アフリカ最大級の人造湖として知られるザンビアのカリバ湖は、ティラピアの一種であるカリバブリーム(学名:Oreochromis mortimeri)や、小型の淡水魚カペンタ(学名:Limnothrissa miodon)の漁が盛んな水域です。魚は良質なたんぱく源である一方、周辺の鉱業・農業・生活排水などの影響で、水中の微量元素が魚の体内に蓄積することがあると指摘されています。今回、ザンビア大学や南アフリカのウィットウォーターズランド大学、ベンダ大学、そして日本の北海道大学を含む研究グループが、カリバ湖畔の町シアヴォンガの市場で売られている魚を対象に、含まれる微量元素の種類と量、そして食べ続けた場合の健康リスクを調べました。
何を、どうやって調べたのか
研究チームは2021年11月と2022年8月の2回、シアヴォンガの市場で魚を購入しました。1回目は生のカリバブリーム28匹、天日干しのカリバブリーム5匹、天日干しカペンタのサンプルを、2回目は生のカリバブリーム6匹、天日干しカリバブリーム5匹、天日干しカペンタ4ロットを集めています。筋肉部分を取り出してマイクロ波分解装置で処理したうえで、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)という手法により、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、セレン(Se)、アルミニウム(Al)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、鉛(Pb)という11種類の元素の濃度を測定しました。得られた値は、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が定める食品中の許容上限値と比較されたほか、子どもと大人それぞれについて、週あたりの推定摂取量(EWI)や、非発がん性の健康リスクを示す指標(THQ、複数元素を合算したHI)、発がんリスクの指標も計算されています。
わかったこと
検出された元素の順位は魚の種類や年によって異なりましたが、共通していたのは鉄とアルミニウムが多くの試料で上位を占めた点です。特に注目されたのがクロムとマンガンで、いずれの試料でもFAO/WHOの許容上限値を上回りました。クロムについては、天日干し・生のブリームで15〜19.5mg/kg程度の濃度が検出され、これはFAO/WHOが定める食品中の許容上限値(1mg/kg)のおよそ15倍に相当すると報告されています。また鉄も、2021年の生ブリームを除くほとんどの試料で上限値を超え、亜鉛も2022年の天日干しカペンタで上限を上回りました。一方、カドミウム・水銀は全ての試料で検出されず、鉛も2022年の生ブリーム1件でごく微量(0.06mg/kg)検出されたのみでした。ヒ素やセレン、銅はおおむね許容範囲内でしたが、2022年の試料ではセレンが上限を超える例もありました。研究チームは、生魚をアルミ箔で包んで保存していたことにも触れ、一部試料で高かったアルミニウム濃度がこの保存方法による混入の可能性があるとしています。また、ヒ素については湖上流での石炭採掘や地質、あるいは市場周辺の交通量の多い屋外で天日干しする際の混入などが要因として考えられるとされました。これらの元素濃度をもとに算出した非発がんリスクの指標(THQおよびHI)は、一部の元素で基準値の1を上回り、長期的に食べ続けた場合に健康への潜在的リスクがある可能性が示されました。ただし論文の結論部分では、今回の結果は魚を食べること自体に明確な危険を示すものではないとも述べられており、上限値超過の背景には水揚げ後の取り扱いや加工工程の影響がある可能性が指摘されています。
この研究の位置づけと注意点
この研究は、カリバ湖の魚における微量元素の状況を継続的に監視した調査の一つであり、著者らは、これまでカリバ湖の汚染状況やザンビアの市場で売られる魚のリスクを扱った研究が限られていたこと、特に乾燥カペンタを対象とした研究がなかったことを指摘しています。相関分析では、同じ元素同士でも魚の種類や採取した季節によって関連の仕方が異なり、明確な共通パターンは見られなかったとされ、著者らはこれを食物連鎖上の違いや、雨季における陸域からの流入、水揚げ後の天日干しといった処理工程などが影響している可能性として挙げています。研究チームは今後、水揚げ後の取り扱いや湖周辺の土地利用活動についてさらに調査する必要があるとしめくくっており、今回の結果だけで湖の汚染源や健康影響を断定できるものではない点に留意が必要です。
まとめ
今回の調査では、ザンビア・カリバ湖産の生魚・乾燥魚から、クロムや鉄、マンガンなどの元素がFAO/WHOの許容上限値を上回る濃度で検出された一方、水銀やカドミウムといった毒性の強い元素はほとんど検出されませんでした。長期摂取を想定したリスク指標では一部の元素で基準を超える結果も示されており、著者らは水揚げ後の取り扱いや湖周辺の環境要因についてさらなる調査が必要だとしています。一つの調査地・一つの時期にとどまる研究であり、ここから得られた知見が直ちに他の湖沼や地域に当てはまるとは限りません。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Phaphedi M Poopedi, Sinegugu Khulu, Kawawa Banda, et al. Monitoring and Human Health Assessment of Trace Elements in Fresh and Dry Fish From Lake Kariba, Siavonga, Zambia. バイオロジカル・トレース・エレメント・リサーチ (2026). DOI: 10.1007/s12011-026-05263-7. 原著ライセンス: cc-by.