この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Plant Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

化学肥料の使いすぎは土壌や環境への負担が指摘される一方で、単純に窒素肥料の量を減らせば作物の収量や品質が落ちてしまうことも知られています。そこで注目されているのが、化学窒素肥料の一部を有機肥料に置き換える『有機肥料代替』という方法です。この方法がなぜ収量や品質の維持・向上につながるのか、その体の中の仕組み(生理的なメカニズム)はこれまで十分にわかっていませんでした。今回紹介する研究は、雑穀の一種であるアワ(Setaria italica L.)を対象に、この仕組みを詳しく調べたものです。

植物の生育を考えるとき、光合成によって糖などの栄養分を作り出す葉などの部分を『ソース(供給源)』、その栄養分を受け取って実る穂や種子などの部分を『シンク(受け皿)』と呼びます。おいしい米や雑穀が実るには、ソースからシンクへ栄養がうまく運ばれる必要があります。この研究では、通常の窒素施肥量(150 kg/ha)を基準とし、窒素を15%または30%減らした区分と、その削減分の15%または30%を有機肥料で置き換えた区分を設定し、アワの『ソースとシンクの成長の動き』や、葉の光合成に関わる特性を比較しました。

研究でわかったこと

まず、窒素肥料を15%程度減らす『穏やかな削減』では、アワの収量や品質に目立った悪影響は見られなかったと報告されています。一方で、窒素を30%削減した場合には、穂の重さと総収量がそれぞれ5.6〜8.9%、9.5〜11.2%有意に減少し、黄色色素・でんぷん・タンパク質の含有量もそれぞれ15.4〜30.1%、2.7〜3.6%、5.7〜9.2%低下したとされています。あわせて、ソースとシンクの働き(活性)もそれぞれ21.9〜27.3%、6.1〜14.1%抑えられていたということです。

これに対し、窒素の30%を有機肥料で置き換えた処理(N+30org)では、通常施肥と比べて収量が17.3〜23.5%、タンパク質含量が6.6〜12.2%、でんぷんの性質を示すアミロペクチン/アミロース比が7.5〜17.9%、それぞれ有意に増加したと報告されています。つまり、単に窒素を減らすと収量・品質は落ちるものの、その一部を有機肥料で補うと、通常施肥を上回る結果になったということです。

さらに詳しく見ると、N+30org処理では、開花後30〜40日という登熟後期(実が熟していく後半の時期)において、葉の茂り具合を示す葉面積指数(LAI)が7.0〜11.3%、光合成の速さを示す純光合成速度が10.6〜21.2%、蒸散速度が12.1〜24.4%、気孔の開き具合を示す気孔コンダクタンスが9.6〜16.4%、光合成に関わるPSIIの量子効率が13.2〜15.7%、それぞれ高まっていたとされています。また、シンク側の活性がピークに達するまでの時間が6〜11日長くなり、ソース・シンク双方の活性が高まったこと、シンクが蓄えられる最大量が9.8〜15.7%拡大したこと、シンクとソースの比率が8.7〜11.4%増加したことも示されました。

研究チームは、統計的な重要度分析(ランダムフォレスト)や、変数間の関係性を分析する手法(PLS-PMと呼ばれるモデル)も用いて検討しており、収量の決まり方はソースとシンクの関係と密接に結びついている一方、品質の形成にはキャノピー(群落)全体の光合成特性が関わっている可能性が示唆されたとしています。総じて、窒素の30%を有機肥料で置き換える戦略は、登熟後期における光合成能力の低下を緩やかにし、窒素削減によって生じるソース側の供給不足を和らげたと考えられ、その結果としてソースとシンクの能力・活性が高まり、高収量と高品質の両立につながったとまとめられています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、アワという特定の作物を対象に、特定の窒素削減率・有機肥料代替率の条件下で行われた栽培試験に基づくものです。異なる作物や土壌、気候条件、施肥設計のもとでも同様の結果が得られるかどうかは、この要旨からは判断できません。また、収量や品質への効果は報告された数値の範囲(例えば収量で17.3〜23.5%の増加など)として示されており、条件によって効果の大きさが異なる可能性がある点にも注意が必要です。この研究はあくまで一つの研究であり、農業上の結論が確定したわけではありません。

まとめ

今回紹介した研究では、アワにおいて化学窒素肥料の30%を有機肥料で置き換えることが、単なる窒素削減とは異なり、登熟後期の光合成能力を維持しながらソースとシンクの働きを高め、収量とタンパク質含量、でんぷんの質といった品質面の指標を同時に向上させる可能性が示されたと報告されています。化学肥料への依存を減らしつつ作物の生産性を保つ方法を考えるうえで、こうした生理的な仕組みの理解は一つの手がかりになりそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):有機肥料代替によるソース・シンク動態とキャノピー光合成の協調がアワの収量と品質を相乗的に向上させる(フロンティアーズ・イン・プラント・サイエンス・2026年08月)

著者:Changhong Liu(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Yizhou Liu(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Ling Qin(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Yanbing Yang(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、F.C. Li(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Huawen Zhang(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Hailian Wang(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Runfeng Wang(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Yingxing Zhao(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Bing Liu(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Erying Chen(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)、Yanan Guan(Featured Crops Engineering Laboratory of Shandong Province, Crop Research Institute, Shandong Academy of Agricultural Sciences)