穀物やキャッサバなどをすりつぶす食品加工の現場では、鋳鉄でできた砥石(グラインディングホイール)が広く使われています。西アフリカの家庭用食品加工でも、表面が硬い「白鋳鉄」の層で覆われ、内部を粘り強い「ねずみ鋳鉄」が支える構造の砥石が使われていますが、これらは使ううちに摩耗が進み、劣化してしまうことが課題とされてきました。今回紹介する研究は、この砥石の摩耗のしくみを、金属の内部構造(微細組織)と熱処理の関係から科学的に調べたものです。
これまで、砥石を熱処理した際に摩耗のしやすさ(摩耗係数)がどう変化するのか、また摩擦と摩耗がどのように結びついているのかは、定量的に明らかにされていませんでした。そのため製造者にとって、どのような処理が望ましいのかを判断する材料が不足していたといいます。
研究でわかったこと
研究チームは、実際に現地で製造された砥石(炭素3.35重量%、ケイ素1.80重量%を含む)から試料を採取し、「焼なまし」「焼ならし」「焼入れ」「焼戻し(700℃・750℃・800℃)」という異なる熱処理を施しました。そのうえで、硬さをブリネル硬さ試験で測定し、内部組織を光学顕微鏡で観察し、摩耗の性能はアーチャードモデルという計算手法を用いて評価しています。
その結果、鋳放し(熱処理をしていない状態)の材料は229HBWの硬さを示した一方、いずれの熱処理を行っても硬さは低下したと報告されています。水で急冷する「焼入れ」を行っても、ケイ素の含有量(1.80重量%)が焼き入れによる硬化のしやすさを妨げるため、硬い組織である「マルテンサイト」は生成されなかったとされています。
摩耗量についても、鋳放し材では計算上250mgだったのに対し、熱処理を施した条件では310〜3,400mgまで増加し、最大で約1,300%の増加に相当したと報告されています。これは、熱によるエネルギーが、摩耗に強い組織である「セメンタイト」の分解を促すためと説明されています。また熱処理によって摩耗係数は最大830%増加し、摩耗の仕方も「マイクロカッティング(微細な削れ)」から「プラウイング(えぐれるような摩耗)」へと変化したとされています。
さらに、想定される使用可能期間についても試算されており、鋳放しの砥石ではおよそ21か月使用できると見積もられたのに対し、焼なましを行った砥石では約2か月にとどまり、年間コストでは14倍の差に相当すると報告されています。こうした結果から、この研究では製造者に対し、熱処理よりも鋳造時の条件を重視することを優先すべきだと述べられています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この記事で紹介した内容は、特定の組成(炭素3.35重量%、ケイ素1.80重量%)を持つ、現地で製造された1種類の砥石を対象とした研究に基づくものです。使用する原料の配合や製造条件が異なる砥石では、結果が異なる可能性があります。また、今回の摩耗量や使用可能期間の数値は、実際の使用データそのものではなく、アーチャードモデルという計算手法にもとづく試算である点にも留意が必要です。あくまで一つの研究であり、今回の知見がすべての鋳鉄製砥石に当てはまると結論づけられたわけではありません。
まとめ
今回の研究では、食品加工用の鋳鉄製砥石において、熱処理を行うと硬さが低下し、摩耗のしやすさが大きく増加する可能性が示されました。特に、ケイ素の含有量が焼き入れの効果を妨げていたことや、鋳放しの状態のほうが熱処理材よりも長く使え、経済的である可能性が示唆されている点は興味深い結果といえます。今後、こうした知見が実際の製造現場での改善にどうつながっていくのか、注目されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:微細組織制御による食品加工用チルド鋳鉄製砥石の最適化(国際現代科学研究技術ジャーナル・2026年08月)