限りません。また、著者らはRAと食料安全保障を結びつける経路として生産多様化や市場参加などを挙げていますが、これらはあくまで示唆された説明であり、確定的な結論というわけではない点に留意する必要があります。
まとめ
今回紹介した研究は、土壌を守り育てる農法であるRAの実践が、ザンビアの農家世帯における食事の多様性や食料安全保障と正の関連を持つ可能性を示したものです。等高線耕作や輪作、マルチングといった具体的な実践が、卵や豆類、野菜などの摂取と結びついていることが報告されており、農業生産の多様化がその背景にあるのではないかと考察されています。著者らは、こうした知見が小規模農業においてRAの普及を後押しする意義を持つと述べています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ザンビアにおける食事多様性と食料安全保障のための環境再生型農業(フード・セキュリティ・2026年07月)